16.結婚式の余興依頼

「もう、お兄様達ったら。水臭いんだから。ギルド経由で合同結婚式の余興を私に頼むだなんて」


 私はクロちゃんの背に乗って、家族のいる辺境領に向かっている。


 今朝になって突然、余興の依頼をギルド経由でお願いされたわ。それも生家の合同結婚式で、だなんて。


 余興も指定されていたのにはビックリ。王女、あ、今はあの子、王妃だったわ。王妃の結婚パレードでクロちゃんとやった余興が、いつの間にか有名になっていたのかしら?


 でも王妃や王妃の母国でも限られた人間ならともかく、それ以外の人で私がやったと気づける人なんていたの? 王妃達が外部に漏らしたとは思えないし。


 そもそもS級冒険者に依頼って、とってもお高いの。ギルド本部が手数料と称してぼったくるんだもの。もちろん私の手元に入る報酬も高いのだけれど。


 結婚式の余興に、一体いくらつぎ込むつもり?


 少なくとも次兄が元死の森の領主になったり、二人の兄達が結婚する事も知ってはいたの。でもS級冒険者になった私は、戸籍を離脱していた。


 だから誘われない限り、お兄様達の結婚式には出席しないつもりだったのよ。そりゃあ誘って欲しかったけれど……。


 あら? でも逆にどうやって向こうから誘うのかしら?


 そういえばカインの一件以来、まともに一ヶ所に留まったのだって、あの王妃が王女だった時のお城くらい。


 王女と出会ったあの時は、たまたまお花ちゃんとクロちゃんのお散歩中。ちょうどロッククライミングの気分になって、岩や崖をよじ登って頂上を目指していたの。


 ちなみに竜達は翼を使って先に頂上までひとっ飛びよ。


 そしたら、いきなり何かが崖下から跳んでくるじゃない? 岩場の出っ張りを掴んで崖にへばりついてたから、背後を取られた形ね。


 仕方なく大きなトゲトゲの付いた首輪を亜空間から取り出して、ブン、て振り返り様に鞭のように振り回したわ。


 ケルベロスのベロちゃんが首に装着していただけあったみたい。狙い通り鋭いトゲトゲは剣のようにして、首をスパっと切断したのよ。大きな体躯の狒々ひひだと認識したのは、その直後。


 どうでもいいけれど、ベロちゃんは元気にやっているのかしら?


 ベロちゃんは、あるダンジョンで出会った三又頭のワンちゃん。仲良くなりたくて、お散歩に連れ出したの。けれどお久しぶりのお散歩だったのか、感極まったのね。


 ダンジョンから外に出てすぐよ。涙を流しながら私が掴む首輪から頭を引っこ抜いて、ダンジョンへと戻ってしまった。


 あの時ベロちゃんの落とした涙から、花が生えた。花は黒紫色でウゴウゴ波打っていて、珍しい品種。


 きっとお礼のつもりだったのね。その気持ちが嬉しくて、ニコニコしながら摘んで持ち帰ったわ。


 だけど深夜。花がモゴモゴ話し始めたの。

 深夜に起こされて機嫌が悪くなったのね。お花ちゃんに燃やされちゃった。


 ふふふ、話が脱線したわ。


 話を戻すけれど、重力に従って落ちていく狒々の胴体が、なんと王女様を脇に抱えてたの!


 これには背筋が凍ったわ。だって首じゃなく、胴をスパッとやっていたら間違いなく……ねえ?


「きゃあああああ!!」


 それはそうと、舞台で見た悪役令嬢がヒロインを階段から突き落とすシーンよりも、真に迫った叫び声。声の主はもちろん王女様よ。


 私もいつか、そんな悲鳴を可憐に上げてやる! 悪役令嬢だろうと、悪女だろうと、魔女だろうと、いつかやってやるんだから!


 なんて闘志を燃やしつつ、空中で狒々の黒い胸毛を引っ掴む。グイッと巨体を寄せて、狒々の腕から王女を奪取。魔法で風と重力操作をして華麗に着地。かなりの高さだったけど、これでもS級冒険者ですもの。楽勝よ!


 だ・け・ど! 直後に予想外のハプニング!


 狒々の体が私達とほぼ同時に落ちた。これはまあ、ビシャッと膝から下あたりが血で汚れたけれど、仕方ないわね。


 狒々の生首と大量の血。この二つが問題だったの。


 上から降ってきた生首は殴り飛ばしたんだけれど、その分増量された血がドバーッと……。


 王女と一緒に頭からもろかぶり。あっという間に、いつぞやの鮮血の魔女へと二人して変身。これには金髪碧眼の王女様共々、呆然としてしまったわ。


 しかも狒々の血が、いつぞやのお花ちゃんの時と同じで落ちない! 正直、お花ちゃんの時よりしつこいのにはまいったわ。


 完全に色が落ちるまで王女様に誘われるまま、お城で過ごす事に。きっとお城で一人だけ真っ赤なのが、王女にとって恥ずかしかったに違いない。


 更に、やっと色が落ちたかと思ったら、今度は二人して人外……この世の世界じゃない者? 幽霊みたいなの? が、見えるんだもの。ビックリ。


 王女様はびびりまくって泣き出すし、父親の国王は魔女の呪いか、とかいちゃもんつけてきたわ。あの時は本当にムカついちゃった。


 思わず国王の胸ぐら掴んで、お花ちゃんとクロちゃんを影から召還して脅してやったわ。


 本当に王女様を呪うついでに、お城を吹き飛ばされたい? それとも王女と私で深夜のお城探検をしながら、目を慣らしていく?


 さあ、どっちにする? てね。


 後で見つけた古書。お城の王族しか閲覧できない禁書コーナーにあったの。


 そので古書に、狒々の血には染色やこの世に在らぬ者を見る効果があるって書かれていたわ。納得ね。


 国王にも自慢気に見せてあげた。そうしたら禁書コーナーに立ち入ったなって叱るのよ。今度はクロちゃんだけ呼んだわ。


 まあそんな感じで密に過ごしたからね。王女と仲良くなったわ。


 だから結婚式のパレードで聖竜であるクロちゃんと一緒に、光魔法で余興してあげた。


 まさか辺境にいる、噂に疎いお兄様達にまで広まっていたなんて。


 まあ私に直接連絡しなかった事は、不問にしましょう。ギルドと違って私との直通の連絡手段が無かったのだもの。すっかり忘れていたわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る