第72話
そして翌日、普通にコラボウィークは続いており、別の演劇部の人とコラボすることになっていた。
『さあ、私のゲームをやってください!!!』
5人目の相手は天海サリー。字面的に高身長の宝塚系美女っぽく聞こえるが、見た目は身長低めの丸眼鏡の少女でインドアな印象を受ける。
その見た目通り?サリーはゲームを自作しており、配信中にそれをやらされることになっていた。
「サリークエスト。見覚えしかないな」
タイトルロゴもBGMも何もかも竜クエストまんまである。一応サリーの名前を冠しているのでオリジナルではあるのだが、大丈夫だろうか。
『私の自信作だから、絶対に面白いわ!』
「サリーが大丈夫だというなら大丈夫だと思っておこう」
嫌な予感しかしないが、やらないと配信にならないので仕方なく起動した。
「は?」
原作通り王の城に向かい、勇者となって金と武器を貰って旅に出る流れかと思いきや画面に現れたのは謎の3D画面。
一応動かすキャラは人間だが、どこからどう見ても勇者顔じゃない。途中で仲間になって非常に頼りになるモンクの顔だ。あまりにも筋骨隆々すぎるだろ。
『カッコいいでしょ?』
「カッコいいかもしれんが、何をすればいいんだよこのゲームは」
武器も持っていないし、何をすればいいのかも全く分からない。
『ほら、敵が来たよ!』
「これが……?」
確かにサリーの言う通りに何かが現れた。操作キャラと全く同じ筋骨隆々のマッチョだった。こちらが真っ白なTシャツに真っ白なブーメランパンツなのに対し、敵は真っ黒なTシャツに真っ黒なブーメランパンツだった。
色的には確かに敵側だが、そもそもこれは敵なのか?
『ほら!ポージングしなきゃ!』
「ポージング……?」
『とりあえずキーボードのSを押してみて!』
「ああ、押したぞ。……何やってんだこいつ」
俺がSキーを押すと、マッチョが唐突に動きだしてポージングを始めた。
『当然サイドチェストだよ!』
「はあ……」
サリーは筋肉が好きなのだろうか。
で、2秒ほど経つと目の前の黒いマッチョが遠くに吹き飛ばされていった。
そのまま戦闘勝利画面に変わり、経験値を貰ってレベル1から2に上がった。
そして目の前にいるマッチョの筋肉が少し大きくなった気がする。
「何がどういうことだよ」
どう考えても敵は倒せていないし、レベルが上がったら筋肉が大きくなる意味も分からない。
『自慢の筋肉を見せつけて、敵のマッチョが恐れおののいたから吹き飛ばされて倒れたんだ。だから経験値を貰ってレベルが上がり、筋肥大したんだよ』
「全く意味が分からない」
これは同じ日本語を話している者の言葉なのだろうか。マッチョが恐れおののいたから吹き飛ぶ?経験値で筋肥大?なんだそりゃ。
『とにかく、マッチョたちを倒して最強のマッチョ、ドラゴンマッチョになることを目指すゲームだよ!』
「ドラゴンマッチョってなんだよ。分からないものに分からないものを重ね合わせないでくれ、何も分からん」
『とにかく、キーボードを押してマッチョを倒すんだ!』
こいつ、説明をぶん投げやがった。自分で作ったゲームなら最後まで説明してくれ。
「とりあえずボタンを教えてくれ」
普通にWASDで操作してEnterキーで話しかける2Dゲームを想定していたから聞かなかったが、流石に聞かないと分からん。Sがサイドチェストってことは全然違うっぽいし。
『アルファベットが割り当てられているキーは全部ポージングだよ。視点移動はマウスで、前進はクリック、後退は左クリックだね』
「キーボード単体じゃなくてキーマウかよ!」
FPSとかで想起される一般的なものとは違うが、普通の個人製作ゲームでキーボードとマウスの両方を要求されることは殆どない。
『だってキーが足りなかったんだもん』
「ならポージングのボタンを減らせよ」
アルファベット全部ってつまり26個に割り当てられているってことだろうが。
『ダメだよ!全てが大事なポージングだよ!?消すとか絶対にありえないよ!』
「そうか、ならもういい」
このゲームを作った女にまともな思考回路を求める方が馬鹿だったのだ。
とりあえずこの地獄を早々に片付けるようにしよう。
なんだかんだでゲームを進め、ラスボスと思われる超巨大なマッチョを討伐したのち、
『おめでとう!これで君は最強のマッチョ、ドラゴンマッチョだ!!!』
とサリーのボイスがゲーム内から流れてきた。
「やっと終わった……」
『どう?楽しかった!?!?』
「若干悔しいが、楽しかったぞ」
『よかった!!』
マッチョをポージングで倒すという意味不明なゲームだったが、内容的に言えば楽しかった。
マッチョが出てきたら即座に何かしらのアルファベットキーを押して撃退する反射神経ゲー部分が主軸だったが、それだけではなかった。
ポージング一回だけでは倒れなかった敵に対して表示された文字を入力して敵を倒すタイピングゲーム的要素や、マッチョのポージング攻撃を避ける避けゲー的要素、挙句はリズムに合わせて大量に出てくるマッチョに対してポージングをする音ゲー的要素等、様々な要素が盛り込まれていた。
そのどれもが一時間丸々行わされるのであれば飽きていたかもしれないが、それぞれが短時間での区切りであったため、一度も慣れたり飽きたりすることがなく新鮮な状態で取り組むことができた。
「ただ、もう一度やりたいかといえば微妙だな」
『え~なんで!!』
「疲れるからだよ」
少なくとも配信上ではやりたくない。目につく問題点が多すぎてツッコミが間に合わないので絶対に疲れる。
『ううっ、そっかあ……』
俺の指摘を聞いて悲しそうな声をするサリー。だけど絶対にフォローしないからな。
「で、このゲームは視聴者にはプレイできるのか?」
『もちろん!ただ、バグはまだ残っていると思うからそこらへんは注意してプレイしてね』
「だそうだ。マッチョ好きな奴はやるといい」
『お願いします!お願いします!』
「というわけで今日の配信は終了だ。またな」
『またね!!!』
そして配信は終了した。
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