第6話 父上との話し合い

今日は父上「ライナー・バルディア」が帰ってくる。


父上に相談したいことがあると、ガルンに相談すると彼からも父上に話しておくと言ってくれた。


ちなみに僕から話したいことは二つ。


一つ目は魔法や武術など様々な勉強を始めたいということだ。


僕、リッドはゲームでは主人公補正による経験値増加等が無かった。


強くなれるとわかっていても、成長に時間がかかる。


この世界においてもその設定が生きているのであれば、早く強くなれるように修練することに越したことはない。


二つ目は少し自由に使えるお金が欲しい。


目標にある将来に備えての金策、だが現状では元手もない状況だ。


この点に関しては、父上の力を借りるしかない。


身近な高級品を売る方法もあるが、後々問題にもなる可能性もあるので最後の手段にしたい。


さて、書斎で本を僕はずっと読んでいるわけだが、面白いことがわかった。


この世界にある植物や鉱物などは基本的に前世の世界と名前も含めて、変わらないものが多くあることがわかった。


もちろん独自のものある。


「これなら、金策の目途が付くかもしれない。商人を呼んでこの世界で作れて、持続的に供給可能なものを……」


本を読みながら今後の考えをまとめていると、可愛らしい声で不満が聞こえてきた。


「……にーちゃま、つまんなーい」


「ああ、ごめん。そろそろ絵本を読もうか」


「いいの? やったー‼」


先日、メルに絵本を読んであげたら凄く喜んでくれた。


僕が書斎にいる時はメルも一緒に過ごすようになった。


絵本を読んであげるとメルはすぐ内容を理解するので、とても賢いのがわかる。


僕の妹は天才じゃないだろうか。


メルのお付きで一緒に書斎にいるメイドのダナエが「やれやれ」という顔で見ているのは多分、気のせいだ。


「ゴホン、リッド様。ライナー様が執務室にお呼びでございます」


いつの間にか書斎のドアの前でガルンが咳払いをしながら立っていた。


「……わかった。すぐに行く」


「よろしくお願い致します。では、私は先にライナー様の所に戻ります」


ガルンは僕に必要なことだけ言うと、一礼をしてから先に書斎を出て行った。


「ええ‼ にーちゃま、行っちゃうの……」


「ごめんね。絵本はまた後でね」


「うう……」


絵本を読んでもらえると思った矢先に、僕が父上に呼ばれてメルディがぐずりそうになる。


すかさずダナエが「お嬢様、私が代わりにお読み致しますね」と声をかけてご機嫌をとる。


彼女の言葉で機嫌を直したメルから「あとで、えほんよんでね。やくそく‼」と言われ、「うん。約束」と返事をすると父上に呼ばれた執務室に向かった。


部屋の前に着くと、僕は緊張した面持ちで執務室のドアをノックする。


「入れ」とドアの向こうから重圧のある低い声が聞こえてきた。


「失礼します」と執務室の中に入るとそこにはガルンも立っていた。


彼が先に戻ると言ったのは父上の仕事を手伝う為だったらしい。


父上は執務室の机の椅子に座り書類作業をしていたが、僕が執務室に入ってくると手を止めた。


僕を鋭い目でみると、低い声で言った。


「……庭で倒れたと聞いているが、体調は大丈夫か?」


「はい。今は何も問題ありません」


「そうか」


父上「ライナー・バルディア」は僕と同じ白銀の髪で瞳の色は紫だ。


感情を読ませないように常時、無表情で顔つきが強面だ。


特に目力が強いので、通常の子供なら泣いて逃げだしそうな雰囲気がある。


「ガルンから話があると聞いたが、どういった内容だ?」


「はい。まずは今日、お時間頂けたこと感謝致します。そして、お願いしたいことは二つあります。一つ目は、私に魔法、武術、その他さまざまな勉強を教えて頂ける家庭教師をお願いしたく存じます」


「……ふむ。その件であれば、以前から考えていたがお前の精神状況や屋敷内での態度を考えると難しいと先送りしていた。まさか本人から申し出を受けるとはな。本当に大丈夫なのか?」


父上の言葉に少し驚いた。


屋敷にいて僕やメルと会話するわけでもないのに僕の精神状況などを見て、家庭教師等の時期をずらしているとは思わなかった。


でも、それなら僕達ともっと向き合ってくれても良いのではないだろうか? 


という疑問も同時に浮かんできた。


父上は表情を崩さず、じっとこちらを見つめている。


僕は深呼吸をしてから胸を張り、自信を持って答えた。


「はい。ご心配おかけして申し訳ありませんでした。私自身、母上が日々弱っていくお姿を間近で見てしまい、一時期は心が荒んでおりました。ですが、それだけでは何も解決しないと気付きました。私自身を磨くことで母上のお力になれることもあると存じます。家庭教師の件をよろしくお願い致します」


「わかった。そこまで意志がはっきりしているのであれば大丈夫だろう。すぐに手配しよう。さて、二つ目はなんだ?」


僕の言葉を聞いたライナーは安堵したような嬉しそうな表情を少しみせたが、すぐ無表情に戻ると次の質問を持ってきた。


「はい。二つ目は恥を忍んでのお願いになりますが、私個人が好きに使える資金を用意して頂きたいのです」


「……何の為だ?」


声の重圧が強くなり、父上の一言で執務室の空気が変わる。


部屋の中には重苦しい雰囲気が漂っている。


「書斎での様々な資料を調べているうちに、いくつか有用な商品になりそうなものがありました。それを実行してみようと思っております」


「通常なら資金提供をする側に、提出する資料などがあるはずだ。それもなしに資金提供だけをしろというのか?」


「はい。仰る通りです。今回は私自身に投資して頂きたく存じます。父上であれば我が子の才能を信じて頂けると思い、恥を忍んでお願いしておりますがいかがでしょうか?」


これは賭けだ。確かに父上の言う通り、確実に資金提供を求めるのであれば資料を用意すべきだ。


だけど、資料を準備するにしても時間が、かなりかかってしまう可能性が高い。


母上のことを考えると恐らくあまり時間はない。


その為、僕は一か八かの勝負に出た。


時に熱意は人の気持ちを動かす、それが親子であれば尚更だと思う。


家族としての繋がりがあることが前提だけど、父上は僕の事を見ていたような発言をしたからきっと承諾してくれると思う……‼


僕の言葉を聞くと父上は眉間にしわを寄せ、そのしわを右手の親指と人差し指で揉んでいる。


僕は父上の顔を、食い入るように見ていた。


父上は僕の視線に気づくと小さくため息をついた。


「ふぅ……わかった。お前に幾らか自由に使える資金を用意しよう。『有用な商品』と言っていたからには、何か商売でも考えているのだろう? 商売用の資金なぞ子供には過ぎた金額だが、そこまでの大口を叩くのであれば有効に使ってみるのだな」


「……‼ はい、ありがとうございます‼ 必ず期待に応えてみせます‼」


執務室に入った直後よりも、父上は少し機嫌が良さそうである。


もう一押しいけるかな?


「父上、折角なので、もう一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」


「なんだ? 資金の話ならこれ以上は無理だぞ」


「いえ、そうではありません。私もですがメルも父上とあまり話が出来ずに、少し残念に思っております。良ければ朝食や夕食などはご一緒できないでしょうか?」


「メル」という言葉にライナーの額がピクッと動いた。


「考えておこう。……ところで、お前はメルディのことをメルと呼んでいるのか?」


「え? はい。メルから、母上にもそう呼ばれているから、私にもそう呼んでほしいと言われましたので」


「そうか……用件は以上か? 無ければもう下がれ」


父上は目を閉じて何か少し考えているようだ。


僕はその様子を見ながら「失礼しました」と執務室を退室した。


ドアを閉める時、父上とガルンが何か話している様子が気になったけど、その場を後にして僕は書斎に向かった。


「よし、思った以上にうまくいった。軍資金は手に入ったから、あとは商人を探す感じかな」


父上との交渉が想像以上にうまくいって、僕は忘れていた。


メルに絵本を読むという約束を……


しばらくすると、書斎のドアが勢いよく開け放たれた。


何事かと思い、目をやるとそこには半ベソ状態のメルが凄い顔をして立っていた。


その時、僕は自分が約束を忘れていたことを思い出した。


「メ、メル、ごめ……」


「にーちゃまの、うそつき‼ うそつきぃい‼」


謝ろうとした僕の言葉に、被せるようにメルは泣き叫びながら僕に抱きついて来た。


僕に「ポカポカ」と痛くないパンチをしながら、メルは怒ってめちゃくちゃに泣いていた。


僕はそんなメルを抱きしめながら「ごめんね、メル」と呟きながらあやしていた。


その後、泣き止んだメルが満足するまで、絵本を僕が読まされたのは言うまでもない……

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