やあ、奇遇だね

うにどん

本編

「やあ、奇遇だね」


 そう言って彼はニコリと笑った。


 これで何回目だっけ?


 高校二年生になった頃、私が一人で駅前のショッピングモールに居ると必ず声を書ける子が居た。

 その子は最初の頃、一学期の間だけ隣になっただけで学校では一度も話したことがない。

 彼が落とした消しゴムを拾って返した時に短いやり取りをしただけで、それ以降は話したことがないのだ。

 それにも関わらず、彼は私が駅前のショッピングモールで一人で出掛けてるときに声をかけてくる。


 最初は親しくもないのに、どうして声をかけてきたのか不思議に思っていたけど「うん、そうだね」と軽く挨拶をしただけで別れた。

 その後も、会う度に、必ず私が一人の時に彼は「やあ、奇遇だね」と声をかけ続けてくる。


 私の地元で遊び場と言ったら駅前ぐらいしかなく、休日にふらっと出掛けたら友達にバッタリと会うなんてよくあることで、だから初めのうちは気にしてなかったけど、こう毎度、声をかけられ続けると気味悪く感じた。

 他の人に話したくても、友人は異性の話題が出ると必ず恋愛と結びつけたがる子で家族は祖母の入院で毎日忙しく話しづらかったから周りに話す事も出来ず、当たり障りのない返しをして彼から離れるという事を続けていた。

 幸い、彼は私の後を追いかける事はしなかったのも救いだ。


 月日が経ち、進級した私は進路を本格的に考えるようになりショッピングモール内の本屋で経済学部がある大学の情報が載っている本を探していた。

 経済学部に進もうとしていたのは将来、安定しそうだからという理由だ。

 丁度良い本を見つけて本屋から出たら。


「やあ、奇遇だね」


 彼が居た。


 まるで待ち伏せしていたかのように現れた彼に私は顔を引きつらせながら軽く挨拶をし、その場から離れようと足早で通り過ぎようとした。

 いつもなら、声をかけられることはないんだけど、この日は違った。


「○○さん、経済学部に進むんでしょ。ボクもなんだよ、奇遇だね」


 ニコリとではなくニヤァと彼は笑って、私にそう言った。


 その顔を見た瞬間、私の背筋はゾクリと震えた。


 彼とはもう違うクラスだし経済学部に進むなんて誰にも言ってないのにどうして知ってるの?

 考えられることは1つ、彼はずっと私を見ていたという事になる。

 そんな考えが過ぎった私は走って彼から離れた。

 頭の中ではずっと彼のニヤァとした顔が離れなかった。


 それから、私は経済学部に進むのを止めて文系の女子大、地元から少し離れた所へ進学を決めた。

 ちょうど、その女子大近くに住む従姉妹から同棲してた彼氏と別れたからルームシェアしない? と声をかけられたのが決め手になり、その大学に進むことにしたのだ。

 そして、無事に入学した私は忙しさから、すっかり彼のことを忘れていった。


 それから一年過ぎた辺りの頃。

 女子大で新しく出来た友達と飲み会という名の女子会で夜遅くまで飲んでいた。

 酒のせいか、少し上機嫌で帰り道を歩いていると、ふと目の前に私の進路を塞ぐように誰かが立った。


「やあ、奇遇だね」


 彼だった。

 彼はニコリと笑って、手に持っていたハンマーを私に振り下ろした。

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