SUCIDE♡DREAM

月陽さや

第1話 「まるで夢に見たような」

ここはどこだろう?



とても心地よくて、幸せ。


まるで、まどろみの中にいるみたい。






「ーーー。」



誰かの声がする。





「也花!」



ーー也花?


そうか。私、也花って名前なんだっけ。

それは、ずっと昔から馴染みのあるような声。

懐かしくて、あたたかい声。


誰だっけ、この声?




…ああ、そうだ。昔から、いつも一緒にいたじゃないか。


「……久夜?」

「お、やっと起きた。」


「久夜…何してるの?ここどこ?」

「も〜なに寝惚けてんの、心配したんだから!君、ナイトメアとの戦いで一週間ずっと気絶してたんだよ。」


ナイトメア? 戦い?

さっぱり意味がわからない。頭がぼんやりとする。

思い出せないことが、わからないことが、たくさんある。



「也花、その反応…本当に、この状況がわかんないの?」

「…ごめん、わからない。何も」



私がそう言うと、久夜は眉をひそめた。

…もしかすると、何か大事なことを忘れてしまっているのかもしれない。



「あのさ、ナイトメアって何?戦いって…?」

「…うーん。じゃあ、逆に何なら覚えてる?

普段私たちが何をしていたか、わかる?」

「わからない」


困ったな、という顔をして久夜は軽く溜息を吐いた。

困らせたいわけじゃないけど、本当に分からないのだ。ごめんね、久夜。




「…これは一から説明した方が良さそうね」


「私たちは、 。この都市を滅ぼして、人々の魔力を喰らい尽くしてしまうナイトメアたちと日々戦っているんだ。」






・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。



   *SUCIDE♡DREAM*

 第1話 「まるで夢に見たような」



・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。





どうやら私は、激しい戦いの末に丸一週間、気絶していたらしい。久夜は毎日お見舞いに来て、とても心配してくれていたようだ。


幸いにも後遺症は残らず、久夜の話を聞いたり、魔法少女として普段通りに活動を続けていくうちに、曖昧だった記憶もほとんど戻った。


今日は気分転換に、久夜と街へと繰り出していた。ここ"エクレーア通り"は女子に人気の商店街で、今流行りのスイーツショップが数多く並んでいる。


「いや〜心配かけてごめんね?まさかあんなに強いと思わなくてさ〜」

「最上級のナイトメアが現れたらすぐ呼んでって言ったでしょ?1人で戦おうとするからだぞ!」

「エヘヘ、ついつい」


ぐに〜っと頬をつねられる。そんな愛のある叱責を受けて、暢気にもデレデレしてしまう。

いや…下手したら命が危なかったので、全く笑い事ではないのだが。


「心配かけてごめんね。次からは気をつけるよ、ありがとう」

「もうあたしたち10年コンビ組んでるんだから、学習しなさいよ」



私はつい衝動的に戦いに突っ込んでしまう事が多々ある。

危ないとわかってはいても、どんな時も私は逃げてはいけないと判断する。


だって、そこには自分と同じ魔法少女や、都市の人々がいる。

ナイトメアによって、危険に晒されている。


なら私は、すぐにでも助けなければいけない。そして後先を考えずに身を擲ってしまう。良くない癖だ。



「私たちただでさえ狙われやすいもんね。

こうしている間にもいつナイトメアが襲ってくるか、わからない」



私たちは、最も魔力を持つとされる"最上級の魔法少女"としてこの世に生まれた。

最上級ナイトメアにも打ち勝てるほどの強力な魔力を持っているため、人々には「ヒーロー」として持て囃される。

街を歩いていると握手やサインを求められることなんかもあって、も〜困っちゃうな〜!なんて言いつつ私はめちゃくちゃ嬉しい。


そんな話をしているうちにも、あちこちに目が惹かれる。


「あっ!ねえ久夜!私あのケーキ屋さん行きたい!!濃厚チーズケーキだって、美味しそ〜!」

「ちょ、待って待って!」


…美味しいスイーツを見た時も、私はついつい止まらなくなる。食べた分だけ体にお肉がつくのが怖い!




・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。



魔法少女名、『スイートキャノーラ』

人々の愛を感じたり、大好きな甘いものを食べたり。そういった幸福をエネルギー源として、魔力に転換する少女。

みんながハッピーでいれば私もハッピーになるんだ。だから頑張れる!

大好きな久夜や、街の人々のためなら、

ナイトメアだっていくらでも倒せちゃうんだ。


私は、みんなへの"愛"を原動力に生きている!





・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。♡*゜¨゜゜・*:..。






そういうわけで、ケーキ屋さんに来た。


ここはバイキング方式で食べ放題、夢のようなケーキ屋さんだ。



天国だ!

大好きな甘いものを、いくらでも食べられる!!♡


久夜と私は、早速ケーキやスイーツが並ぶウィンドウへと向かう。



「「 おいしそ〜〜! 」」



二人して目が輝く。だって、スイーツが好きじゃない少女なんて、どこにもいない!


ケーキバイキングなんてすごいもの、一体誰が一番最初に考えついたんだろう?


「久夜、どれ食べる?いっぱいあって悩んじゃう〜!」

「あたしも迷うな…うーん、どれも美味しそう…」


迷いながら久夜は、3種類のケーキを取り分けた。いちごのタルトにブルーベリータルト、アップルパイ!

じゃあ私もそれ食べる、なんて言いつつ久夜と同じものを取り分けていく。

それに加えて、私は更に更にと色んな種類のケーキを取る。あれもこれも美味しそうで止まらない!


一通りお皿に取り分けたところで、私たちは席についた。



「それじゃ、」

「「いただきまーす!!」」


「って、そんなに食えるのかよ…」

「大丈夫大丈夫!久夜が少食なだけ!」


久夜が少食なのは事実だが、それ以上に私はよく食べる方だ。

しらない!今日はたくさん食べていいデーなんだ〜!!


「ん〜!このチョコバナナケーキ、すごく美味しい!」

「也花、チョコバナナ大好きだもんな」

「久夜も食べてみて、ほら!あーん!」

「え…あ、あーん」

突拍子のない私に行動に戸惑い気味に、ぱく、と口にする。


「どう?美味しい?」

「うん、なかなか美味しいねこれ」

「よかった。あ、こっちのケーキも食べていいよ!これも!はい、あーん!」

「も、もういいって。自分で取りに行くから!」


そんなふざけたやり取りをしながら、様々な味わいを楽しむ。

私のお気に入りはやはり、チョコバナナケーキだった。チョコバナナしか勝たん!!

ドリンクの種類も豊富で、何種類もの茶葉があった。

私は子供舌だから紅茶の違いなんてあまりわからないけど、どれもとても美味しいってことは確か!


「しかしよくそんなに食べれるよな、本当に」

「甘いものは別腹なの!」

「あたしもそろそろ他のケーキ取ってこようかな〜」

「ん、わかった。食べながら待ってるね!」


そう言って、彼女は席を立った。





もう10分以上は経っているだろうか?


ケーキを取りに行ったはずの久夜がなかなか戻ってこない。


あんなにたくさんのケーキを取り分けたのに、私のお皿にはもう一つも残されていなかった。平らげてしまった。



「…久夜?」



不安が襲う。まさか、いなくなってしまったのではないだろうか。


いや、そんな。こんな時に限って、



ーーまさか。



私はケーキが並ぶウィンドウの方へと向かう。

一応、取り分け用のお皿も持ちながら。



やはりそこに、久夜の姿はいなかった。

あのとき久夜はケーキを取るためにお皿を持って席を立ったはずだし、

もしお手洗いにでも行っているのだとすれば、心配をかけないためにまず私に一声掛けるはずだ。



嫌な気配がして、咄嗟に振り返る。


パリーンと大きな音を立てて、私のお皿は割れた。




「やっぱりナイトメアの仕業か」


「スイートキャノーラ、さすが最上級の魔法少女だね。まさか魔法で硬度を増して、取り分け皿を盾にしちゃうなんて」



最上級ナイトメアの、おでましだ。

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