幼い頃にお前は無能だと言われて10年間監禁されていた俺、久しぶりに外に出たらモテすぎてやばい

橘奏多

第1話 天使との出会い

 俺が生まれた人里では代々男の子が生まれれば、ほとんどが勇者の力を持っていることで有名になっている。

 そんなわけで俺の父さん、じいちゃんも勇者の力を持って生まれていた。



 ――でも、俺は勇者の力なんて持たないとして生まれてきた。



「何!? アランは勇者の力を持っていないだと!?」

「……はい。アラン様は何の力も持たない、としてお生まれになったようです」


 誰もが驚いた衝撃の事実。

 生まれてすぐに勇者かを判断することは出来ない。この事実が発覚したのは、俺が5歳になってすぐの頃だった。


「そ、そんな……! でもアランは俺の子だぞ! なぜ勇者の力を持っていないんだ!」

「お、お気持ちは分かりますが……勇者の血筋があったとしても、必ず勇者の力を持って生まれてくるわけではないので……」


 俺はまだ5歳で、昔のことを全て覚えているわけではない。でもこの日のことは、何もかも鮮明に覚えている。


「そう、だよな。一体どうすればいいんだ……」


 父さんは頭を抱えていた。

 俺は勇者にはなれない。それは父さんにとって後ろめなければならないことだった。


 今までにも何度か勇者の力を持っていない子が生まれてきたらしい。だが、その子たちの存在が他の人々に知れわたることは許されなかった。


 そこで代々取ってきた選択は――――存在を消すこと。


 父さんは葛藤していたのだ。

 仕来り通り勇者の力を持たない息子を殺した方がいいのか。それとも折角生まれてきた我が子を殺さず、人々に知れわたることなく育てるのか、と。


 そこで父さんが取った選択は、後者だった。





「やっぱりいつも通り、この夢を見るんだな……」


 あの日、父さんが取った選択により、俺は誰にも見つからないよう地下室に監禁されることになった。

 最初は本が散乱しているこの地下室は不気味でしかなかった。しかし、約10年経った今では整理して綺麗にしたお陰か平気である。


 ずっと読書と筋トレをしてたら、時間が流れるのだってあっという間だったしね!


「今日の朝ご飯は……パンか」


 衣食は誰かは分からないが定刻に運んできてくれる。地下室に監禁されていると言っても、ちゃんとご飯や着替えはもらえる。そのため、嫌だと思ったことは1度もない……1度も……。

 ただ1つだけ、ずっと思っていることがあるけど。


 ――外の世界を久しぶりに見てみたい。


 約10年も外の世界を見ていない俺からしたら、久しぶりに外に出たいと思うのは無理もない。ずっと同じ場所にいるのも退屈だし。

 そんなわけで、何度か地下室を訪れた人にお願いをしてみたんだけど。


『大きくなったらね』


 返答はいつもこうだった。畜生!

 今の俺の年齢は15だ。多分!

 もう十分大きくなったと言えるし、そろそろ外に出てもいいのではないかと思っている。



 そして、ついにその時がやって来たのだ。



 ガチャリ。キィィィ……。


 今の時間帯が朝なのか夜なのかすらも分からない中、突然俺を閉じ込めていた扉が開いた。

 そして外からは、男性のかなり低い声が聞こえてくる。


「アラン様、ご主人様がお呼びです。さぁ、外へ」

「……ありがとうございます」


 俺を地下室から出してくれた男性に言われるがまま着いていくと、待っていたのは髭を生やしたおじさんだった。


 顔は曖昧でしか覚えていなかったが、恐らく目の前にいる髭を生やしたおじさんは俺の父親だ。長年父さんの顔を見ていなくても、本能的にそうだと断定したため間違いないだろう。


「……父さん?」

「アラン……大きくなったな。そして今までずっと地下で過ごしていたのは本当に辛かったと思う。すまなかった」


 そう言って父さんは深々と頭を下げた。

 仕来り通りだったら俺は殺されていた。それなら地下でずっと過ごしていた方が遥かにマシだ。だから父さんに対して、俺は怒りなど微塵も感じていない。


「いいんだ。殺される方がもっと嫌だったから」

「……そうか。よかった……」


 父さんは安堵のため息をつく。長い間監禁されていた俺から反感を買っていないか、ずっと心配だったのだろう。


「あの……父さん。俺はやっと外に出られるの?」

「……ああ。ただ俺がこれから育ててやることは出来ない。だからお前は南に行くんだ」

「……どうして、南?」

「南に行けば、優しい住民がたくさんいる人里がある。きっとよくしてもらえるはずだ」


 本当は父さんと生活したい。

 でもそれは叶わない。俺には勇者の力がないから。勇者の力さえあれば――。


「……分かった。南に行くよ」


 斯くして、俺は父さんの言う通り南に向かうことに決めたのだった。



 外に出ると、まだ早朝なのか外には誰もいなかった。きっと誰にも見られないように、と相当朝早い時間なのだろう。


「それにしても……外の空気は美味しいなぁ」


 ずっと地下室にいた俺、感激!


「誰にも見つからないうちに南に向かうか」


 この人里の誰にも見られてはならない。絶対に。何があっても。


「でも、不安だなぁ……。本当によくしてもらえるのかな」


 ……そうだ! もしよくしてもらえなかったら、帰ってこよう! 折角外に出られたけど、また地下室に戻ってこよう! 地下室最高!



 そう心に決めて再び南に歩き出してから10分程が経ち、ようやく人里が見えてきた。


「ここで合ってる……よな?」


 俺が元いた人里(ずっと地下室にいたが)と比べて、こちらの人里は時代的に古い外装の人家が並んでいる。あっちでは木で家が作られていたが、こっちでは竪穴住居だ。


「すげぇ……ぇあ!?」


 古い人家に見惚れながら歩いていると、足が何かに引っかかって転んでしまった。そして転ぶと同時に思い切り右膝を強打し、右膝からは血が出ている。


「うわぁ……まじかよ。応急処置しないといけないけど、水とかどこにもないんだよな……」


 はぁ……とため息をつく。

 するとちょうどいいタイミングで、後ろからこちらに向かって歩いてくる音が聞こえてくる。


「あの……大丈夫ですか?」


 俺の様子を窺うように聞いてくる優しい声の持ち主。大袈裟だが、これで助かると喜びながら振り向いた。

 そこには俺を見下ろすように立っている人がいた。肩上まで伸びた綺麗な栗色の髪。そして髪色に合った綺麗な瞳をした美少女だ。


 何この子! すっげぇ可愛いんですけど……!?

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