第9話 綾乃とデート②


本屋へと向かった俺達は、さっそく参考書を見ることにした。


「ゆっくり見てもいい?」


「いいよ、ちゃんと選ばないとね」


「ありがと、時間かかるから、齋藤も本見て来ていいよ」


「俺も参考書買いたいから一緒に見るよ」


俺達はそれぞれ本を手に取って、中身をパラパラと確認しては元に戻す作業を永遠と繰り返した。


俺達も、もう高校2年生だ。大学受験を考えると、大学によっては遅いくらいだ。だが、うちの高校も偏差値はかなり高いことで有名。学年10位以内をキープ出来ていれば、大体の大学に受かると言われている。


学校独自の参考書が教科書以外にも配られており、皆んなそれをもとに受験勉強をしている。


だが、やはり心配になるのは仕方がないことで、よく市販の参考書を見にくるのだ。しかし、学校の参考書の出来はかなりいいようで、市販のものだと物足りなく感じてしまう。


チラッと大塚さんを見ると、表情は暗い。

やはり、今回は見つかりそうにないな。


俺の視線に気付いたのか、大塚さんがこっちに近づいてくる。


「どう?見つかった?」


「ううん、そっちは?」


「私もダメ。やっぱり学校のだけやっとけば良いのかね?」


「そうだなぁ。とりあえず、あれをもとに大学の過去問さらうしかないのかな」


「ごめん、無駄な時間になっちゃったね」


「気にしなくていいよ。さて、気晴らしにどっか行く?」


「そうだね。齋藤に任せていいか?」


「了解」


俺は、短く返事をすると何処に行くか考える。

遊ぶとなると、まず定番はあそこだよな。


俺達が最初に向かった先は、ゲームセンターだ。香織とも良く来ており、色々やらされるので、大抵の景品は取れるようになった。


「ゲームセンターって、私来たことない」


「えっ、マジで?意外だね」


「そんなに遊んでるように見えるのか?」


大塚さんが睨みつけてくるが、どうしても身長差があるため、上目遣いにしか見えない。可愛いな。


「〜〜〜〜〜〜!」


急に大塚さんの顔が真っ赤になり、顔を逸らすと先に歩いて行ってしまう。


「ど、どうしたの?」


「なんでもない!・・・可愛いとか、言うなし」


早く行こ!と大塚さんに急かされ、UFOキャッチャーのゾーンへと向かう。


うわぁ、景品がガラッと変わってる。

あ、これ香織が集めてるキャラクターのぬいぐるみだ。


取ってってやるか。


「大塚さんちょっと待ってて」


俺は、100円を入れると、慣れた手つきでボタンを押して行く。このゲームセンターは設定が良心的で、余程のことがなければ一発で取れる自信がある。


そして、今回も難なくぬいぐるみをゲットすることが出来た。これで香織のお土産が出来たな。


「齋藤、すごいな」


「あぁ、結構得意なんだよ。大塚さんも欲しいのがあれば取るよ?」


「いやいや、私はそういう可愛いの似合わないから」


そう言って、大塚さんは先に行ってしまった。


確かに、大塚さんがストラップやキーホルダーなど小物をつけているところを見たことがない。何か理由があるのだろうか?


そんな時、ガチャガチャのコーナーが目に入った。


『今、女子高生に大人気!』と太鼓判が押されたキーホルダーのガチャ。確か、香織も少し前までつけてたっけ。


俺は、とりあえず一回まわして、大塚さんを追った。



ーーーーーーーーーー


その後、ゲームセンターで一通り遊び尽くした俺達は、端っこの椅子で休憩していた。


「はぁ、ゲームセンターって楽しいんだなぁ」


「楽しかったなら良かったよ」


「連れてきてくれてありがと」


「いいえ。そろそろ、お昼食べる?」


時刻は14時となり、ご飯を忘れて遊んでいたようだ。今ならどこでも空いてるだろう。


「もう、ご飯はいいかな。軽めにクレープとかでどう?」


「オッケー、じゃあそうしよう」


俺は立ち上がったが、大塚さんはゲームセンターの方を向いて動かなかった。まだやりたいのがあったのかな?


「どうしたの?」


「あれ・・・やりたい」


そっと指差された方を見ると、そこには見慣れた大きな箱達が並んでいた。そうプリクラってやつだ。よく香織に誘われて撮ったっけな。


「プリクラやりたいの?」


「うん。でも、やっぱり柄じゃないよな」


クレープ行こうぜーと歩き出す大塚さん。

なぜか、引き止めた方がいいような気がした。


特に理由があったわけではない。が、俺は大塚さんの手を掴むと、ゲームセンターに向かっていた。



「撮ろうよこれ」


「い、いいの?」


遠慮がちに聞く大塚さんに、俺は小さく頷くと、2人で中へと入った。そして、お金を入れてあることを思い出した。


そう、あれは香織とプリクラを撮りに来た時のこと。プリクラを撮る際、何枚か連続で撮られるのだが、その際に機械の方からポーズを指定されるのだ。


慣れている人達は、そんなのお構いなしに自由に撮るのだが、香織から『この通りにしないとダメなんだよ?』と教えられた晴翔は律儀にそれに従っていた。さらに、彼女は今回が初めてで、晴翔の言うことに従うことになる。


やばい、またあの恥ずかしいポーズをさせられるのか?

しかし今更逃げるわけにも。むむむむ。


隣を見ると、目をキラキラさせて大塚さん。

これは・・・やるしかない。


「大塚さん、機械の方からポーズを言われるからその通りやってれば大丈夫だから」


「わ、わかった」


その後、機械から何度かポーズを指定され、俺達は必死についていく。


大塚さんは、初めからパニックになっており、『こ、こんなポーズとるのか!?』『ち、近すぎる!!』『お嫁に行けないぃぃぃ』とか騒ぎながら頑張っていた。


そして、最後のポーズ。


『最後にキスしちゃおうかー』


「「・・・は?」」


一瞬フリーズして、頭が真っ白になってしまった。


『3・2・1』


やばいやばい、どうすれば!?


『ハイ、ポーズ』


カシャっと音がしたと同時に、俺の頬に柔らかい感触が。え、大塚さん?俺はびっくりして隣を見る。


「こ、こっちみんなし・・・晴翔」


照れながら、俺の名前を呼ぶ大塚さん。頬に残る彼女の温もり。不意の出来事に、俺の頭が状況を理解するまでに、時間がかかったのは言うまでもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る