いくつになっても人は愛に不器用だ

蒼桐 光

第1話 はじまり

君と約束を交わしたあの日から何度生まれ変わっただろう

何千年もの時を経て

やっと巡り会えた

唯一無二の存在

僕の最愛の人


建ち並ぶビル

鳴り響く車のクラクション

通勤途中の人々の姿

日本という国に生まれた

比較的平和で穏やかで

戦争の無い平和な世界だ

自分自身の内面に向かう事が出来る余裕のある場所だった

今世では、男性に生まれ

藤田大地(フジタ ダイチ)という名を授かった。


PiPiPiPi PiPiPiPi...

カーテンの隙間から流れ込む朝日

眠い目をこすらながら携帯のアラームを止めるとすかさず鳴り響く電話

電話越しにはいつもの明るい声

「おはよう」

「ん、おはよー」

「起きた?今日もお仕事頑張ってね」

「おー」

高校を卒業して、専門学校を2年

社会人になって4年が経とうとしていた。

就職を機に家を出た俺は、小木 梨花(オギ リカ)とは、遠距離恋愛をしていた。小学校の頃からの幼なじみで、高校卒業と同時に付き合い始めた

もう、数ヶ月会っていない。

仕事も落ち着いて来たし、いずれはこっちに呼んで一緒に暮らすんだろうなとぼんやりと考え始めていた

洗面所に向かい

ボサボサの頭を直して顔を洗う

食パンをトースターに入れている間にコーヒーを入れた

主にブラック、たまにカフェオレにする

コーヒーを飲み、トーストをかじりながら、何の夢を見ていたか、思い出していた

何だかとても懐かしい夢だった気がするが、思い出せ無かった


いつもの時間に家を出た

職場は自転車で十五分程の場所にあった

地下鉄を使うという手段もあったが、学校を卒業してからというもの通勤時間が唯一体を動かす機会となっている

体を動かすのは好きだし、人混みよりも朝の空気を吸いながら、自分のペースで通勤できる方が、自分には合っていた

オフィスは、ビルの4階にあった

エレベーターは使わず、階段を使用する

もちろん、体力づくりの一貫だ

テレワークが主流になり、20人近く居たはずの社員が揃うことは少ない

だいたい一番乗りは俺か社長だ

階段を駆け上がる

会社の鍵を探して、カバンを漁る

ふと、ドアの前に、社長じゃない誰かが佇んでいた

俺が足を止めると

振り返る

束ねられた長い髪が揺れる

目があった


一瞬、時が止まる


「おはようございます」

元気な笑顔だった


その直後、社長が顔を出した

40代後半、バツイチ

伸び切った髪と髭、黒縁メガネが特徴の我社の松山社長

「おっ、おはよう藤田」

「今日は、俺の勝ちだな」

「同僚の、岩沼がもうすぐ産休に入るだろう?その間の仕事、引き継ぎしてもらおうと思ってて」

「本日から一年間お世話になります。茅野小春(カヤノ コハル)です。よろしくお願いします」

それが、彼女との出会いだった


一瞬時間が止まったかのような気がした

衝撃的だった

まるでカミナリに打たれたような不思議な感覚を覚えた

一つに束ねられた長いストレートの髪

ナチュラルメイクで

派手では無い服装

それでも彼女は、美しくて儚げで

初めて会った気がしなくて

どこか懐かしくて---

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