第94話 デート

「ハル先輩、行きましょう!」


「ちょっ、どこに行くんだ!?」


俺は、桃華に引っ張られるまま、美容室を後にした。


美容室は大通りにあった為、出た瞬間たくさんの人に目撃されてしまった。


「えっ、あれってHARU様じゃない??」


「え、でも髪型が」


「めっちゃ格好いい!!」


「長いのも良かったけど、短髪は何倍も良いぃ♡」


うわぁ、すげぇ目立ってる。流石にこれはまずいだろ。


「桃華、早く帰ろう」


「わかりました。では、目的地へ急ぎましょう」


「目的地?」


「はい、こっちです!」


俺達が向かった先は、この辺で一番大きな公園だった。公園と言っても、端から端が見えないほど大きく、真ん中には大きな池がある。


ここは、よくカップル達が来る場所で、この辺では有名なデートスポットである。


まさか、俺がこんなところに来る日が来ようとは思っても見なかったな。


「ここに来たかったのか?」


「はい、そうです!他の人達と違って、私達ってあんまりデートしてないじゃないですか?不公平だと思うんです。なので、このカップル達の聖地で、存分にハル先輩を堪能しようかと」


「な、なるほど」


確かに、桃華とは撮影とかがあって、一緒にいる時間も長かったが、スポッチ以外はあんまり出かけてないかもしれないな。


桃華の気が済むなら、これくらいお安い御用だな。


「それで、ここで何するんだ?」


「ただじっとしてるんですよ」


「えっ、それだけ?」


「それだけです」


俺は、それでいいのか?と思ったが、桃華がいいと言うならそれでもいいか。


「先輩、ベンチに座りましょう!」


「お、おう」


俺達は、ベンチに座ると他愛のない話で盛り上がった。


「それにしても、ハル先輩って、やっぱりイケメンですよね。そこらへんのイケメンが霞むほどに」


「そ、そうか?」


「そうですとも!香織先輩がなんで髪を切らせないのか、やっとわかった気がします」


「?」


顔を隠したいからじゃないのか?それ以外に髪型を伸ばす理由が見つからないが。


「先輩の顔を隠してるだけだと思ってたんですけど、髪を切るとこんなに印象が変わるんですね。未だに動悸がおさまらないですよ」


「だ、大丈夫か?もはや病気なんじゃないか?」


俺は本気で心配しているのだが、桃華は飄々としている。


「ハル先輩、たまにはゆっくりするのもいいですねぇ」


「そうだなぁ。明日から仕事で忙しいみたいだし。しばらくゆっくり出来ないな」


「私も明日からまた仕事でしばらく忙しいので、次に会うのは始業式ですかね?」


俺も桃華もそれぞれ仕事で忙しくなるため、2人でゆっくりできるのは今日だけだろう。今日くらいは桃華の好きにしてやろう。


「ハル先輩」


「なんだ?」


「ん、ここ」


桃華は、俺の頭を指差した後、自身の膝を叩いた。どうやら膝枕をしてくれるらしい。


俺はキョロキョロとあたりを見渡すが、ちょうど俺達の周りには人が少なかった。


あんまり人前でやりたくないのだが、桃華は目を輝かせて待っている。もう、行くしかない。


俺は、諦めてゆっくりと身体を倒しながら、桃華の太腿に頭を乗せる。桃華は、今日ショートパンツを履いているため、桃華の太腿の感触が直に伝わってくる。


「ハ、ハル先輩、ど、どうですか?」


「ん、あ、あぁ、なんか、良いと思う」


俺は慣れないことをしているためか、なんと反応していいかわからなかった。


「そ、それは、良かったです!」


桃華は照れながらも、満面の笑みを浮かべると、俺の頭をを撫ではじめた。


俺は、ふだん彼女達の頭を撫でることはあっても、撫でられることが少ない為、変な感覚だった。しかし、これも悪くない。明日安心する感じがする。


俺は、美容室に行くなど、今日は慣れないことをしているためか、無性に眠たくなって来た。


「ハル先輩?眠いんですか?」


「ん、少し」


「ふふ、可愛い。いいですよ、少し休んで下さい」


「悪い、本当に寝ちゃいそう・・・・」


なでなで


「おやすみなさい、ハル先輩」


それが、俺が聞いた最後の言葉だった。俺は桃華の手の温もりに、癒されながら意識を手放した。


ーーーーーーーーーー


や、やばいです。


ハル先輩、めっっっちゃ、格好良い!!


まさか、髪を切るだけでこんなに印象が変わるとは思ってなかったです。香織先輩はこんな先輩を独り占めしてたんですね。


羨ましいです。私も幼馴染だったら、ハル先輩のこともっと色々知れたのに。


しかし、新しいハル先輩を知れるのも、また楽しみの一つです。今日は時間いっぱいハル先輩を堪能しなくっちゃ!


私は、半ば強引にハル先輩を美容室から連れ出しました。美容室を出ると、沢山の人から視線が集中しました。


特に女性からの視線は、いつにも増して熱いものでした。ハル先輩の破壊力はハンパないです。先輩を見てフラフラしてる人まで居ました。


それも、そうでしょう。しばらく時間をかけて慣らした私でも、まだ心臓がうるさいです。慣れるには時間がかかりそうです。


それから私達は、近くの公園へと向かいました。ここはカップル達がよくデートに使っている場所で、彼氏が出来たら一度はここに来てみたいと思っていました。


そして、やってみたいこともあります。


「ハル先輩」


「なんだ?」


「ん、ここ」


私は、ハル先輩の頭を指差した後、自分の膝を叩きます。そう、私は膝枕がしてみたかったんです。


以前、綾乃先輩がみんなの前で、公開膝枕をしたと聞いて、私も一度やってみたかったんです。


ハル先輩は、あたりを見渡すと渋々私の太腿に頭を乗せてくれました。


な、なんでしょう。先輩の髪型短いからでしょうか?


すごく、くすぐったいです。先輩はどうなんでしょう?気持ちいのかな?


「ハ、ハル先輩、ど、どうですか?」


「ん、あ、あぁ、なんか、良いと思う」


なんだか、ハル先輩も戸惑っているようです。でも、不快ではないようですね。


「そ、それは、良かったです!」


私は、少し頬を赤く染めるハル先輩がとても愛おしく感じ、つい頭を撫でてしまいました。人の頭を撫でるって、結構気持ちいいです。


あれ?なんかハル先輩の様子が・・・。


もしかして、眠いのかな?


「ハル先輩?眠いんですか?」


「ん、少し」


うとうとしながら、軽く相槌を打つハル先輩。やばい、すごく可愛い!!


「ふふ、可愛い。いいですよ、少し休んで下さい」


「悪い、本当に寝ちゃいそう・・・・」


「おやすみなさい、ハル先輩」


私はしばらくハル先輩の頭を撫でて、ハル先輩を堪能しました。


30分ほど寝てるでしょうか?


そろそろ起こしても良かったのですが、私はすやすや眠るハル先輩を見て、無性にキスしたくなってしまいました。


「綾乃先輩だって、やってるんだから、私がやったっていいよね」


私はあたりを見渡すと、カップルが何組か居ましたが、こちらを気にする様子はなかったので、そっとハル先輩の頬にキスをしました。


ちゅ


「あぁ、ハル先輩。どうしよう」


私は、ドキドキが止まりませんでした。そして、キスしたい衝動は収まることなく、むしろさらに大きくなったように感じます。


私は、その後も何度か様子を見ながら、ハル先輩を堪能しました。


以前の綾乃もそうだったが、この時の桃華も周りを見ているようで、全く見えていなかった。


桃華が、周りの人達がこちらを見ていないと思った何は訳がある。


周りの人達は、晴翔に悶えながらも、周りを気にしながら何度もキスをする桃華をちゃんと見ていた。


しかし、すごく幸せそうにニコニコしている桃華を邪魔してはならないと、周りは遠巻きに見ていた。


『桃華ちゃん、すごく幸せそう』


『邪魔しちゃ悪いよな』


『見て見て、あんなにニコニコして、可愛いわ』


『美男美女は見てるだけで幸せになるわ』


桃華だけでなく、周りの人達も幸せを噛み締めている頃、晴翔はようやく目が覚めた。


「ん、ん〜、よく寝たぁ」


「ハル先輩、おはようございます」


ちゅ


私はもう気持ちが止まらなくなり、ハル先輩におはようのキスをプレゼントしました。もちろん唇に。どうしましょう、止まりません。


その日、しばらく会えなくなる寂しさを紛らわすように、桃華はことあるごとに晴翔にキスをした。


ーーーーーーーーーー


その日の夜。


晴翔は自身のSNSに、画像をアップした。


『髪切りました』


たった一言呟いただけだったが、世の女性達には刺激が強かったようで、その日、動悸を訴える女性が多発したらしい。


「あれ、おかしいな?」


この投稿は、皆一様にノックアウトされたため、HARUにしては珍しく、全く反応が返ってこないという珍事を記録した。

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