心のない男子高校生と未来の無い女子高生
MiYu
第1話 心無き男子高校生
「なぁ三神」
「なんだ?」
「お前って苦手な教科とかあるの?」
「数学」
「テストで80点超えているのに?」
「まあな」
「副教科は?」
「保体と家庭科は学年1位だな」
「凄いな」
「だろ?」
得意教科は、文系科目全般。
苦手教科は、理数系全般。
だがそれは、高校での話だ。
「でも前に言ってなかったか?」
「何を」
「三神って道徳が苦手教科だって」
道徳。
小・中学校の教科のひとつであり、生命を大切にする心や善悪の判断などを学ぶものである。
だがそれを学んで俺の価値観が変わったのかは分からない。
「まあ俺が小学生のころに担任との面談で嫌いな教科を聞かれた時に、道徳って答えたことはあったな」
「凄い勇気だな」
「だろ?」
「何故、そんな胸を張って言うんだ?」
「事実だから」
「なとほどなぁ」
キーンコーンカーンコーン
休み時間に友達とそんな話をしていると、いつの間にか休み時間が終わった。
「はぁ・・・」
学校を終え、一人で帰っていた。
まだ夏とは言え、もう夏だ。
高3の夏は、忙しい。
俺の友人たちは、就活をしている者もいる。
もちろん俺と同様、受験に向け勉強しているものもいる。
「やりたい事かぁ・・・」
今の俺にやりたい事と言われても何も思い浮かばない。
去年までの俺だと高校卒業したらそのまま就職を考えていた。
というか、去年まで公務員試験の勉強をしていた。
だけど、俺のような奴がなれる仕事じゃないと感じた。
なんて言ったって・・・。
「心が無いねぇ・・・」
以前、友人に言われた言葉だ。
『心が無い。』
俺もその通りだと思う。
自分自身でも何かが欠落しているのを気付いた。
半年前に祖父が亡くなった。
普通だったら悲しいとか寂しいとか感じるはずだろう。
俺も感じると思っていた。
だが、葬式の時に気づいた。
祖父が眠っている姿を見て、何にも感情が湧かなかった。
それ以前も家の近所に居た野良猫に懐かれていて、面倒を見ていたこともあった。
猫が好きなのは本心だ。
それなのに、その猫が死んだと親から聞いたとき何も感じなかった。
実感が湧かなかっただけだと思っていたのだが、死を受け入れてはいた。
「はぁ・・・。考えても埒が明かない。寄り道して帰ろ・・・」
そうして俺は学校を後にした。
「する事無いし、勉強するか」
俺は、ドーナツ屋に来ていた。
参考書を開き、ノートにまとめる。
「つまらないなぁ・・・」
周りには多くの人が居るが、その声は誰にも届かない。
それからは、一時間ほど勉強をして店を出た。
家に帰る途中も俺の中の何かが欠落していることを思い知らされる。
「生きている実感がないなぁ」
こう思うようになったのは、中学の頃からだ。
中学の頃から勉強は可もなく不可もなくという感じだった。
部活もバスケ部に所属していたが、そこでも何かが欠落していた。
いやあの時までは、心というのはあったのかもしれない。
むしろ、あの時までは確かに存在していた。
試合で負けて悔しい時もあったし、その度に涙を流したこともあった。
だが、引退してからは心の拠り所を失った。
「死にてぇ・・・」
多分、これは俺の本心だろう。
心が無いくせに、本心とは皮肉なものだ。
「ただいま~」
「おかえり」
家に帰り着くと母が出迎えてくれた。
「今日の晩御飯は、麻婆豆腐ね」
「へーい」
母は、飲食店でパートとして働いている。
帰りは、俺よりもやや早いくらいだ。
それなのによくしてくれている。
大して父は、遅くまで会社員として働いている。
そして兄。
兄は、あまり俺は知らないが、所謂自閉症というものを患っているらしい。
誰にも迷惑かけないなら正直、俺はどうだっていい。
だが、俺は兄に何度か殺されそうになった。
最初はただの兄弟喧嘩なのだが、向こうが徐々にヒートアップし、本格的に暴力へと変わる。
もちろん俺もただではやられない。
それでもはっきり言って面倒だし、母には面倒をかけたくないため言ってない。
「蒼?大丈夫なの?」
「大丈夫だけど。どうしたー?」
「大丈夫なら良いけど」
母は何か感じたのだろう。
心配してくれている。
「じゃあ着替えてくる」
「はーい」
着替えるために部屋に行く。
俺の家は、アパート住まいなので部屋も多いわけではないため俺の部屋は母と共用で使っている。
「つまらないなぁ・・・」
母に心配をかけないために生活しているが、こんな生き方してていいのか分からないものだ。
それからは、晩御飯を食べ、お風呂に入り、受験勉強と時間をつぶす。
勉強ばかりしてては、集中力が続かないため時間を決めて読書の時間とか自由の時間も設けたりしている。
そうして俺の一日が幕を閉じる。
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