第2話 彼女が告げた事実

彼らは、牢獄から出るべくその出口へと歩いていた。


罪人とその女性との間には気まずい空間が漂っていたために、会話など起きるはずもなかった。

しかし、罪人は聞きたいことが多すぎたために意を決して話かけることにした。


「なぜ俺をだしたんだ?」


とまず1番気になっていたことをいってみた。


「そうですね。そろそろお話しましょうか。」


意外にも話してくれるみたいだ。

彼はなにも知らないまま出ることになると思っていたので、彼は意表をつかれた気持ちになった。最初、あの部屋から出る時の態度などで、この女はヤバい奴だと認識していたからだ。

が、以前として、彼女は冷たい目線をしている。とりあえず話してあげましょうという感じだ。それでも彼に取っては万々歳であった。


「私達には、あなたの力が必要になってしまったからですよ。」


彼女は、悔しそうな態度であった。しかし、彼から見れば彼女が強いというのは明白であった。ただ、普通に話してくれているように見えるが、そのたたずまいには、全くもって隙などない。それだけではないのだ。あの時、彼にナイフを突きつけた時、彼女の動きは流麗であった。動きには無駄が無く、最短距離で狙ってきていたのである。あの速さは、尋常ではない。彼女の力量は既に相当なものであると彼には分かっていた。

「なぜ俺の力を必要としているんだ?」


彼は、罪人だ。

いくら力が必要だからといって、彼を牢獄から、出していいはずなどないのだ。彼は、トップレベルの牢獄にいた主なのだから。彼は最重要危険人物であり、単身で核兵器を持っているような人だ。

そうでなくては、彼専用のあの牢獄など作られるはずがないのだから。

それだけに、彼女が言っていることは、頭のおかしいことなのである。


「今の世界が、滅びかけているからですよ。」


答えは単純だった。


「……」


何も言えなかった。

そんな荒唐無稽な話あるのかと思った。彼は、今の言葉を信用することができなかった。

だが、彼女の目は真剣だった。

人の目とは、不思議なものである。ラインでのやり取りでも、簡単に連絡がつくが、送り主の本心などわかりやしないのだ。言葉だけなど、いくらでも相手を言いくるめることが出来てしまうからだ。自分を騙ることだって簡単にできる。悪意があったとしても、言葉だけなら、簡単に取り繕うことが出来、それを受けてが、信用できるか判断するのは至極難解なものである。

《ルビを入力…》だが、目や口調を騙せる人間は数少ない。

営業スマイルと言って、人当たりをよくしようとしている人もいるために、一概にとは言えないが。大人の世界の話である。SNSだけだと、信用のないものが多い。むしろそれで溢れかえっている。

だから、人が対面して取引などをするのだ。そうやって少しずつ関係を深めていく。相手との良好な関係を築くためにも、そういった取り繕いを人はしている。

ゆえに、人が出るのは顔である。

顔は人を印象づける最大のポイントと言っていい。

何をするにしても、この第1印象が大切なのだ。

だからこそ、彼女が真剣なのだと、分かってしまった。

それだけに彼は狼狽えてしまったのだ。


世界が滅びゆくことを、荒唐無稽な話を、事実なのだと認識したからだ。


「それは本当なのか?」


彼は未だに信じられないような様子であった。


「はい、本当のことですよ。」


彼女は、相変わらずの態度であった。

だからこそ、ありえないはずの話しが真実味を帯びていた。もう彼は、信じることにした。



「なぜ滅びかけているんだ?」

そこが疑問であった。


「それは、もう見てもらった方が早いですよ。案内しますから、着いてきてください。」


彼はついて行くしかないので、その通りにした。 彼は罪人であるが、賢い。教えてくれないのか?というそんな質問など答えないと分かっているから、無駄なことは、辞めたのだ。彼女は、そう言う人間なのだと牢獄から出るまでの短時間であるが、彼には、そう感じた。そう、直感である。彼の脳内では、彼女は「黙ってください。見た方が早いっていってるんですよ。」と言われるに違いないと思っていたのである。


彼らは地下深くの牢獄から出ることになるまであと少しの距離だった。だが、近づくにつれ、破壊音が聞こえてきた。嫌な予感である。やっとの思いで出られると思ったが、そう簡単には上手くいかないのが現実であった。


そこに現れたのは、まさしく化け物であった。

うねうねとした触手が周りを破壊しまわっていた。そのため、ここはもう崩落しかけている。


「やばいぞ、なんだあれ……」


彼は、初めて見る化け物にそう呟いてしまった。

しかし、彼にそんな悠長な時間はない。

彼は罪人であるため、まだ拘束されたままだ。力など発揮できないのである。走って捕まらないようにすることで精一杯であった。


「おい、なんとかしてくれ!このままだと、俺出る前に死んでしまうぞ!」


彼はめいいっぱい叫んだ。

彼女は、冷たいえみを浮かべていた。

一瞬見蕩れそうな程美しい姿であったが、それは夢のようだった。


「これぐらいあなたがなんとかしなさい。」


彼女は、鬼であった。そして、俺の事を嘲笑っているかのようでもあった。

彼は、思った。ふざけるなと。

お前なら、あいつを倒すことができるだろと。

あんな奴に期待した俺がバカだったんだ。

そう思えてくると、無性にイラついてきた。

彼は決意した、あの女を文句を言うまで死ねないと。


「化け物なんか潰してやる。」


彼はそう告げた。



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