20.エピローグ

「ミルティアが後見人になってくれたのも、俺を守る為にした事だとわかっている。だが惚れた女に守られ続けるのは、恥ずかしい。だから鍛練だけは欠かしていない。いつかお前より強くなる」


 頬を再び赤らめるカイン。けれどしっかり私の目を見て宣言される。


 何なの?! 私をキュン死させたいの?! ツンデレのデレしかない、デレデレの甘々じゃない?!


 さっきから顔が熱いし、にやけるし、本当に足元がふわふわする! カインが私の両肩に、ずっと手をホールドしていて逃げられないわ! もしかしてミルティア至上、今が人生最大のピンチじゃない?! 何のピンチかわからないけれど!


「その、カイン、あなた、どうしちゃったの? ずいぶんと甘い言葉を……」

「ひねくれて、素直にならなかったせいで随分遠回りしたんだ。柄じゃないのもわかっている。正直、素直に想いを伝えるのもやっぱり恥ずかしい。でも……」


 カインが私の頬を両手で包む。瞬間、顔が……。


「ミルティアの、そんな顔を見られるのなら悪くない。その、お前が照れて真っ赤になってるのが……可愛い」

「ふぐっ」


 まずい、まずいわ! 他らならぬカインに言われると腰が砕けて今にもへたりこみそう!


 初めて見るカインのうっとりした甘いご尊顔が、目の前にあるの! 殺傷能力の高い、顔面凶器よ?! なのに私ったら色気も何もない妙な声が勝手に出ちゃった! 窮地に陥るってこんな時に使うんじゃない?!


「今日のこれも兄貴達に頼んだ。せっかくの結婚式なのはわかっていたが、この機会を逃したらお前と二度と会えないかもしれないだろう? なりふり構っていられなかった。それとお前の気持ちが俺にあってもなくても、俺はもうお前を手離すつもりはない。だけどあの時みたいに、あんな風に泣かしたくもない。だから教えて欲しい。まだこんな情けない俺を……愛してくれているか?」


 真剣に、けれどとても切ない顔でそう問われたら、応えるしかないじゃない。


「もちろんよ、私の愛しい人。ずっと愛してた! 愛しているの! 愛させて!」


 そのままカインの首に飛びついて抱きつけば、ちゃんと抱きしめ返してくれる。


 嬉しい! もうこの長い初恋を諦めなくていいのね! 愛してもいいのよね!


 自然と涙が溢れて、鼻をグズグズ鳴らしてしまうわ。


「泣かないでくれ。父さんと兄貴達に殺される。俺も愛していたし、愛している。お前を一生愛させてくれ。俺の愛しい人」


 少しだけ体を離したカインは、そう言って口づける。


 私も目を閉じて受け入れたわ。


「「「「きゃあああああ!」」」」

「「「「やったー!」」」」

「「「「おめでとう!」」」」


 穴の上からどっと歓声が沸き起こり、口々にお祝いの言葉が贈られる。


 見上げれば……やだ! 皆がここをのぞきこんでいるわ!


 でも恥ずかしいけれど、きっとこれから良い思い出になるはず。だってカインと二人して顔を見合わせて、私達も笑っちゃったもの。


 こうしてこの辺境領の類をみない、領内あげてのビッグイベントは大成功。


 この日の為にフォーメーションを組んで、何度も予行演習したんですって! 皆への金一封は私から、上乗せ大奮発よ!


 せっかくだからと影に収納していたクイーンキメラと、狒々の下処理済みのお肉を領民の奥様方に手渡したの。そうしたらお兄様達の結婚式は、バーベキュー大会に早変わり。


 でもあまりにも珍しいお肉に、今日の主役達も皆で喜んでくれたから結果オーライね。二つの辺境地に嫁ぐのに相応しい、新婦さん二人とその家族達で良かった。


 何より、肝が据わった美人なお義姉様達ができて、私も嬉しくなっちゃった。


 クロちゃんとお花ちゃんも、ミニサイズで影から出てきて、領の子供達は大喜び!


 余興で考えていた夜空に咲かせる、火と光の魔法を使う大輪の花。ミニ竜達がノリノリでドドンと何発も打ち上げたからか、最後は人気者になっていたわ。


 そして私を捕まえたカイン。


 彼は当然のように報奨として私を望んでくれた。領主のお父様に改めて問われるまでもない。喜んで私を差し出すわ。


 もちろんこれは、ミルティア捕獲大作戦を企画した時から決められていた、暗黙の了解褒賞だったみたいね。


 お父様ったら自分であんな宣言を声高々にしておいて、やっぱり嫌だーって泣いちゃうんだから。相変わらずお茶目ね。


 お兄様達もさめざめしていたけれど、新妻達に慰められていた。微笑ましい限りよ。


 もちろん一緒に参加していた神父さんにお願いして、その場で私とカインは晴れて夫婦となったの。お付き合いをすっ飛ばした、電撃結婚ね。


 そして十年ぶりくらいかしら。数日間生家に滞在して、ゆっくりと羽根をのばせたわ。


 私の部屋はずっと、そのままにしてくれていた。両親に、いつでも帰っておいでって言われた事が心から嬉くて、泣いてしまったわ。


 私は籍を抜いている。けれど養子になったカインと夫婦になった事で、再び娘と妹に戻れた。その事実が、本当に嬉しかった。


 カインはそんな私を、優しく見つめて寄り添ってくれていたの。


――そして私は再び旅立つ。


「行きましょう、愛しい旦那様」

「ああ、行こう。愛しい奥様」


 もちろん夫婦二人で、手を繋いで。




ー完ー

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