第21呪 イミテーションに呪われている💀


「ミサキーー!! ミサキーーー!!」


 転移トラップに飛ばされてすぐ、ユウマはミサキを探した。

 当然だ。ユウマは邪龍のグローブで自分の身を守れるが、ミサキは戦うという選択肢が取れない。


 もちろんミサキだって、いざというときのための逃走用アイテムくらいは持っているだろうが、こんな場所では逃げ場も限られる。


 2度、3度と声を上げても、ミサキの声が返ってくることは無かった。

 それでもモンスターに見つかっても対処できるユウマが声を上げていかなくては、ミサキと合流することは出来ない。

 代わりにナイドラのイケボが頭に響く。


〔 惜しいヤツを亡くした 〕


「殺すな、殺すな。ミサキは絶対生きてるよ。そんな簡単に死ぬような奴じゃねぇって」


〔 別にロリっのことだと言った覚えは無いが 〕


「小学生みたいな屁理屈言ってんじゃねぇよ。じゃあ誰のことだよ」


〔 ヤッくん 〕


「いや、確かにヤッくんは陽光タワーで死んじゃったけど! 今さらすぎる!!」


〔 目から怪光線で焼かれたポーターの男? 〕


「名前も知らない奴! 疑問形にするくらいなら出すな!!」


〔 サイクロプスの鎧と壁に挟まれて―― 〕


「詳しすぎる! お前が正式に登場する前なのに、俺たちの戦いに詳しすぎるんだよ!! そういえばお前、俺がミサキを庇ったのを見て契約したとか言ってたもんな。最初から最後まで、めっちゃ見てんじゃん」


〔 酒の肴に丁度よかった 〕


「休日の昼間から、ビール片手にテレビで野球観戦してるオッサンかよ」


〔 惜しいな。深夜のプロレス番組の方が近い 〕


「どっちでもいいんだよ。こだわるな」


 ユウマはいつものごとくナイドラとくだらない話をしつつも、ミサキを探しながら迷路を歩いていく。


「ミサキーー!! ミサキーーー!!」


 赤茶色のブロックが続く道を歩いていくが、ところどころに曲がり角が出てくるくらいで全く変わり映えしない。

 ずっと同じような景色を見ていると、進んでいるはずなのに同じ場所をグルグルと回っているような錯覚に陥る。


「ミサキーー!!」


「ユウマ!? 良かった!」


 もう何度呼んだか分からない彼女の名前。

 ついに反応があった。

 すぐ近くだ。曲がり角を左に折れると、ずっと探していた彼女の姿がそこにあった。

 背が低く、黒髪セミロングを束ねたヘアスタイル。

 今日はギリギリ高校1年生でいけるか? という童顔。


 しかし、彼女のすぐそばでは虎型のモンスター『鮮血の大虎ブラッドタイガー』が今にも飛び掛からんとしていた。


「ミサキに手を出すな!」


 ユウマはダッシュで駆け寄ると、ブラッドタイガーをワンパンでぶっ飛ばしミサキの元に駆け寄った。


「大丈夫?」


「ええ、大丈夫よ。あっ、うしろ!」


 また虎でも出たのか、とユウマが背後を振り向く。

 しかしそこには、赤茶色のブロックの通路が広がっているだけで、モンスターの姿は影も形も無かった。

 次の瞬間、ユウマの背中に激痛が走った。

 激痛を感じた場所を起点に、背中全体が一気に熱を帯びていく。


「……え?」


 わけも分からず、ユウマがミサキの方に向き直ると、ユウマの背中には深々と大型のナイフを突き刺さっていた。


「おま……え。まさか、ニセモノ……!?」


 気づいた時には後の祭り。

 ミサキの姿をしたはニヤリと口角を上げると、クケケケケケケケと気味の悪い笑い声をあげた。


 人の姿に変身し相手を油断させて襲い掛かるモンスター『変装する悪魔ディスガイズデビル』だ。

 強さは大したことないが、こいつに騙されて命を落としたブレイカーは少なくない。


「くうぅ、あああっ」


 ユウマは背中の痛みに耐えながら、ミサキの姿をしたディスガイズデビルに向かって拳を打ち下ろす。

 醜く笑う顔面にヒットした拳は、ディスガイズデビルの頭を木っ端みじんに吹き飛ばした。


 悪魔の姿に戻ったディスガイズデビルの身体が、足先からサラサラと塵になって消えていく。


 同時に、ディスガイズデビルの固有武器であるナイフも消滅し、ユウマの背中に刺さっていたナイフが消えた。

 ナイフによって塞がれていた傷口が解放され、ドクドクとユウマの体から血液が噴き出していく。


「これ……ヤバくない?」


〔 このままだと貴様は死ぬな 〕


「ナイドラ、お前の力でなんとかできないのか?」


〔 惜しいヤツを亡くした 〕


「まだ死んでねぇよッ!」


 確かに『まだ』死んでいないが、『間もなく』死にそうだ。

 身体から体温が失われていく感覚。

 血を失いすぎたのか、ユウマは意識が朦朧としてきた。


「ユウマーーー!!」


 フラフラになっているユウマの耳に、ミサキの声が届いた。


(ミサキが呼んでる? 気のせいかな。ミサキは無事なんだろうか……)


〔 声が出せるなら無事だろう 〕


〔 そろそろ危なそうだがな 〕


(え? ……これは本物?)


〔 我にも聞こえている 〕


「そうか。じゃあ……、ミサキだけでも助けないと」


 ユウマは耳を澄ませ、声がする方向を確認する。

 

「ユーーーマーーーーッ!!!!」


 一際、大きくユウマを呼ぶ声が聞こえた。

 モンスターが徘徊する場所で大声を上げるということは、おそらくミサキも危機的な状況にあるに違いない。


「あっちか」


 ユウマは声がした方向から、少しだけ角度をズラして拳を構える。


究極を超えた拳ウルトラアルティメットパンチ!!!」


 飛ぶ打撃がダンジョンの壁に直撃する。

 突き出した拳の先、ダンジョンの壁をエグるように楕円型の風穴が出来た。


 この先にミサキがいるはずだ。

 しかし、歩きだすには血が足りず、ユウマの体は膝から崩れ落ちる。


〔 ロリっ娘も吹っ飛んでたりしてな 〕


「笑えねぇよ、バカ」


 ナイドラにはそう言ったものの不安なのはユウマも同じだ。

 外すつもりで打ったとはいえ、耳だけを頼りに攻撃力9999のスキルを放ったのだ。

 万が一どころか十に一くらいでミサキに当たって吹っ飛んでいてもおかしくない。


 ミサキの無事を確認しなくては、死んでも死にきれない。

 その一心でユウマはゆっくりと立ち上がり、ミサキがいるであろう風穴の反対側へと歩いていく。


「ユウマ!!!」


 ミサキがユウマに駆け寄ってくる。

 ユウマはマジで当たってなくて良かった、と胸を撫で下ろした。


「わりぃ、遅くなった」


 笑顔を作りながら謝ると、ユウマはミサキの方に倒れこんだ。

 刺された背中は、噴き出した大量の血で真っ赤に染まっていた。




――――――――――――――――――――

💀変装する悪魔ディスガイズデビル

 姿を仲間とそっくり瓜二つに変身して待ち伏せするモンスターです。

 転移トラップに掛かったあとで仲間のふりをして近づいてくるパターンの敵を見破れる気がしません。

 しかもユウマは攻撃力9999なだけで防御力はいわゆる紙、ティッシュですので、ボスフロアのモンスターに攻撃されたらライフ全損待ったなしです。


 このモンスターがなぜユウマとミサキの情報を知っているか、というとこの迷路の全てを把握してほかのモンスターに情報を共有している黒幕がいるからです。


 

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