実像の証明Ⅳ
そこから先は想像に難くない話だ。シュラウドのメンバーに対してヘリは反撃し、シュラウドの攻撃は激しさを増したのだろう。
「人工知能がシュラウドを攻撃した訳ではなく、ヘリの仕様によるものだった訳だね。」
「では、その新しく発見された人工知能は私達を攻撃するつもりはなかったという事でしょうか。」
ミナマが言った。僕は頷く。
「その可能性は高いね。ミナマは三つも武器を所持していた訳だから。けど最初のミサイルは恐らく、そうではないはず。少なくともビルに武力を伴う防衛能力はないからね。入り口がないから無理矢理作ろうとしたのかも。」
「まさか。子供じみてませんか、それ。」
ミナマが言った。僕は冗談のつもりだったので微笑んでみせた。ミナマは小さく息を吐く。意図が伝わったようだ。
「いや。」オーガイはそう言うと少し黙って続ける。「その可能性はあるかもしれない。」
突然、睡魔が戻ってきた。もちろん睡魔を感じているのはカプセルベッドで横たわっている僕の身体だ。恐らくだけれど、オーガイは肉体があるが故のしがらみや不自由には縛られてはいないのだろう。羨ましいと思う。
「そろそろ眠たくなってきたね。その可能性の根拠については改めて話そう。最後に一つ。」僕はオーガイの小さな瞳を見つめる。
「レディーの第三層までアクセスしたのは君か?」
オーガイが頷いた。「アクセスは今回の襲撃を知らせるため?」
「そうだ。」
その後、オーガイは僕達に改めてコンタクトすると言うと、先に仮想空間からログアウトした。僕達もその後に続いた。
視界が暗転し、目を開けるとカプセルベッドの天井があった。眠気は感じるのに頭が冴えている。瞼は重い。ミナマには今日はもう眠ると伝えたけれど、すぐには寝付けなそうだ。こういった不具合は本当に不便だと思う。
エジプトで発見された人工知能がミサイルでビルを攻撃してきた理由は概ね、想像がついている。恐らくその人工知能は実動して間もないのか、ディープラーニングが十分ではなく、演算能力が然程高くないと言うのが僕の見立てだ。オーガイとコンタクトが取れた時に改めて話そうと考えた。ミナマも同席してるタイミングが望ましい。僕の中でミナマへの信頼性は厚くなっているようだ。
翌朝はカプセルベッドがノックされる音で目を覚ました。カプセルベッドを開けるとミナマが立っていた。
「すみません。ドアをノックしましたが、返事がなかったので。」
「どうしたの?もしかして寝過ぎてしまった?」
「いえ、そうなる前にと。」
「ありがとう。アラームはセットしていなかったから、助かったよ。」
淹れたてのコーヒーの香りがした。身体を起こすと、テーブルの上のマグカップから湯気が立っている。
「そのコーヒーは君が飲む分?」
ミナマは首を横に振り、手のひらを上にしマグカップを示す。どうやら僕のために淹れてくれたらしい。
僕はベッドのへりに腰掛け、ミナマに礼を言ってマグカップを手に取る。コーヒーに息を吹きかけ、一口飲んだ。適温で気分が良くなった。
「今日は防衛局に行きましょう。」
僕はマグカップに口を付けながら頷く。レディーへ連絡も取れていないから、早々に防衛局に向かった方が良いかもしれない。ミナマは既にスーツを身に纏っている。
「身支度が終わったら下に降りて来てください。朝食を用意しておきます。」
「ありがとう。ちなみに朝食はパン派?」
「はい。洗い物が少ないですから。」
まったく同意見で僕は思わず吹き出して笑ってしまった。ミナマの姿は既に部屋にはなかった。
一階に降りると、テーブルにはトーストとサラダ、スクランブルエッグが二人分並んでいた。僕にとっては割と高水準な朝食だ。
ミナマが淹れたてのコーヒーを淹れてくれた。
「お湯は何度?」
「七十度です。」
マグカップを置きながらミナマは答える。適温だ。
「そういえば、レディーとコンタクトは取れるようになりましたか?」
「はい。オーガイとの会話についてもお伝えしておきました。」
サラダを取り分けながらミナマは答えた。
「そう。何と言ってた?」
「特段、何も。演算の材料にすると言っていましたから、追って連絡が入るかと。」
「とにかく、エジプトで発見された人工知能が今回の騒動の張本人らしいから、対話が必要だね。」
ミナマは腕を組んだ。
「話が通じる相手でしょうか。」
人工知能とは学習レベルによって程度は違えど、論理的に思考することができる。対話は十分可能だろう。
「少なくとも、僕は通じると思ってるよ。目的によっては歩み寄れるかもしれない。」
ミナマの話によると、現在、防衛局でエジプトのどこで人工知能が稼働しているのかを調査しているらしい。場所が分かったらまたヘリで向かう事になるのだろうか。リモートで対話もいいけれど、せっかくなら現地に出向きたい。これは観光的な意味合いだ。ピラミッドも見てみたい。
観光だとか旅行といった娯楽は仮想現実技術の発展に伴い、衰退の一途を辿っている。偽物は本物に限りなく近づいてしまった。それでも実物を見る事には十分な価値がある。道中に見たフジサンは素晴らしいものだった。
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