魔女の悪戯の章
1 始動
———————— ———— —— ——— ———————— —— —————
——ううっ……。暗い、寒い。一体いつまでこんな所にいればいいの……。イヤダ、イヤダ、いやだ。いやだ————。はやく……一刻もはやく、抜け出したい。だれか?……
ナニカが、いや誰かの声がした気がする。嘆きとも呟きとも取れるその声は、永遠とも思える凍える様な闇の中で小さく反響した。そしてその声を拾うモノがいた。
イイダロウ……。ソノネガイ、タシカニ受けトッタ。オヌシはスグニ開放サレル。
震える声に反応したモノは冷ややかに声をかけた。
――うそ!?……。本当に? な、なんだってするわ……。ここから出られるなんて……。代償は、何? どうすれば?……。
オヌシノスキニスレバイイ……。タマッテイタ
地面に光る円のようなモノが浮き上がった。それは少女を中心に広がりを見せていく。円の中に三角の文様が重なり、回転し、そしてズレた文様は怪しげに発光した。
やがて、魔法陣が完成した。
————ドクン……。
ナニカが……少女のお腹に宿った。それは決して喜べるような命とは、程遠いものかも知れない。命の楽園と言われる生命を育む子宮の中、それは自身の目覚めに気が付く。膝を抱くような体制から、大きく背伸びをした。
途端、子宮の持ち主の少女は叫ぶ。自らのお腹が急激に膨らみ、お腹が裂けるような痛みに襲われた。堪らず絶叫する。
「ぎゃあああああぁぁぁぁ————。イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ、た、たすけて————」
お腹の痛みで七転八倒する少女。痛みから意識を失い、白目を
ズヴァァァ——。
「——っひ……。ぎゃあぁぁぁぁ————」
少女の腹部の内側から皮膚を切り裂いて、ナニカが出てきた。片手だ。更にもう片手が出て、両手で腹部を大きく切り裂き、ナニカが顔を出した。
『#&%*$、ココガ…………。シンセカイ……』
血で染まった顔を出したナニカは、星一つ無い夜空を見上げ立ち上がる。そして左手に掴んだ少女の
―ドクン―。
ナニカの体の中で少女の心臓が脈を打つ。脈を打つ右胸に手を置きナニカは笑みを浮かべた。
「コレデ……ジユウニ……。フフフッ……」
もう一度辺りを見回すと、ナニカは少女のお腹から地面へと歩き出す。数歩歩くとナニカは霧のように消えてしまった。
地面には、少女の惨殺死体と呼べるものが無造作に転がっている。腹を切り裂かれた少女の最後に見たモノは、暗闇の中に
——これは、一月前に起きた女子高生連続不審死の最初の犠牲者の死亡した時の
◇ ◆ ◇ ◆
ガシャン————。ガタガタガタガタガタガタ……。
「なんだ、最近地震が多いな。一体どうしたんだろう。四国の南沖に地震があってから、随分になるが、今や、色んな所で地震が発生している。」
TVを観れば、各地で起こった地震のニュースをしている。発端は1ヶ月前くらいになるだろうか、四国の南沖から始まった。当時マグネチュード10を誇る大きな揺れは津波を予想された。震源地は海底。多くの学者達は様々な機器を持ち込み、地震の調査をしている。日に数十回の震度7以上を記録する地震は脅威だ。しかしながら、原因は全くの不明。
漁が出来ない為に苛立つ漁師達。津波による被害を予想する住民達の不安が募っていく。不思議な事に震度の高い地震の割には、津波による被害は起こらなかった。
やがて、地震は収まってきた。回数は多いが、揺れが弱い事に周りの人は落ち着く。その揺れは果たして収まっていくのだろうか? 否‼ その揺れは海底に埋もれた何かを掘り起こしていたのかも知れない。
過去に起こった強大な地震。多くの人々の心に爪後を残し、全てを奪い去っていく。幾度となく繰り返される脅威的な大災害と呼ばれるこの自然現象は、もしかして天の意思によるモノなのかも知れない。
日本の地形は龍の姿に似ているとも言われている。龍脈が有るとしたら、地震の発生源が関係しているのかも知れない。
北海道から始まって、東北、名古屋、九州と地震は起こっている。仮に、一番危険な地震は? と問われたら、南海トラフと誰もが答えるのではないだろうか?
いや、富士山に直下型の地震がくれば恐ろしい。仮に、富士山に地震が直下型で起きた場合、富士山が噴火を起こすかも知れない。もしも、富士山が噴火を起こしたら、いったいどれだけの被害が出るだろうか?
「火砕流」
過去の雲仙普賢岳で噴火が起きた。その時の火砕流は、700度の高温を持ち時速80Kmで斜面を流れたそうだ。
「融雪型火山泥流」
もし、雪が積もっていたならば、溶岩の熱で雪が一気に解けて洪水のように流れるだろう。
「空振」
噴火で大気の振動が数キロ先まで襲い家屋の窓ガラスを割ってしまう。
「火山ガス」
火山ガスは二酸化硫黄、硫化水素など毒性を持つものが風で流されてくる。
「噴石」
噴石によって人や物による被害も大。
「火山灰」
噴火によって火山灰が上空20Kmまで噴き上げられ、風によって流され首都圏一帯を襲うらしい。灰の厚みは2Cm以上。灰は送電線に付着すると停電の原因となる。
更に家屋に積もると重さで倒壊する恐れもある。停電によって信号機が作動せず、道路に灰が積もると車が滑り通行止めが起こる。線路も、飛行機も動かなくなってしまう。もはや、交通機構は麻痺。生活もままならなくなってしまう。
そうなると経済も破綻してしまう。灰を吸って体に取り込んでしまうと、器官や肺などの臓器を痛めてしまう。水も汚染され、発電所も稼働出来なくなる。車も粉塵で動かなくなり、全ての生活の基盤が危ぶまれてくる。内閣府による試算によると、
もしも、富士山が噴火しそれらの状況が起きた場合の被害は、山梨、静岡、神奈川だけで済まされない。風向き次第では関東周辺まで被害は広がるだろう。いや、予想はつかないのだ。
とTVでは、最近地震の話題が多い。確かにルークと出会った日に、四国室戸岬沖で大地震が起きたと話題になった。「南海トラフ大地震」の前兆だ! と世間では大騒ぎしたのに、いつの間にか落ち着いてしまった。しかし四国沖の地震は治まりつつも、日本全国各地で余震のようなものは発生している。日本沈没にならなければ良いが……。
——インキュバスの戦いから3週間後。
俺の体の調子も少し良くなった。
予定に従うまで、卯月は毎日俺のアパートに来ていた。仕事終わりや休日は朝から晩まで……。まるで彼女みたいだ。とはいっても本当は俺はそっちのけなのだ。卯月はルークにしか関心が無い。翼の生えて人語を話すハムスター。自称大魔王様に興味マシマシてんこ盛りだ。この奇妙なハムスターのちっこい背中に、世界の命運がかかっているとは、誰が信じてくれるだろう。
PCの俺達の専用サイトを確認してみた。「心霊怪異相談」の問い合わせのメールBoxには十数件の着信があった。
「なんだ? ネズミが家や下水道で凄い数が確認されているって?……。なんだ、そりゃ? 静岡や山梨から依頼が来てる」
「こっちは虫が空を覆いつくすように、移動している。ってあるわ? これって、私たちの心霊怪異には関係ないんじゃない?」
「う~ん。こっちは廃墟の村に続くトンネルに、オートバイに乗った半身が無い幽霊が出る! って、こりゃ、よくあるネタじゃないか。もっと、前回のような猟奇的な依頼なんて一つもないじゃないか。ダメだな。大した情報も上がってこないんじゃ、卯月ちゃんの実家の神社でも行こうか?」
「じゃあ、明日の朝一でこちらを出発しましょうか。私、今夜家に電話しておくね。何も無い田舎だけど、いいところよ。久しぶりに実家に帰れる~」
「なに言ってんだ、3月末からの上京だから、まだ半年も経ってないじゃないかよ。卯月ちゃん、ホームシックかい?」
「だって、ず~っと地元に居たから、そりゃあ、なるわよホームシック」
そんな事を話していた。PCによる怪しい怪異情報は特に目立って入手出来ていない。日本国内の猟奇殺人のニュースもこれといったところ無い。果たして平和とよべるのだろうか。俺達が気付かない水面下で何か
件の連続女子高生連続不審死の被害者のお腹から、四つのナニカが出て来ているんだ。それらは、一体何処にいるのか。なりを潜めて暗躍する機会を伺っているのではないのだろうか? インキュバスが言っていた仲間とは一体?……。
ズン———。
俺が考え事をしていた時に、地面が震えた。ほんの一瞬だけだ。1秒ほどだ。
まるで、水面に石を投げた時に起こるような波紋が、地面の揺れじゃなくて空気の振動で伝わったような気がした。空間の揺れだ。
その時、TVの画面にニュース速報のテロップが出た。
「只今、地震が発生しました。発生場所は、富士山麓と四国室戸岬沖、同時に震度7マグネチュード10————」
「「な、なんだって————?」」
俺と卯月はTV画面に釘付けになった。
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