前のエピソード――第26話娘の行方　※ミントン伯爵家当主視点

　クリスティーナを連れてくるように命令をしたはずなのに、やって来たのは彼女の父親であるミントン伯爵家当主だった。

　その男から、クリスティーナを屋敷から追放したという話を聞いた。そして今は、行方が分からないという。

「追放した？　しかも、行方が分からないだと！？」

「で、ですが。それには色々と理由が……。とにかく、クリスティーナの方に問題があったのでございます！」

「言い訳は無用だッ！　本当に、彼女の行き先を知らないというのか？　嘘偽りなく答えろ！！」

「……も、申し訳ございません！！　存じ上げておりません！」

　私が怒りに任せて怒鳴りつけると、彼は顔を青ざめさせて震えながら頭を下げた。そして必死の形相を浮かべると、心当たりはないと言い切ったのだ。

　どうやら、本当に知らないらしい。実の娘が、今どこで何をしているのか把握していないとは。これでは、探しようがないではないか。

　私は舌打ちすると、苛立ち紛れに机を殴った。

「……くそっ！」

「お、お許しください！　わたくしめには、どうして良いか分からず……。あの子を見つけ出したら、殿下に協力するよう説得いたしますから！！」

「ふんっ。ならば、さっさと探してこい！」

「はいぃーっ！！」

　私が睨みつけながら指示を出すと、ミントン伯爵家の当主は泣きそうな顔になって部屋から出ていった。その姿を見送ると、私は大きなため息をつく。

　全く。使えぬ奴だ。勝手に追放なんかして、居場所も知らないなんて。

　内心で悪態をつきながらも、私は焦っていた。何故なら、クリスティーナを見つけ出さないとお金に困るから。

　彼女の協力がなければ、お金を出させることが出来ない。計画を実行するために、商人たちの支援を受けることが出来そうにない。

　しかし、彼女が居ればお金の問題は解決する。商人たちが協力してくれるはずだ。そうすれば、民のために用意した計画が実現できるだろう。そのために今まで色々と準備してきたのだから。

「……絶対に見つけ出してやる」

　私は大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせると、部下に命令した。クリスティーナを必ず見つけ出せと。ミントン伯爵家の当主だけに任せてはおけない。私も、部下を使って引き続きクリスティーナを捜索させることにした。

　それから数日間、クリスティーナの捜索が行われた。突然、彼女を発見したという報告が舞い込んできた。どうやらクリスティーナは、追い出された実家の近くにある屋敷で暮らしていたらしい。

　そんなに近くに居たなんて。なぜ今まで、見つからなかったのだろうか。本当に、ミントン伯爵家の当主は娘の居場所を知らなかったのか。もしかすると、私に事実を隠していたのではないか。本当は知っていたのに、彼女の居場所を隠していたとか。だが、あの焦った顔は演技じゃないように見えた。どちらが真実なのだろうか。

「いや、そんなことより……！」

　とりあえず今は、そんなことを考えている暇はない。早く、彼女を連れてこさせて協力を約束させる。

　婚約者ではなくなったが、王子である私の命令を断れるはずもない。きっと、私の言うことを聞いてくれるだろう。だから、私は安心した。

　クリスティーナは、呼び出しを拒否した。私の呼び出しに応じないつもりらしい。