少女と店主オリバー
「兵士様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「ん? ああ、良いぞ、まだ夕刻前だからな。」
レティは兵士が言う言葉を聞くなり、店の入り口から飛び出して、借宿へ走った。
街の人がレティを見て何事かと騒ぐ中、レティは借宿の自分の部屋に貯めていたフレアお婆さんからの小遣いや、店での収入を全て巾着に入れて店へと小走りで戻った。
「兵士様、このお金で足りますでしょうかっ!?」
「うん? 数えるから少し待ってほしい。 ん...」
「れれレティ、その巾着はなんなのじゃ!? ちょっとした払える金額ではないのじゃぞっ!」
「きっと大丈夫です。 これまでの3年間、貯めに貯め込んだ物をお持ちしました。 本当はお婆さんにプレゼントをしたくて貯めていましたが、もう...無理...ですね。」
「レティ...」
「お嬢さん、確かに足りたようだ。 差額分はお返ししよう。 では次は気を付けるように...」
「はい...」
そう言い残して兵士が出ていくのを出口まで送り、レティは店の外に出た。
そんなレティの後ろ姿を見ていた店主はまだ手足が震え続けていたのだった。
街の人が何事かと小さく声を殺して見守る中、店の前から離れていく兵士に向かって頭を下げ続けた。
一連の流れを見ていた街の人の中でレティを見つめていた男が素早く移動したのを誰も気づかなかった。
レティは兵士が見えなくなった頃に姿勢を戻して、店の看板と陶器販売の掛け軸を外して店内に戻った。
「レティや、儂は抗議してくるから明日は休業するぞ。 特別手当を出そう。 いくらなんでも、あんな金額を請求してくる事自体がおかしいんじゃ!」
「店主さん。 申し訳ないのですが、私も当分の間ここを離れたく思います。」
「ん? 陶器の販売はどうするのじゃ。 いくらなんでもお客さんに心配されたら...」
「既に依頼されていた陶器は店の倉庫に入れてあります。 店主さん、いえ、店主様。 これまでお世話になりました。」
「何を言うとんのじゃ。 それと、これまで言い忘れておったが、儂の名はオリバーじゃ! それに様はいらん。」
「はいっ。 オリバー、さんもお元気で。」
「おう、また会おうな? な?」
「...はい...」
レティは裏口から借宿へ帰っていった。
そのレティの後ろ姿を近くを通る街の人らは寂しそうな背に見えてしまった。
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