2-12

「もしかして、四ノ宮さんに恋人ができるのが、嫌? たしかに恋人ができたら、友達は二の次になることも多いけど……」


「っ……!」


 瞬間、ものすごい形相でにらみつけられる。おっと……図星だぞ。これは。


 しかし、昨日のような氷の冷笑でいけずを言うことなく、ただほんのり顔を赤くして、ふいっとそっぽを向いてしまう。

 土下座して謝る気満々だった僕は驚いて、まじまじとその横顔を見つめてしまった。


「錦、さん……? あのー……」


「……昨日といい、今日といい、地雷原に突っ込んでいく趣味でもありますの?」


「……ツッコミがストレートすぎないか?」


 たしかに、昨日からお姫さまの地雷を踏みっぱなしだけど。


 いけずが言えないぐらい、動揺するなよ。


 っていうか、地雷ってことは、当たってるんじゃないか。え? なにそれ。可愛いとこあるじゃん。


「大事なんだ?」


「あの子は、世間知らずなんよ……! 純粋で、素直で、うちみたいにすれてへんから、人のことすぐ信じよる。騙されやすいんよ。ほんま、危なっかしいて……」


 錦さんが顔を歪めたまま、苛立たしげに言う。――いや、答えになってないから。


 でも、それだけで充分だった。どんな言葉を尽くすよりも、伝わってきた。錦さんは、友達のことがとても好きで、とても大事にしているんだってことが。


「そういうことが、今までにも?」


「……『遊ぶ』ために近寄ってきたのが、何人かおったわ。幸い、大きな傷になることはあれへんかったけどな。その前に、うちが撃退したったから」


「……何をしたんだ……」


 怖っ……。


「ま、まぁ、長瀬さんのほうは、まだほんのり意識したって程度だと思うけど、でもあの感じなら、遊びで付き合うってことはないと思うから、安心していいと思うよ。長瀬さん、四ノ宮さんに本気で感謝してたから……」


「何言うてるの? 本気やったら、もっと嫌やわ! そっちは邪魔できひんやないの!」


 あ、真剣交際だったら、邪魔する気はないわけね。いいヤツじゃん。


 思わず、声を立てて笑ってしまう。

 そんな僕をにらみつけて、錦さんは噛みつかんばかりに言った。


「ほんまに余計なことしてくれて! 千瀬ちゃんに近づく虫が増えたやないの!」


 ――もしかして、僕や一陽さんも、その『虫』に含まれてるんですかね?

   



   

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