第95話
そんな記念すべき時に俺は配信部屋に居るわけでもアスカ達と通話するでもなく、葵の家に居た。
葵が言うには九重ヤイバの記念すべき初オリジナル曲だから一緒に感動を味わいたいのだと。
構図としては幼馴染(女)の推しの晴れ舞台の観賞に俺が付き合わされているという微笑ましいものなのだが、現実は幼馴染に俺の活動を真横で鑑賞されるという中々に地獄の状況である。
葵の事だから九重ヤイバがどんなに歌が下手だったとしても楽しんでくれるとは思うのだが、目の前で鑑賞されるという事象があまりにもしんどい。
それもこれも俺が九重ヤイバだと明かしていない事が悪いのだが、何か仕返しをしてやりたい。
そうだ、確か年末にゆめなまでのライブがあるんだったな。樹を言い訳に一緒に鑑賞会してやろうか。絶対いい反応してくれるだろ。
「いやあ、まさかヤイバくんのオリジナル曲が投稿されるとはね。流石はアスカちゃん」
「アスカちゃん?もしかしてこの人の事に詳しいの?」
「まあヤイバくんと一番コラボしてる人だからね。見る機会は自然と多くなるよね」
「そうなんだ。なんか友達を誉めているみたいに聞こえたから知り合いとかなのかなって思ったんだけど、単に見た事が多いから親近感を覚えているだけか」
「え!?わ、私がVtuberさんと知り合いなわけないじゃん。配信活動なんて絶対決してしていないんだからね!」
なあ葵さんや。これで焦らないでもらえるかな。確かに俺は悪意を持って発言をしたけど、この程度ならよくある話でしょうが。
せねてそのVtuberが男だった時に焦ってくれませんかね。同性なんだから大したことないでしょうが。
「何そのツンデレ少女みたいな言い方」
「別に普通の反応だけど!?」
いや、どう考えても普通じゃないが。焦りまくってるわ声も大きくなっているわと誰がどう見ても不自然だよ。
「全然普通じゃないけど。そもそも葵がVtuberじゃないんだったらこの人と知り合いなわけないんだし、こっちも全然疑っているわけじゃないからね」
「そうなの?」
おいそこ。露骨に安心するな。その反応が私はアスカと知り合いですって言っているようなものだからな。
「そりゃそうだよ。葵がどうやって大学3年生の人とVtuberになる以外の方法で知り合いになれるのさ」
せめて堂々としていればツッコまなくて済んだのに。こっちとしては面白いから良いけど。
表情がコロコロと変わる葵は見ていて愉快だなあ。
「それもそっか……ん?」
俺がフォローして納得して頷いていた葵が何故か首を傾げた。
「どうしたの?」
「なんで一真がアスカちゃんが大学生ってこと知ってるの?しかも学年も」
……あ、しまった。
言われてみればアスカは年齢とか諸々非公開だったな。別に隠しているわけでは無さそうだが、世間的に見れば分からない。
「あれ、言ってなかったっけ?」
とりあえず一回目のジャブとしてすっとぼけてみることにする。
「流石に言ってないと思うよ」
「そうだっけ」
「そうだよ」
ですよね。流石の葵でも流されてくれないよな。アスカは全く気にしないように見えてVtuber雛菊アスカであることをかなり大事にしているからな。
設定に年齢非公開としているなら配信上で年齢を公表するようなことは無い。だからもし知っているとすれば裏で関わった事がある人だけだ。
いや、やってしまったな。そりゃそうか。その気持ちをアスカの友人である葵が知らないわけないよな。
だから今の葵を誤魔化すには一般的な人が誤魔化されるくらいのそれっぽい言い訳が必要だな。
となると九重ヤイバがポロっと漏らしたという言い訳が妥当なところだが、葵が俺の発言を全て覚えている可能性を否定できないので却下。
チョロいわりに九重ヤイバ関連だと誤魔化しが効きにくいのが面倒だな……
そうだ。
「確かアスカさんと同じ『UNION』の東雲リサさん?だっけ?緑髪の女の子が言ってたよ」
「そうなの?」
「うん。アスカさんがどう見ても私たちの中で一番若いのに年齢を非公開にしているのは現役高校生である九重ヤイバと合法的なコラボをしているという可能性を残すためなんじゃないかみたいな感じ」
「あの人そんなこと言ってたんだ」
「結構曖昧だけどね」
これは間違いなく東雲リサさんが言った話だが、ある意味で嘘だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます