第33話 移住計画開始

 最近、王都では不穏な空気が漂っていた。しばらく前から衰退の兆しを見せていたけれど、数日前あたりから急激に悪化し始めている。


 多くの人が仕事を失い、商人たちも店を閉めて別の場所へ移って行ったり。今や、王都は寂れきっていて、街のあちこちに浮浪者がたむろしている有様だった。治安も悪い。


 面倒なことに巻き込まれる前に、早く王都から移住したほうが良さそうね。急いで計画を練って、実行に移せる段階まで完成させた。


 既に先遣隊が出発していて、移住予定地の居住地を準備するため動き出したという報告も受け取っている。この調子で進めれば、私達が到着する頃には受け入れ体制が整うはず。


 向こうには、マティアスが行ってくれていた。彼が指揮を執って、直々に集めた優秀な人材と共に準備を進めてくれている。


「こっちの準備は全て任せてくれ。移動ルートも確保しておこう。クリスティーナは移住希望者を募って、予定地まで安全に誘導して欲しい」

「はい、わかりました。こちらは、私に任せてください」


 出発する前、そんな会話を彼と交わした。マティアスと協力しながら、移住計画を成功させるために役割分担して着々と進める。


 いよいよ、私達は王都を旅立つ時を迎えた。王都から少し離れた森の前に、大勢の人が集っている。彼らは、移住を希望した者たち。遠く離れた新たな地へ、自分達の意思で向かうことを決めた人たちだ。


「では、出発します! 皆さん、慌てずについて来てください!」


 私は声を上げて、先導役として皆の前に立つと手綱を握って馬を操った。そして、ゆっくりと馬を走らせる。他の人達も同じようにして、一斉に走り出す。旅の荷物を載せた馬車なども続いて行く。


 馬車隊は王都を出発し、目的地を目指して進み始めた。私の後ろには、多くの人が続いている。こうして大勢を引き連れての移動は初めてだけど、特に問題なく順調に進んでいる。


 このまま、何事もなく進んでくれればいいのだけれど。そう思いながら私は周囲に気を配りつつ馬を進めていく。


 残念ながら問題は起きるものだ。事前にしっかり準備していても、予想外の事態に見舞われることはある。


「お嬢様、追手です。どうやら、王国の兵士が我々の後を追いかけてきています」


 部下からの報告を聞いて、私は眉根を寄せた。王国の兵士か。まさか、こんなにも早く追いかけてくるなんて。


 予想していなかったわけじゃないけど、もう少し時間が掛かると思っていた。でもまあ、仕方がないわね。想定内よ。


「数は、どれぐらい?」

「それほど多くは居ないようです。守備隊だけで対処可能かと思われます」

「それなら、守備隊を後ろに。非戦闘員は、先に進ませて」

「了解しました」


 指示を出すとすぐに、部下たちが行動を開始した。戦いの準備を始めて、敵の襲来に備える。


「私も後ろに行って、指揮を執るわ」

「いえ、クリスティーナ様も先行してください。ここは我々だけで大丈夫です」

「でも」

「クリスティーナ様は先頭に立って、皆を率いていただければ十分ですよ。それに、先回りされる可能性もあるので注意してください。王国の兵士以外にも敵が居るかもしれないので、警戒を忘れずに」

「……わかった。そちらは任せる。必ず、生きて帰ってきて」

「もちろんです」


 ということで、私は先に進んだ。守備隊は追手の王国兵士を迎え撃つために残していくことになった。




 私は、残していった彼らのことを心配しながら先に進む。すると、守備隊はすぐに追いついた。あまりにも早く、合流することが出来た。早すぎる気がする。しかも、一緒に王国の兵士の姿がある。


 どういうことだろうか? どうして、彼らが一緒にいるのかしら。私は疑問を抱きながら、部下の報告を聞いた。


「彼らは、白旗を掲げて降伏してきました。我々と同行したいと言っています」

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