少女と森の深部

 日が上りだして、木々の間から漏れる光に眩しさを覚えて起きたレティは目の前の光景に心底驚いていた。


「なぁにこれ!?」


 レティの目の前では昨日まで土しか見えていなかった地面に、野草がいたからだった。


 寝る前は無かったはずの野草に、忌避感を覚えてしまい、採取せずに放置することに決めたのだった。


「誰かが魔法で育てのかもしれないわね。 森だからって勝手に取ったら駄目だろうし…」


『野草は取っても良いぞ。』


「いやいや。 流石の私でも許可なく取っちゃ駄目でしょ!」


『いや良いって。 また生えてくるだろうし。』


「そうなんだ。 っていうか、誰が話しかけてるの!? 私以外居ないはずなのに。」


『いやはいないけども。 儂は木じゃから。』


「そうなんだ、木なんだね。 っていうか、木!?」


『あ。 やっと気付いてくれたんだね。』


 声のする方向に向かって振り返ると、そこには昨晩は気付かなかった顔が付いた大木が聳えていた。


 どうやら、その木に付いている顔が話しているらしかった。


「ここに棲んでるの?」


「あぁ。 ここは森が深くて人は滅多に訪れないからね。 そういう君こそ、こんな森の深部で何しているのさ?」


「えっ、野営だけど? というか深部って何のことなの?」


「この森は人の言う魔の森で、ここは森の深部。 つまりは奥地、かな? なんだかトレント達が道を切り拓いたようだけど、なんでかね。」


「ふーん。 でも、このまま進んで他の国に行きたいの。 多分あっちかな、あっちにある街でトラブル起こしちゃったから出来るだけ離れたいんだ。 あとトレントってなぁに?」


「トレントって言うのは、さっきから君の周囲を囲ってる木々のことだよ。 トレント達に伝えれば、このまま向かえると思うよ?」


「そうなんだ、ありがとう? なんだか木にお礼言うのも変だね。」


「そうだね。 儂はもう眠るから、さよならじゃ。」


「うん。 またね。」


 話す木にお礼を伝えると、生い茂る木々のもとへ向かって行く。


 レティはトレントに向けて"来た道以外での他の国へ向かう道を教えてほしい"と伝えると反対側の木々が動きだして、道を示すのだった。

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