強制労働から始まるブラック魔王城〜働き方改革をしてホワイトな職場にしてみせる!!〜

でずな

ブラック魔王城

第1話 さぁ、働こうか



 突然だが、私は先日魔族との戦いに敗れた。そして敗れ、倒れ込んだ途端黒い布のようなものに体全体を覆い隠され身動きができなくなった。

 それから数時間。ガタゴトと、色んな場所を移動して今現在わけもわからず立たされている。動くことはできない。


「くそっ。なんなんだ……なんなんだ!! 魔族の分際で私のことを捕まえて……。早くここから出しなさいッ!!」


 魔族。それは、人間にとって害をなす最低最悪の生物。

 私はそんな生物の親玉がいる魔王城で魔王を倒そうと試みて挑んだら、返り討いこんな布の中から叫ぶことしできなくなっている。


(――そろそろお腹が空いてきた……)


 朝から何も食べていないため、空腹感を紛らわすのも限界。

 布を破ろうかと思っていると……。

 

「わっ」


 突然、背中から浮遊感を感じた。

 そして何も反応ができずに硬い地面にお尻がぶつかった。


 (――何が起きているの?)


 急に真っ黒な布の中から放り出されたので状況が理解できなかった。

 なので、周りを見渡して少しでも情報を得ようとする。


(――なにこれ……?)


 情報を得ようとしたが必然的に、目の前にあるものに目が奪われた。


(――なんでこんなところに、魔ソコンがあるのかしら? これは、人族がつかうもの)


 あったのは、情報収集や仕事をするときにつかうモニターとキーボードとマウス。当たり前かのように、テーブルの上に置かれていた。そしてそこには、なにやら束になっている書類が……。


 そんな魔ソコンのことを観察していると、テーブルのすぐ横に魔族が現れた。眉間の間に赤い角を一本松出しいてる魔族。たしかオーガあるいは、鬼という魔族だったと思う。


「今日からここで働いてもらうから」 


「はぁ?」


 オーガが、意味わからないことを言い出したので反射的に口をだした。


(――なんで捕まったあとに私がこんな場所で、働かないといけないのよ……)


「はぁ? じゃない。お前がここで働くのは確定事項だ。正直今すぐ働いてほしいがとりあえず、アーサー!」


「はい」


 そう言って呼ばれたのは、隣のテーブルに座っていた男。呼ばれた男は、汚れてボサボサになった金髪。この人もなにかの魔族なんだろうか?


「こいつが今日からお前の部下だ。仕事の仕方ぐらい先輩のお前が全部教えてやれ。ちなみにこいつの仕事は、今日から発生してるから出来なかったらお前が責任取れよ」


「はっ。わかりました」


 金髪の男がそう返事すると、偉そうなオーガは私の元から去って行った。


「何なのよあいつ……」


 本当になんなのかわからない。多分、ここで一番偉いんだとはわかるんだけどそれでもなぜ捕まった人族である私のことをここで働かせようとするのか理解できない。


(――こんなところ、とっとと逃げよう)


 そう思い、足を動かそうとしたが隣りにいる金髪の男にどこか既視感を覚えてそれどころではなくなった。


(――まさかッ……!!)


 今は髪が汚れていてわからないけど、汚れを落としたら輝きそうな金髪。私より数段肩幅が広く、筋肉で服をぱつぱつとさせていめ多分ムキムキ。そしてなにより、人族では限られた人にしか持つことができないエメラルドグリーンの瞳。


 こんな目立つ容姿で、名前がアーサーだという人物は一人しか思いつかない。


「……あなたもしかして、勇者じゃありませんか!?」


 勇者。それは、世界から魔族の脅威をなくそうと頑張る人族代表。いや、人族最強と言われる人族にとって希望。

 

 なんで、そんな人がこんな魔族の場所で従順に働いているのか謎。というか、たまたま似ている魔族かもしれない。だけど私が魔族に捕まる前、数週間前から勇者が行方不明になっているというニュースを見たので無視できない。


「いえ、僕はこの魔王城で働いているしがない人族です。早速ですがこの仕事について説明させてもらいます」


 勇者、いやアーサーから返ってくる返答は機械的なものだった。とてもじゃないが、人族の希望である勇者の影は見えない。だけど、それがまた勇者なのかもしれないという疑惑が増す。

 

(――私がこの人の目を覚まさせないと!)


 輝きが失っているアーサーの瞳を見てそう決意する。


「ねぇ、ちょっとしっかりしてよアーサー! あなたはこんな場所で働く人じゃなくて、世界の魔王からの脅威を救う世界の勇者じゃない!」


「いえ……僕はただ、ここで楽しく働かせてもらっている人族で……」


 私は肩を思いっきり揺らして、訴えかけてみたけど何も効果がなかった。

 なので、方法を変える。


「ちゃんとしてよ。モモよ。モモ。以前、何度も一緒に魔物を倒しに行った仲じゃない。忘れたの?」


 まず、私のことを思い出させる。

 勇者というのは思い出せなくとも、私は何度も一緒に冒険に行ったことがある。なのでその記憶を思い出してもらう。


「モモ? も、も? たしかにその名前は覚えています。ですが、今の僕はここで働かせてもらっている人族です」


(――だめだ……。どうにかして、元の記憶を思い出させないと)


 名前しか思い出せないということは、魔族にそういった類の呪いのようなものをかけられたのだろうか。私は剣士なので、そういうものの知識がないのでわからない。


(――剣士……? たしか、勇者も剣士のはず。ならばいつも一緒に行動し、相棒とも言いあっていたあれはどこに行ったんだ?)


「聖剣。あなたがいつも大切そうに、ベロベロ舐めていたあの薄汚い聖剣はどこに行ったの? あなたって、聖剣のこと大好きだったじゃない」


「せ、い、け、ん?」


 アーサーの返答は、さっきまでの機械的な返答ではなくなった。

 

(――確実に、聖剣という言葉に反応している)


 私はあともう少しだと思い、追撃をかけることにした。


「そうよ、聖剣。あのきれいで美しくて世界に一本しかない、勇者にしか持つことができない聖剣はどこにいったの?」


「聖剣……勇者……」


 アーサーは、目をぐるぐるさせながら何かを思い出しそうに呟いている。


「そう。勇者。人族が魔族に対抗する、唯一の希望ともいってもいい人間!」


「勇者……」


 エメラルドグリーンの瞳から少しづつ、色が戻っているのがわかる。


「そうだ。僕は勇者。魔族のことを倒しに、魔王城にまで突き進んだんだ。そして途中で、巧妙なトラップに引っかかって、そして気づいたらここで働いてて……」


「やっと戻ってきたのねアーサー」


「ん? あっ、モモじゃないか。久しぶり。なんで君がこんなところにいるんだ? ここって……」


 キョロキョロと不審な動作をして困惑しているのがわかる。


(――やっぱり、なにか呪いのようなものにかけられたに違いないわ!)


「ええ私は、魔族に敗れて今さっきここに連れてこられたの。アーサーのことを見てまさかと思ったけど、本物だったとは思わなかったわ」


「いやぁ〜。もしこのままだったら、死ぬまでここで働いてたかもしれない。本当にありがとう」


「そんなお礼なんて……。ここから逃げ切ったらにしてちょうだい」


「え? 逃げる……? そんなこと、するわけないじゃないか」


「何、変なこと言ってるのよ。」


 普段、勇気と希望あふれる勇者であるアーサーが言うようなことじゃない。「するわけない」という言葉は真逆の言葉。


(――まさか、まだ呪いが解けていないんじゃないの?)


「変なことじゃないさ。そもそも僕たちだけでここから逃げ切ることなんてできないよ。だってここは、魔王城なんだから」


 アーサーは、苦笑しながらそんなことを言ってきた。


「じゃ、じゃあどうするのよ」


 完全にここから逃げることを諦めているアーサーに問いかける。


「そんなの、目の前の書類を片付ける以外ないじゃないか。ささっ、一緒に楽しく働こうか!」

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