第19話 商人の出会い ※マティアス視点

 僕は、商人としての腕を磨くために世界各地を旅しながら商売をしていた。


 他では手に入らない珍しい商品を入手して、新たな商売相手と顔合わせをして、商品がお客様に届くまでの販売ルートを開拓する。そんな目的を持って、あちこち移動していた。


 ロアリルダ王国に珍しい商人がいるという噂を聞いて、一目見ようとやって来た。そこで出会ったのが、クリスティーナだった。


 彼女は、貴族の令嬢でありながら商売の才能を持っていた。そして実際に、商人と顔を合わせて取引していた。噂で聞いていた通り、非常に珍しい女性だ。


 僕も、彼女と何度か取引した。世界各地で収集した宝石や、珍しい衣服などを買い取ってくれた。その最初の取引が、交友関係を築くための大事な取引だと彼女は理解して、両者に得のある気持ちの良い商売をさせてくれた。


 それから、どんどん彼女との関係を深めていった。


 彼女との取引を繰り返し、彼女と一緒に事業を立ち上げたり、依頼を受けて商品を調達したり。とにかく色々とやったものだ。


 そうやって親交を深めていくうちに、彼女のことを好きになっていた。


 商売に関する知識が豊富で、会話をしていると楽しい。彼女の提案するアイデアは斬新で、とても刺激になる。商売に対しても意欲的で、僕も影響を受けて新しいことにチャレンジしたいという気持ちになった。


 彼女に商売に関する知識を教えたりもした。その結果、僕のことを先生と慕ってくれるようになった。だけど、僕も色々と彼女から教えられた。とても学びになった。僕も彼女に感謝している。勉強になったのはお互い様だった。


 クリスティーナと出会ってから、僕は色々と変わった。今まで商売一筋で、誰かを好きになることなんて無いだろうと思っていたのに。まさか、自分がこんな感情を抱くなんて思わなかった。


 だけど、残念ながら彼女には婚約相手が居た。しかも、ロアリルダ王国の王子だ。流石に、身分が違いすぎる。もう少し、立場が違っていたら全力で奪い取ろうとしていたかもしれないけれど。


 クリスティーナは商売に励みながら、貴族としての役目も果たそうと必死で頑張っていた。そんな彼女の邪魔は出来ない。


 これから先、彼女のような女性と出会うことは出来ないと思う。だから僕は、一生を添い遂げる相手を見つけることは無理だろう。それでも良かった。


 商売という共通の話題がある。結婚した後も、彼女と会うことは出来るから。商売するために会いに来て、話をして、それで僕は満足だった。


 それ以上を望むつもりは無かった……。のだが――。

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