第4話:突然お姉ちゃんができました
広場に再び静寂が戻る。
衛宮が現場処理を行う傍らで景信は、3人の女性を見やる。
戦いが終わってからどういうわけか、彼女達は衛宮ではなく自分の方にやってきた。
入院着と枕という、不審者極まりない恰好をしたこんな男に何の用があるというのか……訝し気に見返す景信だったが、返ってきたのは優しい笑みだった。
景信を見やるその瞳からは警戒心や敵意は微塵も感じさせない。
互いの初対面であるのに、何故こんなにも彼女は優しい目ができるのだろう……景信が疑問を抱いたのと、ほぼ同時だった。ドレスの女性がタッと軽やかに地を蹴ったかと思った次の瞬間、景信の身体を柔らかく温かな感触がそっと包み込んだ。
ドレスの女性から突然抱擁されて、景信は豆鉄砲を喰らった鳩のように目を丸くする。
異性から抱き締められるなんて経験は今回が初となる。ただその記念すべき1回目が、わけもわからぬまま起きてしまい景信は激しく動揺した。
「ちょ、ちょっといきなり何をするん――」
「よかった……無事で本当によかった、景信ちゃん……!」
「なっ……?」
自分の名前を口にされて景信はドキリとした。
お互いにまだ名前は名乗っていない。衛宮の誰かが言った、それならば合点は確かにいく。
しかしそうなると、彼女の呼称に違和感が生じる。さっきの呼び方は明らかに親しい人間への呼び方だ。
(……記憶にないけど、この人は俺と何か関係があるのか?)
戸惑いを隠せないまま、景信はドレスの女性に視線を降ろす。
胸元で気持ちよさそうにスリスリと頬擦りするだけに留まらず、豊満な胸が形を変えてグイグイと押し付けられる感触は理性が持ちそうにない……既に下腹部よりやや下の辺りに熱が集中し始めている状況に景信は大いに焦った。
白昼堂々、公衆面前の前でタたせるなど公開処刑にも等しい。
「あ、あの……ちょっと離れてもらっても――」
「駄目よ景信ちゃん! もう絶対に離さないって誓ったんだもん!」
「いやそんなこと言われてもですね! このままだと色々とヤバイと言いますか……!」
「ちょっと虎美姉ぇ、自分ばっかりノブ独占すんのちょっちずるくない?」
「そうですよ虎美姉さま。わたくしも景信と抱き合いたいです」
「えっ? えっ!?」
「あのー、お取込み中大変申し訳ないんですけど。とりあえずご家族の方と再会できたということで、書類に簡単な手続きだけ先に終わらせてもらってもいいですか?」
「か、家族……!?」
ハイカラ少女がてきぱきと書類に手続きをする中で、景信は斬崎の言葉に驚きを禁じ得なかった。
「あ、そっか……景信ちゃんはもう記憶がないんだもんね……。落ち着いて聞いて景信ちゃん。私達は景信ちゃんの家族……お姉ちゃんなの」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
ある日突然美人でかわいいお姉ちゃんが3人もできた――まるで仮想だ。ありきたりしすぎて、それなのに未だ根強い人気を誇るジャンルを題材としたライトノベルのような展開だ。その展開をよもや自身が経験するなどとは夢にも思っていなかった景信は驚愕の叫び声をあげた。
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