15.辺境一家のご先祖様〜カインside
そしてミルティアだと確信したのが、この噂だ。
【噂その3】
出現率が伝説級の
知能が高い上に、対峙する敵の心が読めるせいでなかなか攻撃がヒットしない。更に風雲を呼び寄せるから、冬に出くわすと高確率でそこら辺一帯に大雪を降らせる。馬鹿力で大人を片手で投げるだけじゃなく、引き裂く事もできる。時には人を襲って食べたりもする。
だが何よりの悪癖は、女子供を連れ去る事だ。連れ去られた者の末路は定かではない。
そいつがどこかの国の王女、それも美姫と名高い王女を拐った。
どこかの国はS級冒険者の中でも、死の森を浄化したと誉れ高い鮮血の魔女を名指しで依頼した。金に糸目をつけないくらい、王女を大切にしてたんだろうな。S級冒険者への指名依頼料には、とにかく金がかかる。
ところがだ。ギルド本部が受けつけてからほんの数時間後。
鮮血の魔女は依頼した国王の前に、忽然と現れた。
呆然自失の王女と狒々の生首を、それぞれの脇に抱えて。その姿は正に鮮血の魔女らしい出で立ちで、全身を朱に染めていたとか。
それも
何かにとんでもないショックを受けた王女は、毎晩何かに怯えて過ごすようになった。
狒々ではなく魔女の呪いにかかったのではと、後日談として噂がその国の王城を中心に出回っていたという。
更に後日談。泣き濡れて憂う王女は、大層麗しく色めいていたとか、いないとか。
その儚さが相まって、噂は更にあらゆる憶測を孕み、大陸を駆けた。
どこぞの見目麗しい王子達が陸を、海をはるばる渡って隊列を組んで求婚したとか、しないとか。
ただ、俺は思う。
呪った云々の後日談は、間違いなく単なる噂だ。ミルティアだったら呪うなんて面倒な真似はしない。手っ取り早く物理的に殺す。
だが求婚に関しては本当だったのかもしれない。
数年前に笑顔を取り戻した王女が、どこぞの国の王妃となっている。
その結婚パレードの際、白竜が上空に現れて白金のキラキラした光を振り撒いて祝福していた話を、他の国にいた俺は聞いた。
話していた商人は、遠目で定かではないが白竜の背中に人がいた気がすると言っていたんだ。
これは絶対ミルティアだと直感した。勿論ミルティアがS級冒険者なのは、彼女が両親に宛てたあの手紙で知っている。
あの裏切りの直後、ミルティアが俺の後見となってくれた事で王女の奪還依頼が本当だった事も、ギルドに確認すると教えてもらえた。鮮血の魔女であるミルティアが、赤竜をテイムしているのも然り。
そしてあの時の会話だ。俺が死の森で何をしているのか聞いた時。
『それで、結局お前は何をやっている?』
『うーん、そう、ねえ……魔竜様の下僕?』
『冗談は……』
『あら、冗談じゃないわよ? だって私、昔から可愛い小動物が大好きだもの』
ミルティアが浄化した死の森に、魔竜はいなかった。ミルティアは魔竜について、ギルドに
殺したとか、討伐したとは報告していない。そもそもあの時ミルティアは魔竜にぞっこんだった。
とはいえギルドに嘘をついたとも思えない。
だとすればミルティアが魔竜を浄化して、その後魔竜は恐らく元の姿を取り戻したんじゃないだろうか。
そこで魔竜の起源について調べた。意外にもその答えは、すぐに見つかった。
ミルティアの実母であり、俺の義母によって。
ミルティアを捜索している間も、俺は定期的に
この時男達は出払っていて、俺と義母だけだった。
『あら、魔竜は元々は聖竜だったのよ。真っ白い竜だったらしいわ。そういえば手紙には、そこまでは書いてなかったわね』
『え?!』
『私達夫婦のご先祖様も含めて、ここら辺の領民が大昔、小国の孤児院出身って言ってあったでしょ?』
『あ、ああ、それは聞いたけど……』
『小国が滅びる前。聖竜が隣国の辺境に孤児院ごと転移させたのよ。それが、ここ』
義母が人差し指を下に向けてここ、と指差す。
『元々この国に近い場所にあったし、ここは当時まだ未開の土地だったの。隠すには都合が良かったんでしょうね。以来この土地を開拓して、成り上がった孤児のリーダーが初代辺境領主よ』
『聖竜はどうしてその孤児達を助けたんだ?』
『聖竜の愛した聖女が孤児院出身で、よく聖女が聖竜と訪れていたらしいわ。聖女が捕まった時も、孤児院として冤罪を訴え続けたけれど、逆に迫害されそうになったらしくてね。聖女にお願いされた聖竜が、孤児院を守ってこの土地に導いていた。そのせいで聖竜が聖女を助けられなかったのは、子孫としても忍びないわ。これは領主を引き継ぐ時、必ず伝えられる話なの。きっとここの領民の子孫達にも、人知れず伝えられていると思うわ』
『何故人知れず?』
『聖竜が隣国を一夜にして滅ぼして魔竜になっちゃったからよ。昔は特に孤児達への偏見や迫害も酷かったもの。でも決して忘れないように引き継いでいったんですもの。孤児達は皆、聖女と聖竜を愛していたのよ。そんな聖女が生まれ変わって私達の娘になるなんて。不思議なご縁よね』
そう言ってクスクスと義母は笑っていたが、俺は固まった。
だがこれで赤白の竜使いはミルティアだと確信した。
そしてそれからずっと、俺は竜使いを追いかけて……それでも捕まえられず、賭けに出た。
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