婚約破棄は望むところです、ただどちらの有責事項が多いのかはきちんとさせましょう。

江戸川ばた散歩

第1話

「オーガスタ・アルスティン侯爵令嬢、お前に婚約破棄を要求する!」


 それは私の婚約者、ザイマト第二王子の成人のお祝いパーティの出来事でした。

 彼は私にぴっと指を突きつけると、高々とそう宣言し、それを合図の様に側に可愛らしい姿の女性を近づけました。


「婚約破棄とはまた仰々しくこんな場所で。して、幾ら王子殿下とは言え、侯爵令嬢たる私にそうおっしゃるからには、きちんとした理由がおありなのでしょうか?」

「このトレミアが証言した! お前はお茶会の際に彼女の態度に非常に強い暴言を吐いたそうだな。いやそれだけではない、そもそも来る資格も無いと言ったと聞く!」


 トレミア、と言うと。

 そう言えば確か先日、いきなり王妃様主催のお茶会に来た…… 確か男爵令嬢でしたか。


「それだけではない。彼女が王宮の花園に入って花を愛でていたら、とんでもないことだ、と花を取り上げたそうじゃないか。

 それに、彼女がこの様なパーティに参加するとしばしば物が無くなるらしいな。それもお前の仕業ではないのか?」


 ザイマト殿下がだいたい言いたいことは言ってしまった様なので、私もそろそろ反撃しましょう。


「なるほど、それが理由で私と婚約破棄致したいのですね」

「そうだ。そして俺はこのトレミア・フレクタル男爵令嬢との真の愛を貫いて、二人幸せな生活を送る、それが人としての正しい道だと気付いたのだ!」

「なるほど。婚約破棄自体は承知致しました」

「ほぉ」

「しかしどちらが有責か、ということに関しては私も少々言いたいことがございます。ちょうど今日辺り貴方様にお伝えしようと思っておりましたので、用意を」


 すると私の従者達数名が、その場に集合しました。


「例の物を」

「はっ」


 何だ何だとお客の方々も騒ぎ出しました。

 そこにごろごろと音を立てて持ち出されてきたのは、足に車をつけた黒板です。

 よくありますでしょう、何かしらの軍務において、作戦を立てる際の。

 あれを少々お借り致しましたの。

 私はチョークを手にとると、彼の言ったことをそのまま書き出しました。


 オーガスタ・アルスティン侯爵令嬢がトレミア・フレクタル男爵令嬢にしたとされること 

・お茶会にての酷い暴言

・お茶会に来る資格が無いと発言

・王宮の花園で叱責かつ花を強奪


 ここまで書いて、私は一旦チョークを止めました。


「ここまでが私がしたとトレミア嬢がザイマト様に申したことですね」

「……そうだが?」

「つまり、あくまでトレミア嬢の主観における訴えでございます。ではこれを私及び、周囲の人々の主観と照らし合わせてみましょう」


 私はそう言って以下の文章にカッ、と音を立ててチョークを付けました。


・お茶会での酷い暴言

・お茶会に来る資格が無いと発言


「これはトレミア嬢がみえた時ですから、確か、王妃様主催のものでしたわね。これに関しては皆様、如何でしょう?」

「当たり前じゃないの! 王妃様主催のお茶会にどうして男爵令嬢がそもそも来ることができて!」


 ザイマトのすぐ上の姉君、デミデシア王女殿下がすかさず進み出ました。

 普段から私と仲良くして下さるこの方は、確かあのお茶会において、私以上に彼女がいきなり登場したことに憤慨していたはずです。

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