ホッヅォ・ファミリーの冷めたフィナンシェ
吉岡梅
ホッヅォ家の庭
紺碧のビーチに臨む芝生の庭。真っ白なテーブルの上には色とりどりの花や料理が並び、グラスには並々と注がれたワインにシャンパン、ジンジャーエール。申し分ない。水平線の彼方まで澄み渡る空すら、ホッヅォ・ファミリーのドン、ヴィットーリオ・ホッヅォの55回目の誕生日を祝福しているかのようだった。――若き
ヴィットーリオはフッサに拍手を贈ると、家の中へと去った。立ったまま見送ったフッサは、ワイシャツとベストの裾を直し、皆を振り返って何か言おうと思った。が、言葉が出なかった。
ざわめきが収まらない庭に、パンパンと大きな拍手の音が響く。皆が一斉に音の方を見ると、サヤマが突き出した腹の下にエプロンを巻き、渋面を作って勝手口に寄りかかっていた。
「話は済んだのかお前ら。もう
庭の空気がふっと緩む。
「ティラミスがいいぜ!」
「俺はグラニータだ!」
「いや、パーティにはやっぱりカンノーロだろ!」
食い意地の張った連中が大声を上げる。釣られて何人かが笑い声をあげた。サヤマも片眉を吊り上げて笑っている。さすがは老獪な前相談役だ。上手く和ませてくれた。フッサは目を合わせて頭を下げた。――が、その矢先、野太い声が庭中に響いた。
「
声の主は「狂犬」グイードだった。
「
グイードはフッサをじろりと見下ろすと、長身を折り曲げて額を着けんばかりに顔を寄せて来る。しばらくそのままフッサの目を覗き込んでいたが、鼻で笑って背中を向けた。
「おらお前ら、せっかくだ。我らが『
グイードが声を上げると、ファミリーのメンバーがそれに続く。何人かはフッサの前で立ち止まりかけた。が、フッサが頷くと、申し訳なさそうに皆の後を追った。
庭はすっかり静かになった。フッサは一人、ため息をついた。
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