愚者の疑問

 カウンターの向こうにずらりと並ぶ酒瓶。

 なんと美しいのだろう。

「きれいでしょう、お酒のボトルって」

 氷を割る桶を手に、店長の鈴木さんが笑う。心を読まれているようで、少し怖い気もする。

 一流のバーマンはお客様の考えていることを推理できるという。どうやら嘘ではないらしい。

「九時半すぎましたね。そろそろ、なんか食べますか?」

「そうですね、じゃあ、ナポリタンを」

 ボクは週に二回は、バー「ブラッドベリ」に通っている。けれども、お酒は飲まない。飲めない。飲んではいけない。

 なぜならば、ボクは高校二年生だからだ。

 高校生? うん、そうだよな、一応。

 学校に通えなくなってから、もうずいぶんとたつけれども、ありがたいことに(ありがたいか?)退学にはなっていない。

 行けなくなった理由?

 さぁ?

 わからないんだ。嘘じゃない。本当にわからないんだ。

 数学が理解できないから? うん、それはありそうだ。

 英文法が理解できないから? そうだね、それは言えてるかもしれない。

 正確に言うならば、僕が理解できないのは、二次関数や完了形が存在する理由なのかもしれない。まぁ、よくわからないけど。

 足を骨折して部活に参加できなくなったから? うーん、それは違う気がする。

 女の子にもてないから? 違うね、それは違う、絶対に。

 なぜなら、僕はもてなくていいと思っているからだ。これはつよがりじゃない。

 好きな人に振り向いてもらえれば、それでいい。いや、好きな子の笑顔が見られれば、充分だ。

 だって、そうだろ? 高校生でなにができるというのだ?

 だろ?

 結婚? 制度上はできるのかもしれない。でも、収入のない高校生の結婚を認める大人などいない。

 僕は大人という生き物を信用していないけれども、世の大人の大半が、高校生の結婚を認めない程度には賢いとは思っている。

 デート? うん、できるね。実際しているやつらはいくらでもいる。

 カラオケ、ハンバーガーショップ、ショッピングモールのフードコート、公園、駅のベンチ。デートの場所はバーじゃなくてもいい。

 キス? そう、できるね。できるやつにはできる。

 その先? うん、できるやつには(以下同文)

 話を戻そう。

 そうそう、僕が学校に行けなくなった理由を話していたんだ。

 そうだね、いろいろだ。人生と一緒だ。複雑なんだよ。

 たぶん、理由は一つじゃない。

 え? なんで高校生がバーにいるかって?


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