初めての推し活。

狩野すみか

第1話

 「人生で初めて推しが出来た」と梨華に話したら、「推し活してみたら?」と言われた。

「……は?」

 推し活とは何か分からなくて、頭に、押し寿司みたいに押されたトンカツみたいなものが浮かんだ。

「推し活とは?」

 それなりにアニメもマンガも嗜むけど、世の中には、「嫁」とか「推し」とか、よく分からない単語が溢れている。

「……特に決まったことがあるわけじゃないんだけどね。代表的なのは、お布施とか布教かなあ……」

「聞いたことはあるけど、何か宗教みたいだね……」

「宗教、そうだね。そういったタイプの推し活してる人達もいるね」

 私は、梨華に無邪気にそう言われて、大学の新歓イベントの腕相撲大会で、豪快そうな女の子と当たったちょっと艶っぽい女の子が、「わあ、強そう。勝てるかな?推しにお祈りしよう」と目を閉じて指を組んでいたことを思い出した。

「で、彩華の推しって誰なの?」

 キラキラと期待に満ちた目でこちらを見る梨華を見てると、

「こないだユッコちゃんに連れられて行った猫カフェの猫さん」

 しかも、

「アメショーの女の子の茶々さん」

 とは言えなかった。

 まさか、茶々さんの前で、オタ芸、出来ないけど、を披露するわけにもいかないし。

 あまり猫カフェに通いつめると猫さん達も具合が悪そうだし、猫じゃらしをレンタルしたり、猫用のおやつを購入したりするくらいしか思いつかなかった。

 ――推し活って、こんなんでいいんだろうか?

 SNSで見てたのと何か違う気がするし、「推しへの愛が足りない!」と、推しに大金をつぎ込んでいる人達に怒られそうで怖かったけど。

「ねえ、アイドル?2.5次元?それとも、アニメ、マンガ?」

「内緒」

 推し活も人との比較で語られそうな現代、黙って応援するのも推し活に含まれるなら、私は黙っていたかった。


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初めての推し活。 狩野すみか @antenna80-80

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