蒼天を仰ぐ~お転婆王女と気弱な従者~

龍二

プロローグ

プロローグ

 年がら年中晴れている『太陽に愛された国ドュフテフルス』。雨の量は少ないが、周囲を囲う山から流れ出る川のお陰で何とか水は足りている。陽の絶えぬ、笑いの絶えぬ、理想郷。


 そう呼ばれたのも今は昔。




 4年前、北の山から分厚い雲が流れ出した。最初は日に焼けたくない乙女たちが喜んだ。ここぞとばかりに素肌を晒し艶姿を披露する彼女らを、鼻の下を長くして男たちも歓迎した。


 しかし、そうして喜べたのもつかの間だった。待てど暮らせど雲は晴れぬ。それどころか、その範囲をどんどんどんどん広げる始末。薄暗い空の下、人々の顔が不安に歪む。


 座していては国が亡ぶ。王は調査隊を発した。国有数の賢者、魔法師団に護衛として王直属の騎士団が付き添う盤石の体制だった。




 調査隊が出発してから2か月後、すさまじいほどの雷が降り注ぎ、人々は不安に震えた。




 彼らは帰ってこなかった。




 王はまた、調査隊を発した。山に通ずる市井の狩人のみで構成された、生きて帰ってくることだけを望まれた一団だった。


 彼らが出発してから二か月経ったある日、国中に雨が降り注いだ。幾つかの村が溢れだした川に飲まれ消えた。特に雨の酷かった地域では地形すら大きく変わってしまった。




 それからまた二か月がたったある日ふらりと、王城を一人の男が訪ねた。


 全身泥に塗れ、髪は伸びるがままに任せ、どこを見るともなくどんよりとした眼を半分に閉じて。げっそりとこけた頬は、どこか冥府の幽鬼を思わせた。擦り切れ、所々に空いた服の穴からは固まったまま放置され黒く変わった血がのぞく。




 どこの誰とも知れぬ男を王城に入れては衛兵の名折れ、呼び止め誰何すいかする衛兵は、男の首に紅く煌めく宝石を見つけた。衛兵は驚きのあまり顎が外れんばかりだった。そのネックレスは、かつて大規模な魔物の狂騒フーラルの首魁を射抜いた国一番の狩人に下賜されたものだった。




「まさか、お前、いや貴方は剛弓で鳴らしたあのヘルムートなのか!?」




 出立前の彼は、人喰鬼とオーガとすら真正面から組み合える屈強な腕、王を前にしても微塵も揺らがぬ精神力、町を歩けば女も男も振り返る野性味あふれる顔を備えた、国一番の狩人だった。




 彼は衛兵を見つけるやいなや縋りつき、泣いた。その涙を見て衛兵は悟った。こいつしか、生きては戻れなかったのだ。








 彼の語ることは、支離滅裂で、それでいて漠然とした恐怖、焦燥、絶望を聞くものに感じさせずにはいられなかった。




「北の山には、竜が棲む」




 そう言って彼は事切れた。






 これを受けて王は、ある勅令を発した。




「竜殺しの英傑には、望みの褒美を取らせよう。家からあふれるほどの財宝も、貴族の位も、我が娘すらも」




 王女は、国で一番の美女だと評判だった。『太陽に愛された国』にあって、最も太陽に愛され、彼女が笑えば太陽すら恥じて隠れる、と言わしめたほどの美女。闇の中、自ら光を発するが如きその姿。美しく煌めく鳶色の瞳。金を編むより更に澄んだ黄金の髪。陽に良く焼けた国民とは似ても似つかぬ白磁の肌。




 国中の男たちは湧き立った。彼女を伴侶と出来るなら、そう思い、無謀な若者が何人も北の山に吸い込まれていった。噂を聞きつけ、遠く離れた異国の地からも腕に覚えのある武芸者や魔導士が竜討伐に乗り出した。




 王が勅令を発した時より数えて3年。未だ王女は誰の物ともならず、北の山には天高く無数の躯が積もる。雲が、晴れる気配はない。






































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「何よ、皆だらしないわね!こうなったらアタシが直接行ってでっかいトカゲ如きぶちのめしてやるわよ!」


 

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