第19呪 谷にも沼にも呪われている💀
「俺は命を天秤に掛けてでも、ミサキを助けたいって思ってるんだけど?」
「どう……して……?」
「……今の俺があるのは、ミサキのおかげだから。ミサキとAmakusaで会わなかったら、自分にはまだ早いとかなんとか理由をつけて陽光タワーには行ってなかったかもしれない。ミサキがお母さんのために命懸けでポーターをやってるって知ったから、自分にはブレイカーとしての覚悟が足りてなかったんだって自覚できた。全部、ミサキのおかげなんだ」
(なにそれ!?)
「ミサキはいつも俺に借りがあるって言うけど、俺は貸してるなんて思ったことはないよ。むしろ恩返ししたいって思ってたから……今回のは渡りに船っつーか。だからさ、気にしないでよ」
ユウマが話し終わったとき、ミサキは目を
(ユウマって人は本当に……)
ミサキの感覚では、人に影響を受けたレベルのことを貸し借りとは言わないし、ましてや恩人とも呼ばない。
なにかの気の迷いで「人生の恩人だわ」なんて思うことがあったとしても「よし、恩返ししよう」とまでは絶対に思わない。
それが命を賭けてともなると、ミサキには到底理解できなかった。
「ミサキ? 聞いてる? おーい」
「あ、うん。大丈夫。聞いてる。ユウマがそんな風に思っていたなんて知らなくて。ちょっとビックリしただけ」
ほんの数分前までカンカンに怒っていたはずなのに。
驚きすぎてミサキの感情はどこかへ飛んで行ってしまったようだ。
「はあ……。もういいわ。私の負けよ」
そう言って、ミサキはユウマが持ってきた『田神の林美術館』のダンジョンブレイクに向かうことに同意した。
残された時間は13日間。
💀 💀 💀 💀
――3日後。
「でっかい会社がブレイク出来なかった理由が、ちょっと分かった気がする」
ユウマの足元には細く長い板。
板の下はどこまで続いているのか分からない闇。
つまり今、ユウマとミサキは崖にかかった細い板の上を慎重に進んでいるところだ。
ダンジョンの形状は、そのダンジョンによって大きく異なる。
陽光タワーの大規模ダンジョンは、とてつもなく大きな洞窟だった。
この『田神の林美術館』のダンジョンは、まるで外国映画の名作『インディージョーンズ』に出てきそうな谷と洞窟で出来ていた。
ポーターとしてのミサキの都合だけ言うと、洞窟はマッピングがやりやすい。どんなに広くても通路が空間を繋いでいるから。
一方、山、谷、湿原といった場所はマッピングが難しい。道なき道を進むのにマッピングもクソもないから。
「ハァ、ハァ。ほんと……ポーター殺しよね、ここ」
さらに、谷ともなると高低差は激しいし悪路も多い。
普段からそれなりにトレーニングをしているミサキでも息が上がる。
「道が狭いところも多いし……なにより罠が多すぎる。ここは不思議のダンジョンか」
落とし穴、人感センサーで矢が飛んでくる罠、モンスターでいっぱいの部屋、鏡の迷路、などなどローグライクゲームさながらの罠がところ狭しと設置されていた。
「モンスターは少なめで、罠ばかり。大人数のチームでブレイクする企業には不向きなダンジョンなのは確かね」
モンスターを倒して進めばいいシンプルなダンジョンとは違って、人数を集めた総戦力の高さがメリットにならない。
人数が多い方が罠にかかる確率もあがって被害が拡大する。
だからと言って、少人数なら楽にクリアできるというものではないが。
〔 なつかしい、匂いがする 〕
「え? ナイドラ、なにか言った?」
〔 いや、なんでもない 〕
「そうか? ……あっ。ミサキ、まただよ」
「うぅわっ、サイアク」
ユウマとミサキの目の前に広がっている沼地。
しかも本日3回目のご登場である。
大体、沼というのは低地にあるべき地形であって、谷間を歩いているところに沼が出てくるとは、一体どういう了見なのか。
もし、このダンジョンを設計したヤツがいるなら、小一時間ほど密室に閉じ込めて問い詰めてやりたい、とミサキの心は煮えたぎっていた。
ふたりが、ズブリ、ズブリ、と足を沼に出し入れしながら進むと、ついにボスモンスターが鎮座していそうな扉が現れた。
「ミサキ、あの扉って
「うん、そう……見える、けど」
視覚情報のみで言えばユウマの意見に異論はない。
しかし、ミサキには大きな不安があった。
(ちょっと簡単すぎない?)
この『田神の林美術館』のダンジョンは、訳アリ案件だ。
国内トップクラスのダンジョンブレイク企業がブレイクに失敗している。
ここまでの道のりが楽だったとは言わないが、果たして大企業のブレイクチームが断念しなくてはならないほどのものか、という疑問が湧いてくる。
別に一度ブレイクに失敗したところで、ダンジョンの構造が分かれば最適なチーム編成で何度だって挑戦すればいい。
それを断念しなくてはならないほどのなにかが、このダンジョンにはあるはずだ。
「ミサキが言いたいことは分かった。でも、この扉を開けないって選択肢は――」
「無いわよね。うん、それも分かってる」
ノワールサイクロプスのようなヤバいボスがいるのか、とんでもない罠が仕掛けられているのか、危険を承知の上でもこの扉を開けないことには先へ進めない。
慎重に開けて、慎重に進む以外の選択肢は無い。
岩壁にはめ込まれた黒い金属の扉をゆっくりと開く。
そこに広がっていたのは――扉の同じ幅の通路だった。
薄暗いが前方20メートルくらいの間に分かれ道が3本ある。
おそらく、それぞれの道からもさらに分かれ道が続いているのだろう。
赤茶色のブロックに囲まれた通路だらけのフロアは、まるでゲーム用にマッピングされた迷路のようだった。
「これは……迷路? って、なんだこれ!?」
扉の奥にふたりが足を踏み入れた途端、足元が青く光り出した。
「もしかして、転移トラップ!?」
次の瞬間、ミサキは通路の分かれ道と思われる
――――――――――――――――――――
💀『田神の林美術館』のダンジョン
かつて「ダンジョンだからと言って、どこでも壁のある通路と部屋で出来ていると思うなよ」と驚かされたゲームがありました。
1995年にスーパーファミコンで発売された名作『不思議のダンジョン2 風来のシレン』です。
ダンジョンだと勢いよく飛び込んだら屋外ステージからスタートするという画期的なローグライクダンジョンゲームでした。続編も沢山出てますね。
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