セブンスブレイブ・オンライン
月束曇天
第一章
第1話
暑い、暑い、誰もが薄い半袖に着替え、汗水たらして息を吐く真夏。
俺たち学生には夏休みが訪れ、各々が色んな過ごし方をして日々の学校での疲れを解消する時。
……と、言っても今どきの学生は皆クーラーの効いた涼しい部屋でゴロゴロと転がりながら、母の茹でた冷や麦やらそうめんやらを啜り、ゲームに勤しみながら水着姿のグラビアアイドルを眺めては「へへへ」と笑うものだろう。
だが、俺たち運動部は違う、結構違う。
私立第七勇ヶ原高校、体育館には焼けるような日が差し、中にいる生徒たちは室内だろうと全裸でも滝のような汗を流すのに、その上から胴着やら分厚い防具を身に着け、竹刀を握りしめて腹と喉が引きちぎれそうなほど声を出し、練習に勤しむ。
そんな剣道部に所属する俺、剣城(ツルギ)勇一(ユウイチ)は夏休みの今日も今日とて部活動に勤しんでいた。
今日は、俺にとっての越えるべき目標である先輩との練習試合だった。
「でえええええいッ!」
「ふんっ!」
閃光のような速度で振り下ろされた竹刀が、俺の頭に叩きつけられた。
バシィィィ、と衝撃と痛みが俺の頭から全身に伝わった。
面……つけてたよな、俺……。
「一本、それまでです」
右目が隠れるほどに前髪を伸ばし、ボブカットを桃色に髪を染めた巨乳後輩こと、盾塚(タテヅカ)春(ハル)の一声で、練習試合は終わった。
ほんの一瞬の出来事だったが、涙がにじみそうなほどの痛みが頭にじんじんと残っている。
「いっでぇ……コブになるかもな、こりゃ……」
真竹で作られた竹刀、加えて先輩の腕力のおかげで面を被っていようと叩かれれば激痛だ。
生身だったら確実に死んでいるだろう、なんて思って俺は頭頂部を抑えて呻いた。
「お疲れ様です、剣城先輩、太刀川先輩。お二人ともどうぞ」
「おうよ……ありがとな」
俺は痛みに堪えながらも、可愛い後輩からの労いに感謝する。
盾塚が差し出してくれたスポーツドリンクをストローで飲み、息を吐く。
「フフ……しかし剣城はまだまだだな、そんな調子では私に勝つのはあと十年は必要なのではないか?」
「いやいやいや、今年中……いや、せめて五年以内に一本は取りますよ、一本は」
笑いながらそう言ったのは、俺の憧れにして剣道をやっている上で最大の目標、太刀川(タチカワ)千冬(チフユ)先輩だ。
面の下に現れるは茶髪のポニーテール、凛としたその表情は控えめな胸も相まってとても美しい。
加えて華奢だが男子の中でもかなりの握力や腕力を誇る俺よりも力が強く、リンゴを素手で握って爆散させたことがあったな。
俺よりも身長が低いって言うのに、何でこうも強いのかは永遠の謎だな。解明出来たらノーベル賞モンだぜ。
「フフ、ならば精々励め。私に勝てたらなんでもしてやるからな」
「上等。そん時は脳天にデカいの一撃くらわしてやりますからね」
俺は面を取り、小手を外した手で拳の骨をバキリバキリと鳴らす。
いつか越える、いつか絶対彼女を越えて見せる、それが俺の今の目標だ。
……生涯目標になってしまいそうだけどな。
「んー、お二人には敵いそうにないです」
盾塚はそんな俺たちを見てやや呆れ気味だったが、いつもの事なのであまり気にはしていない。
にしてもコイツ、よくまぁ右目が見えなさそうな前髪してるのに剣道やる気になれたな。
面を被る時以外は前髪をそのままにしているせいで、ちょっと心配になって来るくらいだ。
「……おい剣城、そろそろ着替えねば体育館の使用期限が過ぎるぞ」
「あ、いっけね。すみません」
俺は先輩に促されたままに急いで防具を片付け、竹刀をバッグに閉まってから着替える。
胴着の下に体操服を着ているので、更衣室に入らず男女ともに着替えても問題は一切ない。
が、先輩の体操服姿は俺にとって眼福すぎるし、足のラインやらなんやらで興奮して俺が鼻血を出しそうなので問題大アリだ。
なんてアホなことを考えながらも俺は素早く着替えて、やや駆け足気味に三人で体育館を飛び出した。
「しっかし、夏休みってのは意外と早えもんだよなぁ」
「ですね。私も高等部に上がったのがついこの間のことに感じますよ」
中高一貫のウチの学校では、部活も中等部と高等部で時間や場所が分かれている。
ので、盾塚が高等の剣道部へと入って来たのは今年の四月頃なのだ。
故に中等部の頃から盾塚と色々一緒だった俺は、盾塚のいない一年を少し寂しく感じたもんだ。
「夏休み……か、私は最後の夏休み故に、充実した日々を過ごしたいものだな」
「充実した夏休み、ですか。俺は去年ずっと竹刀振るか短期で申し込んだバイトで体をイジメ抜いてましたし……確かに、充実したって思えるように遊んだりなんだりの夏休みっての、過ごしてみたいもんですね」
「うむ、今のを聞いて尚の事私の決意は固まったぞ」
先輩は一瞬俺に信じられないものを見るような眼差しを向けて来たが、知らないことにしよう。
先輩を越えるために体を鍛えようと必死だったのだから、そこはむしろ自分の強さに驚いて欲しい。
後輩が死に物狂いで体を鍛えようって決心するくらいにはヤバいってことを。
「で、具体的にどんな風に過ごすとかもう計画決めてるんですか?」
「フフ、気になるか」
「そりゃ勿論」
「まずは、私がハマっているVRMMOでのキャラクター育成だな」
「ほうほう」
VRMMO……バーチャルリアリティーナントカって類のゲームのことだな。
頭にヘルメットみてえな専用ゲーム機器を被って、その中に入れてあるゲームソフトを専用のボイスコマンド……要は合言葉で起動するんだったな。
んで、自分でメイキングしたキャラクターをゲームの中で動かして戦わせたりとかする。
特徴的なのは、ゲームの中では自分の体を動かすみてえにキャラクターを動かすことになるから、コントローラーとかを使わないってことだな。
それに、ログインしてる時は現実の体は動かせないし、ゲーム内の体しか動かせないんだよな。
「VRねぇ」
「先輩は何か、VRに思う所でもあるんですか?」
「あぁ、昔ちょっとそれなりな思い出があってな」
別に盾塚や先輩に話すほどのことでもないが、俺はとある一件からVRから離れるようになったのだ。
ゲームは確かに大好きだし、VRだってプレイすること自体は嫌いではないのだと思う。
ただ、二年ほど前にプレイしていたゲームソフトを触ると、俺はちょっと嫌な気分になる。
「でも、買ったんですよね」
「……あぁ、先輩やお前と遊ぶなら、って思ってな。買ったよ」
俺は昨日、夏休みが始まる前最後の学校帰りに友達と一緒にゲームショップに立ち寄り、そのVRゲームのソフトを購入している。
タイトルはセブンスブレイブ・オンライン、略称SBO。
「剣城、お前はその……SBOをプレイする気ではいるんだな?」
「はい、先輩と遊べるってのは面白そうですし」
「私も先輩と遊べるのは嬉しいです。三人で遊んでみたいと思ってましたし」
先輩と盾塚はこのSBOにハマっているらしく、それなりにやりこんでいるらしい。
だから、俺が遊ぶ理由はこの二人と仲良く遊ぶためだけだ。
三人で仲良くゲームを遊んで、楽しい思い出を作るため。
だから、俺個人がVRMMOゲームを好きになるってことはないだろう。
それでも、三人で一生ものになるかもしれない思い出が作れると思えば自然と遊びたいと思えてくる。
歳の差関係なく、友達がいるってことは素晴らしいと感じさせてくれるな。
「それじゃあ、今度はゲーム内で会おう。
予め、剣城の携帯に私のプレイヤーネームと容姿を送っておく。
だから……お、お前から話しかけてくれ、剣城」
「わかりました、先輩」
夏の暑さのせいか、やや頬を赤らめながらそう言った先輩の言葉に頷く。
で、俺は自分の家に向けて足を進める……と言っても、俺の家は先輩の家からほんの二十歩ほど歩いたところだ。
大股でのカウントだけどな。
「ただいまー」
家の鍵で玄関の扉を開け、挨拶と共に靴のかかとを踏んづけて脱ぎ始める。
玄関の扉を閉めると共に靴を玄関に並べて置いて、俺は二階にある自分の部屋へと向かって行く。
妹の部屋の隣にある俺の部屋で制服を脱ぎ、部屋着として使っているジャージ姿になる。
そうしてから制服を片付け、剣道用の胴着と洗濯するためのワイシャツを床に置く。
「しかし、ホントにVRMMOやるのか。俺」
俺は自分の部屋の棚に置かれてある、VRMMOをプレイするために必要な機器とにらめっこする。
格安な物なので、性能こそ少しばかりショボいがSBOをプレイするなら十分……のハズ。
何せちゃんと対応ハードとしてソフトの裏に記載されてるし、動かないってことはないだろう。
って、その前にワイシャツと胴着を洗濯機の中にぶち込んでおかねば。
「兄さんお帰りー」
「おう、ただいま」
と、ワイシャツと胴着をリビングの先にある風呂場の洗濯機の中に入れてながら妹とあいさつを交わす。
風呂場を出て、リビングのすぐ近くのキッチンの冷蔵庫を開ける。
ゲームの前には水分補給が大事と聞くし、お茶の一杯くらいはいいだろう。
ウェーイ・麦茶と書かれてるラベルのペットボトルを取り出し、中身の烏龍茶を飲む。
時々、妹のイタズラでラベルが変わってるが……キャップは変わってないのでバレバレ――
と思ったらとてつもない苦みがしたので、俺はそのまま口の中の液体を噴き出し、床にぶちまけた。
「げっほ……ごっほ……コッ、コイツはいったい……」
「あー、兄さん、無事に引っかかったね~。
今回は烏龍茶じゃなくてコーヒーにしてみたよ。
丁度、キャップが同じ奴だったからさー、うっしっしー」
「テメ……このアマ……俺がブラックコーヒー苦手って知っててやりやがったな!」
ケラケラケラケラ……と笑いながらソファーから起き上がり、俺を指差している少女。
そいつは俺の妹の剣城(ツルギ) 鞘華(サヤカ)だ。
何故か俺に対しては悪魔的なイタズラを仕掛けてくる。
「兄さんだってさー、この間私が楽しみにして置いたチョコ食べたじゃん?おあいこだよ。お、あ、い、こ」
「ッ、それはお前がその日の晩飯のカボチャサラダを勝手に一人で全部平らげたからだろ。
俺の好物だったのに、考えもしねえで一人で勝手に食いやがって……」
俺は家の中だと言うのに、何故か制服を着ている妹を睨む。
コイツめ……ホント悪魔みたいな奴だ。見た目だけは俺と違って可愛いくせに!
黒髪ショートヘアー、ひらったい胸の持ち主だがかえってそれが優れた容姿となっている。
学校でも男子からそれなりに人気はあったらしいし、顔立ちも整っている良い子のはずなんだが。
なんでか、俺だけにはちょっとばかりイタズラが過ぎる。
「ま、今回は悪かったかな、ごめんごめん」
「次やったらお前の朝飯に唐辛子一瓶ぶっかけた激辛スペシャルにしてやるからな」
「それやったらお母さんに言うよ?」
「うるせえ、まずこっちが母さんに言いてえくらいだわ」
家族だからか、それともやられてることがやられてることだからか、ついつい辛辣な物言いになるがコイツはそれでも気にしない。
大概の悪口は簡単に流すし、嫌がらせをされようものなら平気で仕返しするのが俺の妹だ。
……なんだか、VRMMOをやってる時に顔に落書きとかされそうな気がしてきたな。
プレイ中は部屋の鍵でも閉めておいた方がいいかな?
「ん……お。んじゃ、あたしは友達の家のVRに招待されちゃったから、サラダバーッ!」
そう言うとドアを開けて、ドタドタドタ……と音を立てて二階の部屋へと向かって行った。
俺はやれやれ、と呟きつつもペットボトルの蓋を締めコーヒーを噴いたせいで汚れた床を濡れ布巾で拭く。
そうしてから布巾を軽く水で洗って洗濯機の中に入れ、俺も自分の部屋へと戻る。
……鞘華も、VRゲームとかやってたのか。
「えーと、コンセントはここに入れて……
んで、あとはソフトってここに入れるんだったっけ?」
最後にVRを遊んだのは二年ほど前なので、ハードはそれなりに埃を被っていた。
ので、ティッシュやらなんやらで埃を除去して前に遊んでいたソフトを外してケースにしまう。
それで、セブンスブレイブ・オンラインのソフトをハードの中に入れて……準備は完了だ。
ケーブルもちゃんとコンセントに繋いでいるから、機器のバッテリー切れで落ちる等はない。
ハードのボタンをポチポチと押して、電源はオンにした。
後は――
「接続開始」
そう呟くと、俺は眠るかのように意識が薄れていった。
次に目を開けると、何故かマグショットを撮るような空間に俺は立っていた。
天井には青いフィルターが掛かっていて、俺の目の前には薄いパネルのようなものが二つ。
それぞれが四角い壁の左右を行き来している。
『プレイヤーネームを入力してください』
……なんか出た。
ホログラムのキーボードと、名前を入力する欄と思しき枠。
さて、名前はどう決めようか、本名からとってつけてもいいけれど。
剣城、勇一……ツルギ、ユウイチ……ネトゲの名前にゃ向いてねえか?
今までのパソコン系のMMOは女キャラを使っていたからアリス、花子、とかつけてたが……男となるとキャラクター名を考えるのが難しくなってくる。
よし、ここは俺の本名から関連して、紐づけて少しずつ派生したような形で名前を考えてみよう。
まず、俺の苗字の最初の文字の剣……剣と言ったら騎士……そう、騎士と言ったら円卓の騎士。強い奴の名前とか入れみるか。
「ランスロット……っと」
『※その名前は既に使用されています』
「チッ……使われてんのか」
流石にベタだからか、既に使用済みと来たが……じゃあ、別で名前を考えてみるか。
騎士繋がり、それでさっきはランスロットと入れようとしたから。
「アーサー……っと」
『※その名前は既に使用されています』
流石にこれもダメかぁ……まぁこっちはさっきのよりもメジャーだし、仕方ないか。
時間はあるんだし、ゆっくりと考えていこうか。
それに、名前が変だったとしても、略称ならなんとかなるだろうし、とびきり変な名前を付けても大丈夫だろう。
でも、出来れば本名から剣繋がりで行きたいから……
「【伝説の剣を引き抜いたら折れたよwww】……っと」
『※その名前は既に使用されています』
なんでだよ!
誰がこんな世界一馬鹿げたネーミングをするんだよ!
ってか「w」の数まで一致ってどうなってんだ!
この名前で遊ぼうって考えた奴は馬鹿か!?
いや、俺も今そう考えたけどさ!
「クソッ……じゃあっ、えーと……!」
俺は頭を抱えて、その場に胡坐をかいて悩み始める。
ヤバいヤバい、テキトーでいいと思っていた名前に、ここまで手こずるとは!
どうしようか……このまんまじゃ、名前すら決まらずにキャラが作れなくなる。
っつーか、先輩待たせてんだから急がねえと!
「えーと、こんな時は……これでどうだ!」
俺はホロキーボードをカタカタカタカタ……と叩き、最後の候補の名前を入力。
すると何も問題がなかったようで、ちゃんと次の項目へと進んだ。
「何々、種族……種族ね」
種族も選べるようで、人間、亜人、長耳族、炭鉱族、混族とあるようだ。
人間はヒューマン、亜人はデミヒューマン、長耳族はエルフ、炭鉱族はドワーフ、混族はディーマンと読むのか。
……ぶっちゃけ、どんな種族にしようと大して変わらんように見える。
あ、でも得られるステータスやスキルにプラスやマイナスの補正がかかったりはするみたいだ。
種族限定スキルみたいなのもあるらしいし、ちゃんと考えて選んだほうがいいんだな。
ま、でも俺は特によく考えてないし、人間でいいかと思って人間をタッチ。
……次の項目に進んだ。
「えー、何々……アバターの設定は自由、か」
しかしあまり離れた顔にすると自分って感じが湧いてこなさそうだな。
だから基本は俺の顔をベースにしつつ、髪型を少しいじったりとかしてみようか。
剣道をやっているから、前髪が邪魔でオールバックにしてたが、VRならきっと髪の問題は解決だろう。
が、なんだかんだで俺は派手な髪形にする気にはなれずして、無難に元の髪型で行くことにした。
「で、初期の服装もこんなもんか」
シャツの袖の長さとか色しか選ばないので、パターンは割と少なさそうだ。
ま、俺の好きな色は赤と青だから、赤い半袖シャツと青い長ズボンでいいか。
靴は革靴っぽく、黒にしておこう。
「……お次は武器かぁ、何にすっかな」
さっきまではパネルのように表示された項目から適当にポチポチ押すだけだったが……今度は武器が空中に浮遊して、円の形を作りながら俺の目の前に出現していた。
初期武器を選んで、それに合ったステータスの構成とかを教えてくれるのか?
「選べるのは……組み合わせ考えたらスゲーな」
まず、攻撃系の武器として選べるのが、だ。
両手剣、片手剣、短剣、曲刀、槍、両手斧、片手斧、槌、大槌、杖、弓と来た。
その次に出たのが、防御系として装備出来る大盾と、小盾。
大盾は防御重視になるけれど、攻撃系武器が大幅に制限されるみたいだ。
大盾を持ちながら使える攻撃系武器は、片手斧と片手剣と槌だけだ。
で、小盾は防御力こそそこまで上がらないが、攻撃系武器が全種類装備可、か。
まぁ、どちらの盾にも共通することは重量を担うことになるからか素早さが低下する、って書かれてることだ。
「ま、無難に行くとするか」
あくまで初期武器を選ぶだけだから、途中で変更も可能だろう。
と言うことで、俺は片手剣と小盾を選ぶことにした。
普通のスタイルっぽいし、片手剣だって一般的な剣って長さだ。
長さは一メートル前後ってとこだしな。
「これで最後か」
最後は、ステータスの割り振りだ。
温存は出来ないようで、最初っから全部振れとのことだ。
「えーと、ステータスの項目は……うわ」
STR、AGI、DEX、VIT、INT、MND。
んで、ステータスの割り振れるポイントは120。
ここは全部に20ずつと行きたいが……焦ってはならない。
均等に振ったところで、クソザコ器用貧乏野郎が出来上がるだけだ。
因みにSTRが筋力、AGIは素早さ、DEXは命中力、VITは防御力、INTは魔法攻撃力、MNDは魔法防御力だ。
STRが高ければ重い物を持ち歩けたり、物理的な攻撃力が高くなったりする。
AGIが高ければ足が速くなるし、攻撃速度も上がる。
DEXが高ければ遠距離攻撃に当たりやすい補正がかかるので、弓使いは是が非でもこれを上げる。
VITは防御力で、上げれば上げるほど受ける物理的ダメージが減るみたいだ。
INTはSTRの魔法版って感じだが……INTでも重い物を持ち上げるには困らないみたいだな。
MNDはVITの魔法版……ホントにただそれだけだな。
「さて、俺の武器から考えるとすると」
俺は片手剣と小盾を選んだから、基本的に素早さを重視する必要がある。
120ポイントと言うこの数値から割り振ると……だ。
素早さに50くらい突っ込んだって文句はないだろう。
魔法を使うつもりがないから魔法攻撃力は必要ないし、DEXだって上げる意味も薄い。
初期武器で戦うことを視野に入れたら、そのままSTRに30。
残りは40ポイントなので、MNDとVITに20ずつ割り振る。
「よし、ようやくキャラクターが完成したか」
『これでキャラクターメイクを終了いたします。
ゲームを始める場合は進むを、修正をする場合は戻るを選択してください』
『進む』『戻る』
勿論完成したんだから、進むに決まってるだろ。
と、進むを選択して俺はゲームを開始した。
『チュートリアルをスキップしますか?』
『はい』『いいえ』
チュートリアル。
まぁやっておいて損はないよな、と思って『いいえ』を押そうとしたら手元が狂った。
『はい』を押してしまってそのままゲームが始まってしまった。
「やっちまった……!」
と、最後の言葉を呟くと同時に意識がまた暗転して――
俺は、如何にもな「始まりの街」って感じの所に立っていた。
町並みは噴水広場、って感じで様々なプレイヤーたちが闊歩していた。
さて、と。
「俺のSBOプレイヤーとしての人生の、始まりか」
これから、先輩や盾塚たちとこのゲームを遊ぶ日々が続くだろう。
あくまで彼女たちとの思い出を作るためでしかないゲームの始まりだ。
でも、それでも、自分なりにこの世界で何かまた新しい物に出会えるかもしれない。
かつての後悔を忘れられるほどの良いことが訪れてくれるかもしれない。
そう思って、俺は剣城勇一ではなくこの新しい世界で新たな名前と共に歩みだす。
楽しむ心を大切に、そして先輩に勝つために、ここでもまた剣を握る。
「漢、ブレイブ・ワン。まかり通るぜ!」
俺は腰に下げられていた、キャラメイクで選択した片手剣を腰から抜き放つ。
そして高々と掲げ、俺のプレイヤーネームと共に宣言した。
後から思うと、凄く恥ずかしい行為だったが……
今は、ただただ高いテンションに身を任せて、そうすることだけを考えていた。
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