乙女の旅

雨世界

1 ねえ、覚えてる? それとも、もう忘れちゃったかな?

 乙女の旅


 ねえ、覚えてる? それとも、もう忘れちゃったかな?


 好きなんだ。だから会いに行くんだよ。


 古い歴史ある小さな家の縁側で、ぼんやりと小さな丸いテーブルの上に片膝をついて、よく手入れをされている立派な庭に降っている静かな雪の風景を見ている高校生の少女がいる。

 少女の名前は美山乙女と言った。

 乙女は自分の通っている高校の赤いスカーフと白と紺色をした制服をきている。

 乙女はもうさっきからそのままの姿勢で二時間くらいぼんやりとしながら雪をじっと見ている。

 でも、本当は乙女は雪を見ていない。

 乙女はもっと別のものをその風景の中に見ていた。

 乙女はさっきからずっと考えごとをしている。

 いろいろと難しいことを考えているのだけど、簡単に言ってしまうと、美山乙女は今、恋をしていたのだ。同じ年頃の少年少女たちと同じように。

 恋に迷ってしまっていたのだ。

 その理由は乙女の恋の相手にある。

 乙女の恋の相手は学校の先生だった。

 乙女の通っている高校で古典の授業を担当している先生。(乙女の教室の担任の先生でもある)

 その先生の名前は春山古風と言った。

 ……先生。今頃なにしているだろう? ご飯一人で食べてるのかな?

 そんなことを頭の中で呟いてから、乙女はようやく縁側から動き出して、桜色のエプロンをつけてから家の家事を始めた。

 がしゃん! と言う大きな音がして、乙女が洗い物をしていたキッチンでお皿(大切なお気に入りのお皿だった)を割ってしまったのは、それからすぐのことだった。

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