第77話 晴翔なら

「晴翔、チャーハン美味しかった?」


私は料理対決を制し、晴翔とのデートを勝ち取った。久しぶりに晴翔とゆっくり出来ると思うと、気分は最高潮だった。


「ねぇ、明日はなにする?」


「明日?うーん、どうするか」


本気で悩んでる晴翔を見るのも楽しい。晴翔が一緒なら何をしてても楽しいんだろうな。


「私は晴翔と一緒なら、座って話してるだけでもいい」


「そっか、じゃあちょっと考えとくよ」


「うんっ!」


ーーーーーーーーーー


次の日の朝。


みんなで更衣室へと向かう際、私は晴翔にしがみついた。今日は私のもの。


「晴翔は私がもらう」


晴翔は、未だにこういう密着に慣れていない。かく言う私も、恥ずかしさを押し殺しているので、人のことは言えない。


「晴翔♪」


「な、なに?」


ふふふ、今回は私が主導権を握るんだから。絶対に晴翔のペースに合わせちゃダメ。


晴翔は恋愛に関しては、ど天然だからたまにすごいクリティカルを繰り出す時がある。以前のようにはならないからね。


「綾乃ちゃん、ちゃんと自重してよね」


「そうですよ、まだ高校生ということを忘れないで下さいね」


「まぁ、高校生なら一夏の過ちくらい」


「「ダメ!」」


「一夏の過ちか。なんと刺激的な響き」


このパワーワードは、たしか香織が持ってた漫画に出てきたぞ。だ、男女が、いけないことしてたやつだ。


「あ、綾乃さん?」


私も夏の暑さにやられ、晴翔といけないことをするのか?ごくりっ。


「晴翔、心の準備はできてる。優しく頼む」


「いや、ここ海だからね。普通に遊ぼうよ」


はっ!


この流れも確かあったぞ。これはそう、あれだ。


「なるほど、焦らしプレイというやつか、上級者だな晴翔は」


で、でも良かった。調子に乗ってたら、変なこと言ってしまった。危ない、危ない。


「と、とりあえず、行こうか」


「うん!」


私達は更衣室に着くと、さっそく水着へと着替える。なんと、今日は新しい水着を持ってきている。


ジャーン!


昨日よりも、ほんの少しだけ布が少ない水着だ。これは買うかどうか悩んだが、みんなにつけられた差を埋めるためには、少し大胆に行かないと!


私は水着に着替えると、鏡の前に立つ。


そして、映し出された自分の姿に、私は恥ずかしくなってしまった。


「あ、綾乃ちゃん。もしかして、それで行くつもり?」


「綾乃さんは、結構大胆なんですね」


「勝負水着ですね」


なんだよ、みんなして!!

笑いたければ笑えば良いじゃんか!


私はみんなに先に出てもらい、深呼吸してから後を追った。


ドアを開けると、目の前には晴翔の姿があった。私の格好をみて、目を見開いている。


あんまりまじまじ見られると、恥ずかしい。


私が羞恥心と戦っていると、晴翔はボソッとつぶやいた。


「可愛いな」


えっ?


今、可愛いって言ったよね?


それに、あの感じだと心からそう思ったってことかな?あれ、やばい、恥ずかしくなってきた。


「よし、じゃあ悪いけどみんなは店の宣伝お願いね。綾乃行こうか」


「う、うん」


もう、可愛いとかすぐ言うなし。どうやら今日も、私は晴翔にトロトロに溶かされてしまいそうだ。


ーーーーーーーーーー


俺はいま、綾乃と手を繋いで浜辺を歩いていた。昨日、一晩中考えたが、特にやることが見つからなかった。


なので、とりあえずは2人で散歩をすることにした。


「綾乃と2人っきりも、久しぶりだな」


「そ、そうだね」


先程から、綾乃の様子が少しおかしい。ちょっと前までは余裕の態度だったのだが、急に昔の綾乃に戻った感じがする。


前はこうして手を繋ぐだけで、真っ赤になってたもんなぁ。綾乃も少しずつ慣れてきてるんだな。


「な、なにさ。あんまり、まじまじと見ないでよ。・・・照れるじゃんか」


綾乃は、ほんのり赤く染まった頬を、パタパタと手で仰いでいる。


本当にこういうところは、綾乃のすごいところだ。無意識にするこういう仕草に、ドキッとさせられる。


「綾乃は可愛いね」


「〜〜〜!?」


綾乃は俺の手を離したと思ったら、俺の胸をポカポカと叩き始めた。


「ばかばかばかぁ〜」


「ど、どうした?」


散々叩き終わったあと、綾乃はギュッと俺に抱きついた。


「むぅ、好きだバカやろぉ」


な、なんだ、この可愛い生き物は。本当に同じ人間なんだろうか?


俺はたまらず、綾乃をギュッと抱きしめた。


「ひゃっ!?晴翔っ!?」


「バカは余計だよ」


「ご、ごめん」


「冗談。俺も好きだよ、綾乃」


耳元でそう囁くと、みるみるうちに綾乃の顔は茹蛸になっていく。


「は、晴翔、少し休もう。な、何か飲みたい」


ちょっとからかいすぎたかな。綾乃は悶えながら岩場に腰掛けた。


「何か買って来るから、ちょっと待ってて」


「うん、ありがとう」


さて、ここからだとあの店が一番近いか。俺は、あたりを見渡すと、ちょうど飲み物を売っているお店があったため、そこへ向かう。


流石に、こういうところで買うと飲み物も結構な値段がするもんで、一本200円もした。


とりあえず、炭酸と水を一本ずつ購入して、綾乃の元へと戻る。


「綾乃、お待たせ」


「ありがとう、もう干からびそうだよ」


綾乃は俺から水を受け取り、少し口に含むとペットボトルを額にあてる。


「冷たくて気持ちー」


「ははは、少し海に入ろうか。少しはマシになるよ」


「うん、そうする。一緒に行こう」


綾乃は飲み物を岩場に置くと、着ていたTシャツを脱ぎペットボトルと一緒に置いた。


「似合ってるね。可愛いよ」


「ほ、本当に?」


「本当だよ。こんな可愛い彼女が居るなんて、俺は幸せだよ」


俺は綾乃の額に軽くキスをする。


「ふにゃぁぁぁ!?」


変な声を出したと思ったら、バッと両手で額をおさえる綾乃。顔はすっかり真っ赤になっていた。


「・・・が、いい」


「ん?なに?」


上手く聞き取れず、聞き直すが、綾乃はもじもじしている。


「・・・口が、いい。口にして」


目を瞑り、ややこちらを見上げる形で綾乃は、俺を待っていた。


俺はそっと、綾乃の唇に自分の唇を重ねた。


「っん、ん、んん、っぷはぁ」


唇を離すと、綾乃の顔がよく見えるようになる。頬を染め、目はとろんとしており、少しだけ開いた口がまた可愛い。


「はるとぉ、ぎゅってしてぇ」


甘え上手な綾乃の言う通りに、俺は綾乃をギュッと抱きしめた。綾乃を包み込むように抱きしめると、女性特有の柔らかさがとても心地よかった。


「幸せぇ」


しばらくの間、幸せを噛み締めていたが、外であることを思い出すと、無性に恥ずかしさが込み上げてきた。


「そ、そろそろ、海に入ろうか?」


「そ、そうだね」


俺達はぎこちなく会話をしながら、ゆっくりと海に入っていく。


「冷たくて気持ちい〜」


「たしかに」


俺達は、胸元あたりまで海水がくる深さまで来ていた。2人とも泳ぎには自信があるが、足がつかないところは怖いので、ここまでにした。


「ね、ねぇ、晴翔」


「ん?どうした?」


「は、晴翔はさ、その」


綾乃はもじもじしては、こちらをチラッと伺い、またもじもじしている。


どうやら聞きたいことがあるようだが、どうしたのだろうか?俺は、綾乃が落ち着くまで待つことにした。


「こんなこと、聞くのもアレなんだけど」


「うん」


・・・。


「晴翔はさ、・・・でしょ?」


ん?今、なにやら聞き捨てならない言葉が聞こえたような気がした。


「ごめん、もう一回言って?」


俺は、確認のためもう一度聞くことにした。うん、きっと俺の聞き間違いだ。


「晴翔は、童貞でしょ?」


聞き間違いじゃなかったぁぁぁ!?


「そ、そうだけど、それがどうしたんだ?」


なんだか自分で言っていて悲しくなって来る。なんで綾乃はいま、そんなことを聞くんだ?


「わ、私もしたことないんだけどさ。その、クラスの女子たちが、なんか、その、みんなやったことあるって、言ってて」


あぁ、そう言うことか。まぁ、高校生なら経験済みの人も多いだろう。


実際、男子の方も経験済みが多いようだ。ということは、俺は遅いのか。なんだか突然虚しくなってきた。


「だから、晴翔がしたいなら、わたし」


「えっ、ちょっと待って」


徐々に近づいてくる綾乃。心なしか息が荒いように感じる。


「・・・晴翔」


綾乃は俺の手を取ると、自分の胸に押し当てる。


「なっ!?ちょっ、綾乃!?」


綾乃の胸に置かれた手から、綾乃の心臓の鼓動がよく伝わってくる。


綾乃も緊張しているのだろう。俺は、暑さのせいか、気持ちが上手くコントロール出来ない。


「っん、はぁっ、はるとっ」


「ご、ごめん!」


俺はなにやってるんだ!?


無意識のうちに、俺の手は綾乃の胸の上で動いていた。


「は、晴翔」


「綾乃」


どことなく、生暖かい雰囲気に包まれる中、俺と綾乃の距離は近づいていく。


しかし、その雰囲気を良い意味で壊す者が現れた。


「ハル先輩ー!」


大きな声が聞こえて、俺達はバッと距離をとる。あ、危なかった。


俺は声のした方を振り向くと、浜辺からこちらに大きく手を振る桃華の姿があった。


「あ、綾乃、そろそろ戻ろうか」


「う、うん、そうだね」


俺達は、若干の気まずさを残しつつ、桃華と合流し海の家へと戻った。













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