ウイルター(WILLTER)英雄列伝ーー失われた事件録(ロストメモリーズクロニクル)
響太 C.L.
エピソードⅠ 逢着
第1話 プロローグ ①
これは『
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木々の新緑が鮮やかな季節になり、清々しい風が吹く。午後の日差しが眩しい空に、薄い赤と青の輪郭の二つ大きな月が見える。青い空には雲。そしてキラキラと輝く水晶のような星が浮かんでいる。ここは
アトランス界である。
上空から見下ろし見ると、東京都ほど巨大な学園都市があった。その片隅にウィルターを育てるエリート学校、
午後の日差しが照らす大型広場に約150人余の
ハーッ!ハーッ!ハーッ!ハーッ!
授業を受けている心苗たちは体にフィットした武操服を着て、汗流しをしがら、武術の型をしながら声を出している。それはまるで青春のシンフォニーのようだ。
列の隙間で、ボーズ頭大柄の男性総指導教諭が、腕を組んで歩居ている。彼は厳しい目で
心苗の動きを見ると、怒喝した。
「お前らどうした?昼飯食えなかったか!こんな気弱な声じゃ、敵にちっとも脅かせねぇぞ!もっと気合を入れろ!」
列の中に一人、栗色のロング髪に、左右の鬢髪の半分をハーフアップにまとめた少女がいる。武操服を着ているとその恵まれた胸とボディラインが目立つ。少女の名は神崎のぞみ。彼女は拳法の動きに慣れおらず、技の身振りを度々間違い、動きも他の心苗たちよりワンテンポ遅れている。
総師範がのぞみの右後ろから通り過ぎ、彼女の動きを一瞥すると右隣に立ち止まって、厳しい口調で問いかけた。
「M s.神崎!お前まだこの型を覚えてないのか!」
のぞみは正直に答える。
「ご、ごめんなさい...私は剣術を習ったことはありますが、拳法が苦手で……」
言い訳な言葉を耳にすると男性師範は、いくら可愛いらしい生徒に対してでも、大声で呵責する。
「言い訳やめんか!」
あまりの声の大きさに思わず目をきゅっと、か細い声で返事する。
「申し訳ございません……」
彼女は首にパール程の大きさの玉と植物をモチーフにした飾りを掛けている。下には襟と同じ色のブレーザースカート。制服は一見セーラー服と似ているが、腰のところに武術帯の結び型をした黒と金色の線が描いてある金属ベルトを締めている。更に両肩に特殊な四重のアーマー形の短い袖、動きを最大限に伸ばせる設計になっている。これはハイニオス学院女子の正式な武道制服だ。
通り過ぎる人は皆、刀剣をはじめ、棍棒や槍や釵、不思議な形の武器を持ち歩いている。
たまに、バトルステージで
少女はこんな賑やかな風景の中、颯爽と淡い笑みを浮かべて歩く。彼女はハイニオス学園の行政棟へ向かっていた。
遠くに見える奇妙な建築物—ホワプロシス行政棟。その奇妙な形は簡単に説明すると、もはや地球文明の常識では到底理解が及ばない。正方体の土台階層上にピラミッド型の何かが乗っている。一番高いところの高さは600メートル程、ピラミッド型の外には三つの環状の物体がしっかり組み込まれている。その上に同じ間隔で、大きいシールド状の水晶パネル発電装置が沢山ついている。建築正面の巨大な門は、鈍角三角型の屋根を十二本の柱が支えている。その屋根にハイニオス学院のエンブレム紋章が刻んである。この巨大なホワプロシス行政棟は、学校の行政棟というよりは、神秘的な神殿に近い。
清潔感がある純白の大理石の廊下の先の、左右対称の大きい扉の前で少女の脚が止まる。その門に向かって声を上げる。
「すみません、学院長いませんか?」
若い女性の声がする。
「所属クラスと名乗りなさい」
「4年C組所属、『
「どうぞ、入りなさい」
扉が開き、ヒトミは和モダンの部屋に足を踏み入れた。外の廊下やこの建築とあまり似合わない空間だ。ヒトミがこの部屋に入ると後ろの扉が閉じ、外の空間と遮断される。ここは学院長の隠された事務室である。木製の黒い机の上に複数の円筒状ファイルや筆、玉璽印鑑が置いてある。学校行政書類が開いたままだ。学院長の席は空いている。
学院長の姿は見えず、気配も感じない。戸惑っていると、若い女性の声が後ろから呼ぶ。
「ホーズンスさん、こちらじゃよ!」
ヒトミが振り向くと、和室の茶席で稽古している人影が見えた。銀髪に小柄の女の子。見た目はヒトミより14才程年下の少女だ。華奢な白の着物に、鶴と雲柄の刺繍の朱と金色の帯を締めている。その帯はまるで光ファイバーのように発光している。この身振りが淑やかな少女を見るとヒトミは謹んでおじぎをする。
「稽古中に邪魔して、申し訳ございません。鶴見学院長」
「ちょうと気分転換したかったところじゃよ。出発の前に、わざわざ遠くまできてもらって、すまんのう」
「いえ、任務の一環として、もし警護対象の個人情報がもっと詳しく分かれば、任務をもっとスムーズに遂行できると思います」
ヒトミの硬い表情を見て、少女は微笑みながら言った。
「楽にしなさい。わしはあんたの門派師範でも、闘技教育師範でもないんじゃ。時間があるじゃろ?」
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