第96話

 というのも、この言い訳の全文を言ったのは配信外での話である。


 先日の告白会の後のパーティにて泥酔したリサさんが共にアスカと俺がコラボしまくっているのに炎上しないのはズルいと言い出し、最終的に辿り着いた意味不明な結論がこれなのだ。


 一応配信上でも似たような話をしているのだが、アスカがUNIONの中でも最年少だという話だけは伏せられている。


 だからある意味で嘘ってのは一視聴者である斎藤一真のセリフとしてのことだ。


 別に東雲リサと葵の間に関わりが無いことは無さそうだが、配信をチェックするほどではないだろう。これでどうだ?


「私はその人の配信とか切り抜きはあんま見てないから真偽は分からないけど、言っててもおかしくないよね。同期だし、九重ヤイバファンクラブの一人でもあるし」


「そうなんだよ」


 良し。これでどうにか切り抜けられた。今日も葵がチョロくて良かった。


「えっと、でもそれで大学生かどうかって繋がりなくない?」


 なんだと?今日は珍しく鋭いな。そうだよ、いくら東雲リサが年齢をばらそうと大学に通っているかどうかなんて確定のさせようが無いんだよ。高校卒業後に大学に行かない人は多いのだからな。


 またいくら東雲リサがうっかりしていたとしても、アスカが現役大学生だというVtuberとしての設定に反する情報を漏らすことは無い。企業勢は所属するにあたってそこについてはやたら厳しく言われているらしいしな。


「それもそっか。普通に21,2の人だから大学生だって思いこんじゃってたよ」


 というわけで別の言い訳をしなければならなかったのだが、これに関してはこんな言い訳で良いだろう。葵だし。


「思いこんじゃってたって、アスカちゃんはフリーターだよ?」


「言われてみればそんなんだった気がする」


 アスカのVtuberとしての設定は『お嬢様として敷かれたレールを外れ、自由を謳歌するフリーター』であることは当然知っているが、知らなかった体にする。


 企業勢のVtuberで自身の設定を守れている方が稀だし、設定まで知っている視聴者も稀である。別にアスカのファンだとかでなければまず疑われることはない。


「そもそもアスカちゃんから大学生みたいな知能を感じないでしょ?」


「そこまで言いますか」


「だって事実じゃん」


「酷いな……」


 いくら葵とアスカは関係が無い設定だったとはいえ大学生みたいな知能を感じないって。あんたらかなり仲良くて度々アスカ宅でお泊り会をしている仲だろうが。


 まあ、アスカは大学生とは思えないほどに馬鹿なのは事実だけど。


 一応世間的に見ても良い大学に通っているんだけどなあ……


「アスカちゃんの頭脳はどうでもいいや。そんな事よりも気になるのはヤイバ君の頭脳だよね」


「え?」


 どうして急に俺の話に?


「ヤイバ君が来週の日曜日に男女対抗の『最Vaka決定戦』に出るんだけど知らなかった?」


「は?」


『最Vaka決定戦』。チャンネル登録者数が50万人を超える人気Vtuberの稲盛ばけるが主催する有名企画の一つだ。


 コラボ内容は至って簡単。事前に受けたテストの点数が低いVtuber、つまりは一番馬鹿なVtuberを晒し上げる企画である。


 見られようによってはいじめだと捉えられて炎上しかねない企画だが、一番馬鹿だと晒し上げられるVtuberは既に馬鹿だとバレているので今更である。


 と企画の詳細なんてどうでもいい。俺がその企画に出る?そんな企画に誘われた記憶は無いんだが。


「いや、ほらこれ見てよ」


 疑いの目を向ける俺に稲盛ばけるのツリッターを見せてきた。


「ほんとだ……」


 見せられた生放送のサムネにはしっかりと俺の立ち絵があった。それもコラボ相手にしか配っていない高画質のものが。


 しかし俺と稲盛ばけるは一度もコラボしたことは無い。となると誰かが勝手に企画の出演に了承し立ち絵を送ったことになる。


 そんな事をする男はこの世に一人しか居ない。とりあえず今度会ったら処すことにしよう。


「まさかこういう企画にヤイバ君が出るとは思わなかったよ。この事実を知った時は思わず二度見しちゃった」


「だね。そういうの断ると思ってたよ」


 正直俺はこの企画のオファーが来ていたら断る予定だった。ウケを狙った珍解答を九重ヤイバというキャラのせいで出来ず、企画を面白く出来る自信がないからな。


「ヤイバ君の事だから滅茶苦茶点数高いんだろうなあ。今から楽しみでならないよ」


「そうだね、1位取るかもね」


 真面目路線で行くことはほぼ確定なので、誰が相手でも基本1位だろうな。


「それは無理かなあ。だってあの水晶ながめちゃんが居るんだもん」

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