第37話

「お疲れ様です。さっきまでは何やってたんですか?」


 別に楽屋では配信モードになる必要が無いので普段の口調で話しかける。


「交流ブースだね」


 交流ブース。その名の通りファンと直接交流が出来るブースだ。


 視聴者が入る個室にカメラとモニターが設置されており、それを介して会話することになっている。


 ファンとしては推しと直接話すことが出来る良い機会だし、俺たちVtuberからしてもどんな奴がファンをしているのかを直接拝める良い機会である。


「ああ、そこでしたか。どうでした?」


 一応誰がいつどこに居るかは事前に知らされているのだが、別に把握した所で何も無いので水晶ながめ以外は確認していない。


 今回のイベントは仲の良いVtuberはいないからな。


 ちなみにながめは今交流ブースにいる。


「皆可愛かったね。僕に会いに来るからって頑張って着飾ってきたのもあるんだけど、やっぱり楽しそうに話してくれる姿がとっても素敵だった」


「それは良かったです」


 この人は女性ファンが多いだろうし、こういうイベントで話に来ようとする人はそもそも女性の方が多いと聞く。


 だからそういう感想になったと考えるのが妥当である。


 しかし、この人の場合相手が男だったとしても可愛いと反応しておかしくないんだよな。


「ありがとう、ヤイバ君はアナウンスだよね。噂によるとかなりぶっこんだ話をしていたんだって?」


「ぶっこんだ話ですか?」


「うん、ツリッターで評判を見ていると結構出てきたよ。アキバVtuber祭のアナウンスなのに外の飯屋の紹介をしていたとか、会場のファンを弄ってたとか他にも色々余罪が見つかったよ」


「ちょっと見ていいですか」


「良いよ」


 別に問題なんて無かったような気もするのだが、気になったのでツリッターを開いてみる。


「うわ……」


 アキバVtuber祭でツリートの検索をしようとすると、他のメンバーを差し置いてサジェストにヤイバとアナウンスが君臨していた。


 別に俺のアカウントで検索したから優先して出てきたとかそういうわけではなく、そもそもトレンドに乗っていた。


「ね?流石だよヤイバ君」


「良かったと言えば良かったんですかね?」


 会場に来ていた人が録画していた内容が上がっていたのだが、大半のコメントが面白い事やってんなという好意的なものばかりだった。


 ただ、批判とまではいかないもののこれは仕事じゃねえのかみたいなツッコミも多数見受けられた。


 アレって結構まずかったのか……


「正解だと思うよ。ここの運営の人ってそういうの大好きらしいし。寧ろもっとやってってリクエストが来るんじゃない?」


「なら良かったです」


 そもそもアレが駄目だったらスタッフが途中で阻止するか。ずっと横に居たし。


「でヤイバ君、これからどうするつもりだい?一時間休憩でしょ」


「とりあえずご飯を食べることしか考えてないですね」


 休憩時間はこの時間に加えて3時間後に1時間あるのだが、その時間はながめが構内アナウンスをする都合上楽屋から出たくない。


 アイツが俺に気付く程画面を注視しているとは思えないが、ふとした拍子に俺を見かけたら面倒なことになるからな。


「そっか、じゃあ一緒に食べようか」


「はい」


「じゃあ弁当貰ってくるね」


「取りに行き、」


 立場的には後輩である俺が取りに行こうと立ち上がった時には既にヘストさんは楽屋の外だった。



「もってきたよ~」


 それから3分後、ヘストさんは弁当を持ってきてくれた。


「ありがとうございます」


「じゃあ食べよっか」


 弁当を開くと、中には高級そうな焼肉弁当だった。


「美味しそうですね」


「うん、滅茶苦茶奮発したらしいよ」


「良い運営ですね」


「だね」


「「いただきます」」


 それから俺たちは弁当を食べ始めた。



 軽く雑談をしながらご飯を食べていると、突然ヘストさんが神妙な面持ちになり、


「ヤイバ君、初対面で話すような内容では無いのかもしれないんだけど、聞きたいことがあるんだ」


 と言ってきた。


「何でしょうか」


 一体どんな質問が飛んでくるのだろうかと俺は身構える。まさかお金を貸してくれとか……?


 いやいやそんなはずはない。初対面でそういうことを聞いてくるような人では無いはず。


「今回参加したVtuberの中で、誰が一番かわいいと思う?」


「はい?」


 どんな重たい質問が飛んでくるのかと思ったが、あまりにも軽すぎる質問が飛んできた。


 男子高校生の雑談かよ。


 いや、俺は男子高校生だけどさ。


「どうしても聞きたいんだ。聞けなかったら死んでしまうかもしれない」


「そんなわけないですよね」


 嘘をつくにももう少し選択肢があっただろ。


「あっこれ録音中だから気を付けてね」


「言うのが遅い!」


 ふざけんな。先に言えよ。


「ってわけで企画だよ。イベントに参加する毎に男性Vtuberに好みの女性Vtuberは誰かを聞いてるんだ」


「はあ。で、俺が標的になったと」


「そういうこと。まあ後で全員に聞く予定だけどね」


「どんな企画だよ。俺たちを殺す気かよ」


 名前いった瞬間に大炎上待ったなしじゃねえか。


 良かったよ適当に答えなくて。


「大丈夫。動画はしっかり僕のチャンネルにあげるから」


「何も大丈夫じゃねえよ」


 それはしっかりじゃなくてちゃっかりだよ。


「んで、誰なんだい?」


「人の話を聞けよ」


「そっか。僕も言わないとその気になれないよね。うん、分かった。僕が参加者の中で一番かわいいと思うVtuberを言おう」


「いや別に要らんが」


 一緒に燃える仲間が欲しいわけではない。燃えたくないだけなんだよ。


「うーん、強情だなあ」


 強情じゃねえよ。男性Vtuberとしては普通の感性だよ。


 俺は一旦こいつを無視して飯を食うことにした。話をしてられるか。


「じゃあ九重ヤイバ君が一番愛している相手はクロさんだから他の人に可愛いと思う人は居ないって言ってたってことにするね」


「ちょっと待て!何勝手に炎上させようとしてるんだよ!」


 炎上してもしなくてもあの人の標的になったら死を意味するだろうが。


「だって君が言ってくれないし。なら僕の音声加工技術で適当にでっち上げようかなって」

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