第57話
「なんだ?宣伝か?」
『いえ、皆さんが気になっている事の真相ですよ』
「は?」
『九重ヤイバさんが配信で言っていた好みのタイプは、高校のクラスメイトの子らしいですよ』
「おい、どこで聞いた」
『雛菊アスカさんからです。あの方なら答えを知っているのではと事前に聞いておいたのです』
「アイツ……」
一応幼馴染って所とそいつが水晶ながめってことは伏せてくれているみたいだが、言うなって言っただろうが……
『本当なら言うつもりは無かったのですが、ヤイバさんがあまりにも強情だったもので』
「お前な……」
性格悪すぎんだろお前。俺に何の恨みがあるんだよ。
「先に言っておくが、別にそいつと恋愛関係にあるとかそういうわけでは無いからな。単にそいつが俺の大ファンだと知っていたから揶揄ってやろうと利用しただけだ」
このまま終わると俺がクラスメイトに恋する男子高校生へとジョブチェンジしてしまう可能性が高いので必死に阻止した。
『なるほど、反応はどうでした?』
「気持ち悪いくらいに機嫌が良さそうだったな。冗談抜きで一日中笑顔だった」
『それはそれは。にしても気付かれないものなんですね』
「声も服装も違うからな。顔は同じでも本人だとは分からないはずだ」
『の割にはサケビさんとかにバレてましたよね』
「そこら辺は普通の人間じゃないからカウント外だ」
『それもそうなんですかね?』
「そういうものだ。人によっては家族が配信を見ても本人だと気付けず、スパチャを送ってしまった話とかもあるからな」
『奇妙な話もあるものですね』
「ああ」
『と良い話を聞かせていただきました————』
これで完全に全ての予定が終了したらしく、配信を終了させた後、そのまま通話も切ることになった。
次の配信の台本作りをするとのこと。
あまりにもプロ意識の高いVtuberであると共に、重度のカプ厨だったロクサヌとの配信はこれで無事に終了した。
念のためエゴサーチをしてみた所、若干踏み込みすぎだろみたいな反応はあったものの概ね好評だった。
ただ、葵の様子が心配だな……
翌日、不安に思いつつも学校に出てきた所、葵はいつも通りだった。
『じゃあよろしくね、ヤイバ君』
「ああ、よろしくな」
3日目のコラボ相手は来栖メネ。1日目のミルと同じくゲームでのコラボだ。
『じゃあ配信を始めるよ』
「ああ」
『やあ皆!配信の時間だよ!来栖メネだ!!!そしてスペシャルゲストの!』
配信が始まった瞬間、先程までの落ち着いた話し声から一転し、馬鹿みたいな声量になった。うるせえよ。声出しすぎて音割れしてんじゃねえか。
「声でかいな……九重ヤイバだ」
『というわけで今日やるゲームはこれだよ』
「ちょっと待て。最初のテンションはどこに行った」
あまりのうるささにメネの音量を下げたのだが、二言目は配信開始前と同じく現実的な声量に戻っていた。
『そりゃあ最初だからだよ』
「何だそれ」
『まずは知名度を獲得しないといけないからね。挨拶のインパクトは大事だよ』
「それを配信で言うのか」
『勿論。それはそれで話題になるかもしれないし。自分に関する大体の事は言い得だよ』
「そんなことは無いが」
これで私、彼氏いますとか宣言したら100%ファンが減るぞ。断言できる。
『まあそんなことはどうでもいいとして、ゲームをやろうよ』
「本当にやるのか……?」
『当然だよね。ゲームを一緒にやるって配信なんだから』
「そうか……」
『じゃあやろうか、【ASDFHJKL】を』
「ああ……」
俺が乗り気でない理由は、メネが選んだゲームが原因である。
このゲームは一言で説明するなら水泳のゲーム。これなら別に楽しそうに感じるかもしれないが、問題はゲーム性。
このゲームは泳ぐためにボタンを使って操作する。そこまでは良い。ただ、ボタンの数が問題なのだ。
普通なら両手と両足は同じボタンで操作するのが普通なのだが、何故か右手、左手、右足、左足がそれぞれASDFと独立している。
それに加えて、HJKLがそれぞれ右ひじ、左ひじ、右ひざ、左ひざに反映されており、こちらも操作しなければならない。
俺の説明でよく分からない人も多いだろうが仕方ない。
そもそも俺も良く分かっていないのだから。
とにかく、steemで5点満点中1.5の評価を受けたクソゲーであり、バカゲーであることだけ分かってくれればいい。
どう考えてもつまらないのだ。いくら対戦ゲームだと言っても、中身が駄目であれば盛り上がらない。
なら別のゲームにさせれば良かったと思うかもしれないが、その他はこれを遥かに超えるクソゲーばかりだったのだ。
他の候補の例としては、延々とじゃんけんを繰り返すだけのゲームや、野球のキャッチャーのみを操作するゲーム、バスケットボールの審判をするゲーム等があった。
まだ意味不明な操作性の水泳ゲームの方がマシだろ?
というわけで俺は全く乗り気では無いのだ。
視聴者も俺に同情してくれているので、表に出した所で燃えることは無いので隠す気はない。
『ずっと楽しみにしてたんだよね。どれだけ難しいんだろう』
そんな俺の気持ちも知らず、心底楽しみそうに語るメネ。
「どうだろうな。とりあえず対戦と協力があるが、どっちなんだ?」
対戦はその名の通り泳ぐ速度を競うもの。協力は片方が右半身、もう片方が左半身を担当する二人羽織のようなもの。一応どっちが良いか聞いたが、全く上手くいかないのはよく分かっているので、正直どっちでも構わない。強いて言えば全力で煽れる対戦の方が良いが。
『最初は対戦かな。何も分からない状態で協力をしてもぐちゃぐちゃになるだけだろうし』
「分かっていてもぐちゃぐちゃな気がするが」
『よし、勝負だよ』
俺のツッコミを受け入れる気はないらしく、そのまま対戦が始まった。
『いっけー!』
何の前触れもなくキャラクターが水中に飛び込み、全ての動きを止めてぷかぷかと浮いていた。
とりあえずボタンを押さない事には始まらないのでボタンを雑に押してみることに。
「なんだこれ」
浮いていたはずのキャラクターが奇妙なダンスを始め、同じ場所をぐるぐるしていた。こいつの関節はどうなっているんだ。360度回転しているぞこれ。
『ははは、最高じゃん。こんなの人間業じゃないよ』
俺が困惑している中、メネは大爆笑していた。本当に楽しそうだな。
「本当にお前はなにやってんだ」
自分の画面を見ようが見まいが結果は大して変わらないので、適当にボタンを押しつつメネの方を見てみると、キャラクターはプールから離れ、空中に吊り下げられた人形のような動きをしていた。
『なんか連打してたら空を飛び始めて、気付いたらこうなってた』
「本当になんなんだ」
こっちも連打をしている筈なのだが、プールから飛び立つ気配は感じられない。寧ろ沈んでしまいそうな勢いだ。
恐らくノイズキャンセルの影響で途切れ途切れになっている爆音はキーボードの入力音なのだろう。
『空を飛ぶのはやっぱり気持ちいいね!』
そして気付くとメネの捜査しているキャラクターはプールのある会場を離れて外を飛んでいた。
「何故空が用意されているんだよ。そしてこのゲームの楽しみ方はそうじゃないだろ」
水泳のゲームだろうが。泳いで超気持ちいいと言え。空を飛んで気持ち良くなるな。
『ゲームの楽しみ方は与えられるんじゃないよ。自分で見つけるものなんだ』
正論で言い返されてしまった。やっているのはクソゲーなのに。
「そうだな」
俺は楽しみ方を見出せそうも無いので、適当に返事をした。
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