第100話
『うん。どうしてこうなったのかな。これまでの表現でも職場に対する悪い感情は一切見えてこなかったよね?』
何故か修士はネガティブすぎる答えをだしているが、この話は端的に言えば仕事が楽しいという話である。
『そんなわけないじゃないですか。野球選手になるという夢を諦めてついたこれまでの自身の経験が通用しない職場で寝る間も惜しんで働かされているんですよ?知らないことが出来るようになるのは楽しい、お客様が喜んでいる姿を見られて嬉しいなんて自分の精神を平常に保つための嘘に決まっているじゃないですか』
ばけるが質問すると、修士はまるで自分が体験してきたかのように語っていた。
『駄目だこの人、修士課程に本気で飲まれてるや』
『凄くわかります……』
修士に皆が呆れていると思っていたら、シリウスが修士に同調していた。
こいつ、王子様みたいな見た目をしていて実は社畜なのか?
『とりあえずお二方には配信で沢山稼いでもらって逃げてもらいましょう。で、もう一人の問題児、一色さんの回答です』
そして出てきた次の回答は、
『一人採用するごとにボーナス!一人採用するごとにボーナス!』だった。
まだ修士は感情移入した結果だということは分かるが、一色については本編で一切書かれていない会社の仕組みをでっち上げているので大問題である。
『分からないなら適当に回答するのは仕方ないけど、もう少し記述に意欲を向けてよ』
『いやいやいや、真面目に書いた結果だよ。色々真面目に考えた結果その解答に行きついたんだよ』
『そうなの……?』
「何故信じかけるんだよ」
適当な事を言ってごまかそうとする一色に何故か流されそうになるばける。嘘だろこいつ。
『まあまあ、私の説明を聞けば理解してくれるはずだよ。今回使われている小説の作者って橘美晴さんって言うんだけど、この小説を書いた後にインタビューを受けてるんだ』
『そうなんだ』
メディア化された小説とかだとインタビューされているのは結構見かけるけど、そうでない作品でもやっているんだな。
『んで、そのインタビューの中でこの作品は作者の会社員時代の話を元に作ったって言ってるんだよね。当然名前とか商品とかは実際のものとは違うんだけど。んでその仕事の中で一番楽しかったのが会社説明会だって言ってたんだ。新卒の若々しい人たちを合法的に見れることも楽しかったらしいんだけど、何より自分が参加した会社説明会経由で入社した人一人当たり10万円貰えるってのが楽しかったって言ってたんだ』
『なるほど、その話を知っていたからあの回答が出たんだ。10万円貰えるなら楽しいだろうし、そう答えても仕方ないかもしれない』
確かにそれなら仕方ないかもしれないと納得し始めたばける。
『ばけるちゃん、今回のテストは裏事情を踏まえて回答するものじゃないよ?』
流されかけていたばけるに対し、正気に戻れと冷静なツッコミを入れるシュカ。
『そうじゃん。ダメだよダメ。そんな言い訳をされてもこれは小説内の話なんだから間違いは間違いだよ』
『チッ』
騙しきれなかった一色はわざとらしく舌打ちをしていた。どうやら本気でこれを正解にしてしまうつもりだったらしい。
『みんな、まるで一色さんが本当のことを話しているんだと思っているみたいだけど、これ全部真っ赤な嘘だからね』
そう語ったのは先ほどまでずっと笑顔で体をブンブン振り回していた奏多だった。
『『そうなの!?!?』』
本気で信じていたばけるとシュカはそれに対して驚きの声をあげる。
『うん。この作者って高校生の頃に小説家デビューして、それ以来小説を書き続けている人だから社会にすら出たことないよ』
『『ええええええ!?!?!?』』
奏多から告げられた衝撃の真実に驚く二人。
まあよく考えると嘘に決まっているか。そもそも一色さんがあの小説の作者の事をよく知っていたらテスト中にもっと大きな反応を見せているよな。酔ってたしあの人。
『なんで知ってるのさ、罪悪感植え付けて今後の答え合わせで有利にしてもらおうかなって思ってたのに』
真実を暴露した奏多に対し、わざとらしく怒ったような口調で文句を言う一色。
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