第83話

『ゲームだよ』


「それは聞かなくても分かっている。ゲーム内で今どこで何をしているんだって話だ。索敵か?物資集めか?」


 緊張している状態でゲームも会話も同時にこなすのは難しいだろうと思い、会話に関してはしばらく俺とながめで回そうとしていたのだが、気付いたらターバンだけ意味不明な位置にいたので流石にツッコまざるを得なかった。


『普通に物資を集めて、先手が撃てるように入念な索敵をしているだけだぞ』


「で、敵の様子は?」


『誰一人としていないな。銃声どころか足音すら一つも聞こえてこない。俺が移動している音だけだ』


「だろうな。俺たちもそこに居ないんだから」


『は?そんなわけ……っていねえ!!!』


 こいつ、緊張しすぎて味方の存在すら忘れていやがった。


「本当に大丈夫かお前……」


 推しとの交流は確かに緊張するかもしれないが、流石にこれはやりすぎだろ。


『とりあえずお前らの元に戻るから待っててくれ!』


「いや、大丈夫だ。俺たちが行く。ながめ、大丈夫か?」


『うん』


 ターバンはそう言っているが本当に戻ってこられるか怪しいので俺たちが向かうことにした。


「すまないな。まさかここまでターバンが緊張しているとは思わなかっただろ?」


 ターバンがながめのファンだって話はながめから聞いていただろうが、ここまで深刻なレベルだとは思っていなかったよな。


「ま、まあそうだね。ファンって言っても軽く応援している程度だと思ってたよ。配信にイラストに高校生までやってるから時間も無いだろうしね」


「配信を見る時間に関しては結構あるらしいぞ。こいつ絵を描く時は大体ながめの配信を見ているからな」


『そうなんだ』


 普通仕事で忙しければ忙しいほど生放送主体の配信者を好きになるのは困難なのだが、イラストレーターは忙しければ忙しいほど配信や音楽を聴く傾向にあるらしい。


「まあ、だからといってこんな状況を許す免罪符にはならないがな。おいターバン。そろそろしっかりしろ。さもなくばお前がぐるぐるターバンだってことを共通の知り合いに証拠と共に言いふらすぞ」


『そ、それだけは!!!!』


「嫌ならちゃんと配信に参加しろ。ながめが迷惑がっているだろうが」


『が、頑張ります……』


 推しを目の前にする緊張よりも身バレに対する恐怖の方が大きいらしく、若干だが配信に参加できるコンディションになっていた。


「よし。これで配信が出来る。」


 まだまだ怪しいところは残っているが、どうにか俺とながめでカバーできるだろう。


『ねえヤイバ君。ぐるぐるターバンの正体を言いふらしたら一緒にヤイバ君もバレるよね?』


 と安心していると、ながめがふとそんな疑問を投げかけてきた。


「別に俺は身バレと『こいつクラスの男子共に正体ばれてるから無敵なんですよ』」


「おい、なんでそれを話した」


 流石にそれは不味いだろ。ながめと俺のトークイベントに大量のクラスメイトが来ていたことはお前も知っているだろうが。勘付かれたらどうするつもりだよ。


『別に良いだろ。ヤイバのクラスメイトが誰かなんて俺ら以外分からないわけだし。そもそもバレて困るもんでもないだろ?』


「困るに決まっているだろ。ネットの住民ってのは些細な情報から俺たちの身元を解き明かしてくる超能力集団なんだぞ」


 もし仮に今回ながめに勘付かれなかったとしても、高校名が知られてしまったら流石にながめに俺が九重ヤイバだとバレるだろうが。


『そんなもんか?』


「そんなものだ」


『まあ、そのクラスメイトたちが集団でリアルイベントに来るみたいな行動をしない限りは大丈夫だと思うよ。高校生は日本に何万人も居るんだから』


「そ、そうだな」


 ながめ、俺たちを安心させようと言ってくれたのかもしれないが、そのクラスメイトが実際に集団でリアルイベントに来てしまっていたから逆効果だ。


『?まあいいや。とりあえずゲームに戻ろうよ』


「そうだな。丁度ターバンの緊張も解れてきたみたいだしな」


 これ以上身バレについて話すと本当に俺たちの正体を解き明かそうとしてくる馬鹿とかが現れるかもしれないからな。



 この会話でターバンの緊張は解れたようで、それからは喋りもゲームも本来のターバンと変わらないレベルに戻っていた。

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