ヨウ様

八木寅

ヨウ様

「ねえ、ばあちゃん。推し活って知ってる?」


小説のお題「推し活」にいい話が思いつかない僕は、ばあちゃんに相談してみることにした。


僕のような若い世代ではない視点で書いてみたら面白いのでは、と思って。


「オシカツ? たぶんわかるわよ」


ばあちゃんはスポーツ新聞から目を離し、老眼鏡をはずして僕を見た。

いつも何かしら読んでるばあちゃん。博識で、ボケも感じない。きっといい答えをくれるだろう。


「でさ、ばあちゃんが一番応援してる人いる?」

「応援してる人ねぇ」


ばあちゃんは庭の日だまりを眺めて考えこんだ。


「……ヨウ様かしら」

「ヨウ様?」


ようやく出た名は僕の知らない者。韓国俳優だろうか。


「その人のどこがいいの?」

「凛々しくて、尻まで引き締まってる肉体が美しいのよ」


……え。まさか。アダルト男優?

ばあちゃんにそんな趣味があったなんて、知りたくなかったよ。


「それからね。顔を叩いたり急所を狙わないところがいいのよね」


僕が落ちこんでると、ばあちゃんはさらに続けた。

い、いったいどんなプレイを見てるんだ?

イヤだ。変態プレイを見る変態ばあちゃんなんて想像したくない。ばあちゃんは清楚で優しくて頭がいい人なんだ!


「もう話さないで!」

「自分から聞いといて変な子ね」


大声をだした僕に、ばあちゃんは笑いながらテレビの録画をつけた。


大相撲が行われていた。


「ほら。これがヨウ様よ」


と映ったのは、赤色のまわしを締めた力士。名前は紅丸べにまると表示されている。


「え。これがヨウ様? 名前が紅丸だけど?」


拍子抜けして訊ねると、ばあちゃんは食いいるようにテレビを見つめた。


四股名しこなの下の名が陽一よういちなのよ」


そう説明された陽様は、突き押し始めた。相手の力士も突き返す。

そして、陽様は押し勝った。ばあちゃんはめいっぱいの拍手を送っていた。


「やっぱり陽様の姿は凛々しいわね」


ああ……。僕はやっと理解したと同時に自分の妄想が恥ずかしくなった。

ばあちゃんは押し勝つ力士を推し活していたのだ。


ありがとうばあちゃん。これで600字以上は書けたよ。

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ヨウ様 八木寅 @mg15

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