第5話 未利用だった物件で
実家を追い出された私は、呼び出した馬車に乗って実家の近くにある屋敷まで来ていた。
その馬車は私が仕事で使っていたものなので、ミントン家の資産ではない。馬車を操る御者も私が雇っている人。私個人の資産だ。なので、私が利用しても何の問題もない。屋敷の中から持ち出した物ではないのだから。
夜遅くに呼び出したので、助けてくれた彼らには後で特別報酬を支払う必要があるけれど。そんなの、喜んで支払うわ。
目的地に到着して、とある屋敷の前に私は降り立った。
その建物も、私が保有している物件である。購入したけれど、大きすぎて利用する良い方法を思いつかなかったので、今まで使わずに放置していた屋敷。
よく取引している商人との関係を深めるために購入したものなので、買った時点で目的を果たした物件でもある。
買ったまま放置していたとはいえ、屋敷の周りにある施設が充実してきたら需要も高まって土地と屋敷の価値がぐんと上がりそう。そんな予想をしていたので、今まで手放さなかった。まさか、自分で使うことになるのは予想外だったけれど。
家を追い出されたので、今夜はここで休むことにした。しばらくの間、この屋敷で過ごすことになりそうね。
「お嬢様、お部屋を用意しておきました。今夜は、こちらでお休みください」
「ありがとう。助かるわ」
専属で雇っているミナという名前のメイドが、部屋まで案内してくれた。私よりも先に来て、部屋の準備をしてくれていたらしい。屋敷に到着してすぐ、待つことなく休むことが出来るようだ。
夜も遅くて、色々と面倒な出来事が立て続けに起きて疲れていたので、とても助かる。
ミナは、支払っている給金以上によく働いてくれた。彼女の働きを評価して、また特別報酬をあげようと思う。
彼女のような優秀な人材には、相応よりも少し上乗せした給金を支払うようにしている。私は、働き者には十分な成果を与えたいと考えていた。私から離れていかないよう、十分に気をつけていた。
実家で過ごしていた時よりも大きな部屋で、立派に整えられたベッドの上に寝て、今夜もぐっすりと眠ることが出来そうだ。
婚約破棄に、実家から追い出された。そんな出来事が続いた夜に、こんな気持ちで眠ることが出来るなんて。
家を追い出されても、特に何の問題もなかった。それより、明日から何をしようか考える。私は今、とてもワクワクしていた。
今までの私は、アーヴァイン王子の婚約者であるクリスティーナとして。ミントン伯爵家の令嬢であるクリスティーナとして活動を頑張ってきた。
だけど今日、そのどちらの関係も消え去ってしまった。何の肩書もなくなった。
つまり明日から、ただの小娘であるクリスティーナとして活動することが出来る。それは、とても自由だった。
今まで手に入れてきた資産を自由自在に駆使して、新たな事業を立ち上げて稼いでいこうと考えている。
その前に、色々と面倒事を処理しないといけないだろうけれど。問題は多くある。だとしても、私の未来は希望に満ち溢れていた。
婚約破棄されて良かった! 家を追い出されて良かった! これで私は、挑戦することが出来るから。なんて、楽しみなんでしょう!
その夜、私は心を弾ませながら眠りについた。気持ちよく、ぐっすりと眠ることが出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます