バーベキューです
私は朝起きるとすぐさま朝食の準備に取りかかった、今日はやる事がたくさんあるのだ。セネカとヒミカ、そしてティアナはまだ寝ていた。私はお米を炊いて、ダイコンとあげのみそ汁、だし巻き玉子、シャケの塩焼き、ダイコンとダイコンの葉の浅漬けを作った。だし巻き玉子は、よくといた玉子に、だし汁と塩、砂糖を入れて、銅の卵焼き器で焼く。これはわざわざ金物屋街で買ってきたものだ。銅のフライパンは熱の通りが均一で綺麗でふんわりとした厚焼き玉子ができるのだ。玉子を菜ばしで巻いていくたびに、濡れ布巾にフライパンの底を押し付けて温度を下げるのも忘れない。シャケは七輪で焼く。今日は和食だ、セネカとヒミカは和食も食べてくれるけれど、ティアナはどうだろうか。私は朝食の支度があらかたできると、子供たちを起こし、朝の身支度をさせる。みんな眠そうに目をこすっていた。
外にテーブルとイスを四脚出し、お料理を並べる。セネカとヒミカは和食にも慣れているので喜んで食べてくれる。ティアナは初めて見る料理が多いためかおっかなびっくり口に運んでいる。どうやらティアナは焼きジャケとだし巻き玉子とご飯が気に入ったようだ。だけどそれ以外のみそ汁や漬物は苦手のようだ。みそ汁の残りはセネカに食べてもらい、ティアナにはインスタントのミネストローネを出してやる。ティアナは喜んで飲んでいた。ティアナはどうやらトマトのスープが好きみたいだ。私はだし巻き玉子に、お醤油をかけたダイコンおろしをのせて食べる。美味しい、ふわふわでダシのきいた卵焼きに、ダイコンおろしがさっぱりさせてくれる。何故今日はダイコンのお料理が多いのかというと、ダイコンおろしでソースを作るからだ。取り出したダイコンをあますところなく使った結果の朝食だ。
朝食の片づけが終わった後、私は準備にとりかかった。バーベキューの準備だ。ティアナに元気になってもらうために。まずは焼きおにぎりにするためのおにぎり作りだ。これはセネカたちにも手伝ってもらう。セネカもヒミカも慣れた手つきでおにぎりを握っていく。ティアナは見よう見まねで作るが上手く三角の形にならない。気にするティアナに私は、何度も作れば上手くなるわよとアドバイスした。ティアナは一生懸命おにぎりを握ってくれて、最後の方には綺麗な三角おにぎりが作れるようになった。
次に私はお野菜を出す。ナス、パプリカ、さつまいも、しいたけ、エリンギ、レタス、とうもろこしだ。ナス、パプリカ、しいたけ、エリンギは薄く切って、とうもろこしも輪切りにする。レタスはよく洗って、食べやすい大きさにちぎってザルにあげておく。さつまいもはアルミホイルでくるむ。バーベキューコンロを出し、着火剤で炭に火をつける。お肉は食べる直前に出すのでおおかたの準備は済んだ。
私は胸元から、ノヴァにもらったペンダントの赤い宝石を握りしめて、心の中でノヴァを呼ぶ。すると空の彼方から、何かが弾丸のように近づいてくる。最初は小さな点だったそれは、やがて大きくなり、銀色の美しいドラゴンである事がわかった。ノヴァだ。ノヴァは私の前に着陸した。側にいたティアナはキャッと悲鳴をあげて、私の腕にすがりついた。私はティアナに大丈夫と言ってノヴァに近づいた。ノヴァはドラゴンから小さな少年に変身して叫んだ。
「もみじ!無事か?!」
ノヴァはどうやら自分が呼ばれたのは、私が何かトラブルに巻き込まれたと思ったようだ。私はノヴァに近づいた。
「会いたかったわノヴァ」
ほほえむ私に、ノヴァは私に危険がないとわかってくれたのだろう、照れたように顔をしかめた。
「ねぇノヴァ、今日はみんなでご飯を食べようと思ってノヴァを呼んだの、迷惑だった?」
ノヴァに気づいたセネカとヒミカ駆けよってくる。セネカとヒミカは嬉しそうにノヴァの手を取って飛び跳ねた。ノヴァが次第に笑顔になる。ノヴァは仕方ねぇなぁ、と言ってうなずいた。私はポケットから、リュートからもらった魔法具の鏡を取り出した。使い方をリュートに聞いたら、鏡に向かって名前を呼べばいいそうだ。スマートフォンより簡単だ。私は鏡にリュート、と声をかけた。するとすぐに手鏡から応答があった。
「どうされましたか?!もみじさま!」
リュートの怒鳴り声が聞こえる。私は手鏡から耳を話しながら答えた。
「どうしたって訳じゃないんだけど、よければこっちにこられる?もしよかったらユーリとダグも呼んで・・・」
私はみんなでバーベキューをしようと続けたかったのに、リュートがすぐに向かいます、と言って通信を切ってしまった。なんてせっかちな人なんだろう。しばらくするとまたもや遠くの空から何かがやって来た。段々と近づくにつれ、形がはっきりしてくる。大きく翼を広げたリュートだ。小脇ににはユーリを抱えている。リュートが私たちの上空に来ると、ユーリが飛び降りてきた。何の危なげもなく着地して、私の側まで来た。
「もみじさま、ご無事ですか?!」
私は困ってしまった。ただリュートたちをバーベキューに誘おうとしただけなのに、私が危険な目にあっていると誤解させてしまったらしい。私は申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。ユーリのすぐ後に、リュートが着地する。素早く背中の翼をたたんで私たちに近づく。そして、バーベキューコンロやら、テーブルやイスを見て、私たちが無事な事が分かったのか、ホッと息をはいていた。どうやら心配させてしまったらしい。私は申し訳なく思い、リュートとユーリに謝った。リュートとユーリは恐縮して、問題ないと言ってくれた。私がダグがいない事を質問すると、リュートがぶっきらぼうに答えた。
「ダグは荒事には向かないのでおいてきました」
私は吹き出したら悪いのでグッと笑いをこらえた。リュートは思った以上にダグに対して過保護なようだ。ダグにはお土産を持っていってもらおうと思い直し、とりあえずバーベキューを開始する事にした。と言っても、この世界の人たちはバーベキューを知らないので、私が勝手に取り仕切る。先ずは乾杯の準備だ、私は子供たちにジュースを出してやる。りんごジュースに、オレンジジュース、みんな各自のマグカップに注いでやる。そしてリュートにはビールの缶を渡す。リュートがこれが何かわからなくて首をかしげる。私はもう一度受け取って、プルタブを開けて再度渡す。リュートは一口ビールを飲むと、驚いた顔になった。
「美味い、こんな美味いエール初めて飲んだ。しかも冷たい」
私も自分のビールを取り出す。ブランドは給料日にしか買えないダイコクビールだ。みんなで乾杯して私もビールを一口飲む。美味しい、冷えたビールが喉を通る。真昼間からビール、これがバーベキューのだいご味よね。さぁジャンジャンお肉焼いていくわよ。先ずはいいお肉をバーベキューコンロにのせていく。いいお肉の時は削った岩塩で味付けする。みんなはおはしが使えないので、お皿とフォークを渡して、お皿の上にお肉を置いていく。熱いお肉なので子供たちはフーフーして食べている。みんな美味しいと喜んでくれた。少しランクの低い牛肉も、ナスやパプリカ、キノコもどんどん網に乗せて焼く。子供たち用にソーセージも焼いていく。バーベキューソースは手作りだ。市販のバーベキューソースには玉ねぎが入っているものも多いので念のため。ケチャップ、ウスターソース、はちみつ、砂糖、リンゴ酢、レモン汁、タバスコ少々、粒マスタード、黒こしょうを弱火で十分くらいよく煮詰めて作ったのだ。子供向けにかなり甘めにしている。子供たちは美味しいといってお肉もお野菜もモリモリ食べてくれる。ティアナは野菜が苦手なようだけど、私がとうもろこしをお皿に取ってあげると、甘いと言って喜んで食べてくれた。網で焼くとお野菜は甘くなるのだ。
私のソースは和風のダイコンおろしソースだ。ダイコンおろしに、醤油、みりん、酢、ごま油、すりおろし生姜を入れたものだ。これがさっぱりしていて、脂っこいお肉を食べても胃もたれしないのだ。私は焼いたお肉にダイコンおろしソースをかけてレタスに巻いて食べる。美味しい、さっぱりピリ辛ソースにお肉とシャキシャキレタスがよく合ってる。リュートも甘めのバーベキューソースより、ダイコンおろしソースの方が気に入ったようだ。子供たちほお肉とお野菜を食べつくすと、焼きおにぎりの催促をしてきた。
私はようし、といって網を変えて、焼きおにぎりにとりかかった。セネカたちがたくさんおにぎりを作ってくれたから、今日は醤油焼きおにぎりと、みりんミソ焼きおにぎりと、バター醤油焼きおにぎりの三種類を作った。香ばしい香りがたまらない。リュートとユーリとノヴァはご飯が初めてだったけれど、気に入ってくれたようだ。私はバーベキューコンロの網を取って、燃え尽きた炭のはしっこにある真っ黒なものに串を刺した。スーとする串が通って、食べごろだ。最初に入れておいたアルミホイルで包んださつまいもだ。軍手をはめてさつまいもを割ると、中はホクホクだ。切り分けてみんなのお皿に乗せる。さつまいもは蜜がたっぷりでとても甘くて美味しかった。みんな気持ちがいいくらい綺麗にご飯を平らげてくれた。
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