第81話

「えっ」


 ご飯を食べ終えた後、今日もソロ配信をしようと配信部屋に向かった。そして水晶ながめにコラボ依頼でもしてやろうかと思ったのだが、既にコラボ依頼が来ていた。何故か樹から。


『おい一真!!!!水晶ながめ様と3人でコラボしないかって連絡が来たから受けておいたぞ!!二日後の20時からな!!!!』


 とかなり興奮した様子でrescordにメッセージを送ってきていた。


 葵がコラボ依頼を送ったのって絶対夕食食べてから俺が配信部屋までに来るまでの間だろ。


 推しからの依頼だからって何も考えずにコラボ依頼を受けやがって。まあいいけども。


「にしてもタイマンじゃないんだ」


 さっき話していた様子から見ると今回のコラボはてっきりタイマンだと思っていたんだが。


 いくら安心したからといって怖かったのかな。


「とりあえず配信するか」


 時計を見ると配信時間が迫ってきていたので俺は配信の準備を始めた。





 そして二日後、


「なあどうしてこんな時間に集められているのさ」


 配信時間は20時からの筈なのだが、俺が配信部屋に集められたのはなんと17時半。


 つまりは学校が終わってから直でここに来た。


「当然ながめ様に不甲斐ない姿を見せるわけにはいかないからだろうが!配信準備を済ませたら二人でエイム練習だ!!」


 理由を聞かれた樹は胸を張り、自信満々にそう答えた。


「あのねえ、こっちにも用事はあるんだよ。夕飯とかさ」


「ながめ様の方が優先だろ!!!」


「……」


 その夕飯が水晶ながめと食べるやつなんだよな……


 しかも今日は俺が飯の当番だったから二重で迷惑をかけることになっていた。


 まあ本人はそんな話を知らないから無理もないが。


「ってわけで射撃訓練場に行くぞ!!」


「分かったよ」


 各々の部屋で配信準備を済ませた後、通話を繋ぎながら射撃訓練場に籠った。



『こんばんは。今日はよろしくお願いします』


 それから時間が経ち、配信開始15分前にながめが通話に入ってきた。


「おう、よろしくな」


『今日はよ、よ、よろしくお願いいたします!!!』


 ながめの声が聞こえた途端にぐるぐるターバンは露骨に緊張し始めていた。


 声もそうなのだが、ゲーム画面のキャラが通常の操作では起こりえないレベルで振動していた。


「大丈夫かターバン。水飲めるか」


『だ、だ、だ、大丈夫に決まっているだろ!俺は配信者だぞ!!!!あっ!!!!!!!!』


「駄目だな。後お前の本職はイラストレーターだ」


 若干の期待を込めてターバンに水を手に取らせてみたところ、見事に水を零していた。


 ペットボトルが倒れる音は聞こえなかったので緊張の震えで手に持ったペットボトルから水が零れたのだろう。


 ターバンの緊張読みで少し前から録画しておいて大正解だったな。ながめに許可を取ってから後でshortに上げよう。


『えっと、大丈夫ですか?』


「全然大丈夫ではないな。でもながめとこいつがコラボするって段階で大体予想済みだからながめは気にしないで大丈夫だ」


『そう、なら良いけど……』


 とながめは一応受け入れていたのだが、声色はかなり心配そうだった。


 まさかここまでターバンが緊張するとは思わなかったのだろうな。


「にしてもどうして俺じゃなくてターバンにコラボ依頼を持ちかけたんだ?これまで関わりは殆ど無かっただろうに」


 俺が記憶している限りではながめがターバンと関わったのは俺にボイス作成を強要させるためにアスカと二人で連絡した時以来のはずだ。


『ヤイバ君に急な依頼をしたいときはターバンさんを当てにすると良いってアスカちゃんに依頼すると良いって前に教えてもらったからかな』


 ながめは一応こう言っているが、十中八九俺に直接言って断られるのが嫌だから絶対にOKがもらえる方法を使ったってことだろうな。


 そもそも二日前にコラボ依頼をしてきたのって今回が初めてじゃないからな。


「なるほどな、この舞い上がって緊張しているイラストレーターはただの中継先ってわけだ。どうやら俺のついでらしいぞ」


『そ、そんな!!!!!』


 とターバンを揶揄ってみたところ、情けない声と共に地面にペットボトルが落ちる音が聞こえた。


 本気でショックらしい。


『いやいやいや、そんなことないですよ!一度ターバンさんとはちゃんと話してみたかったんですよ。聞きたい事とか色々あったので』


『そうなんですか?』


『はい!当然じゃないですか!』


『そうですか、何でも聞いてください!イラストや配信の事以外にも通っている高校名とかヤイバの直近の成績とか中学時代の部活とかなんでも答えますよ!』


「勝手に俺の個人情報をバラそうとするなよ」


 そんなことされたら俺たちがながめのクラスメイトである斎藤一真と堀村樹だってことがバレてしまうだろうが。


『別に良いだろ。俺らの個人情報なんて大した価値にならないだろ』


「なるわ。知名度考えろ。後ながめが困っているだろうが」


『えっと、私も高校名とかであれば教えられますよ。当然配信外ですが……』


「ほら、ながめも話しそうになっているだろうが。ながめ、それはやめておけ。せめてそういうのは直接会って話す機会が会った時にしろ。分かったな?」


『分かった』


『はい』


 何故かながめも個人情報をバラしそうになっていたので全力で阻止した。こいつらアホだろ。


 いや、お互いにお互いがクラスメイトだって気付いていない時点でかなりのアホだが。


「じゃあ軽く音声の調整をしてから始めるぞ」


『おう』


『はーい』


 二人に個人情報を開示させないように釘を刺したうえで配信を始めた。

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