第30話 あの手この手
「―――ということです」
「ぐ、ぐっ……」
お金の流れについて徹底的に説明した。アーヴァイン王子は、意外と大人しく私の話を聞いた。そして、それなりに理解はしてくれたようだ。
しかし、彼の態度は悪いまま。理解はしたけど、納得していないのだろう。また、文句を言ってきそうだった。
文句を言うだけなら、別にいいわ。近いうちに私は、この王都から移住するから。それまでの辛抱だ。そう思って、しばらく耐えるだけ。それで面倒事が減るのなら、安いものよ。
「な、ならばッ! お前の計画が失敗した責任を取ってもらう! 賠償金を支払うのだッ!」
「はぁ?」
だけど彼は予想外だった。再び、意味不明な言葉を口に出したアーヴァイン王子。この人は、一体何を言っているのだろうか。理解するのに数秒かかってしまった。
つまり彼は、王国の事業計画が失敗した責任を全て私に押し付けるつもりなのね。また別の理由で、お金を工面しようと必死だった。しかし。
「計画が失敗した責任は、私には関係ありませんわよ。そもそも計画の中止を命じたのは、貴方でしょう。それなのに、どうして私が賠償しなければいけないのです?」
余計なことをせず、そのまま計画を進めていたら無事に完了していたはず。それを無理やり中止させてしまったから、色々なところに影響が出てしまった。
つまりそれは、中止を命じた者の責任である。
婚約を破棄されて、計画も私の手からは離れていた。私に出来ることは無かった。それが事実。
「ッ! 貴様は、ッッッ!」
彼の言葉に呆れてしまった私は、少し怒りながら反論してみた。すると、アーヴァイン王子の顔がみるみると赤くなっていく。まるで茹でたタコみたいに真っ赤っか。
どうにかして穏便に済ませようと思っていたけれど、無理だったみたい。
これはもう、ダメみたいね。諦めて、護衛に指示を出してしまおう。問題になってしまったら、その時に対処法を考えればいい。覚悟を決めて、私は護衛に合図を送ることにした。彼を屋敷から、追い出しましょう。
「アンタも諦めが悪いねぇ」
「何だ貴様は。誰に口を利いているのか、分かっているのか?」
護衛のホマリオが、アーヴァイン王子を挑発するように言った。挑発された王子はホマリオを睨みつけて、怒りの矛先を彼に向ける。
「素直に、金を貸してくれと言えばいいのによ」
「平民ごときが、大事な話し合いに口を挟むんじゃないッ!」
「やめなさい、ホマリオ」
さらに挑発を続けるホマリオ。アーヴァイン王子の怒りが爆発寸前になっていた。さすがに見かねた私は、ホマリオを止めることにする。これ以上、煽ってしまったら本当にまずいことになるかもしれない。
アーヴァイン王子を屋敷から追い出すよう指示を出す前に、ホマリオが動き出してしまった。そして。
「この無礼者を捕らえろ! ソイツは不敬罪で処刑するッ!」
後ろに控えていた騎士たちに、アーヴァイン王子が命じる。命じてしまった。私が止めるのが遅かった。判断を誤ってしまった。
そのせいで、私の部下を処刑すると言い切った。これではもう、後戻りできない。こうなったら仕方がない。私も、ホマリオに命じるしかないか。どうにかして騎士を止めて、屋敷から追い出せと。
けれども、何故かアーヴァイン王子の騎士は動かなかった。王子の命令に従わず、ホマリオを捕らえようとしなかった。
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