第12呪 ミイラの王に呪われている💀


偉大なる王のミイラマミー・オブ・ザ・グレイトキング……さすがに相手が悪いわ、引き返しましょう」


 すぐに後ろを向いて、金の大扉に手を掛けたミサキの顔が青ざめている。

 ダンジョンの不思議な力によって、金の大扉はピクリとも動かなかったのだ。


 一方、このモンスターのことを知らないユウマは余裕の表情だ。


「そんなにヤバそうなモンスターには見えないけどな。この前のサイクロプスの方がデカかったし」


「見た目で判断しちゃダメ。ある意味ノワールサイクロプスより面倒なヤツよ。ていうか息吸っちゃダメ!!」


 ミサキが慌てて、厚手のハンカチでユウマの口元を覆う。

 もちろん、もう片方の手では自身の口元をしっかりと覆っている。


 マミー・オブ・ザ・グレイトキング(長いので以後、ミイラ王とする)は常に猛毒の霧を発生させている。

 ステータスベースでは決して強い部類ではないが、猛毒への対策がないと苦戦を強いられる。

 過去にいくつかのダンジョンでボスモンスターとして出現していて、多くの犠牲者を出している悪名高いモンスターだ。


 ボスモンスターがミイラ王だというのも、このダンジョンが放置されていた理由のひとつかもしれない。

 実績狙いの低ランクブレイカーや、レアアイテム狙いのギャンブルブレイカーでは太刀打ちできない相手だ。


 扉に閉じられた空間が、徐々に猛毒で満たされていく。

 ユウマもそこまでは理解できたが、遠距離から打撃を放てば問題無い――と思っていた、そのときまでは。



ウルトラアルティメットパンチふるほらはるひへっほはんひ!!」


 ユウマは口元をハンカチで塞がれたまま、邪龍のグローブのスキルを発動する。

 翔ぶ打撃がミイラ王を吹き飛ば――さなかった。

 打撃は狙っていたマトを大きく外れ、後ろの壁に大きなヒビを入れただけだ。


 残念ながらユウマには射撃や投擲の経験がほとんどない。

 高校でやってきたのは、空手とボクシングと剣道と柔道だ。

 せめて弓道をやっていれば結果は違ったかもしれない。


 ノワールサイクロプスのときは距離も近く、マトも8メートルとミイラ王の4倍は大きかったから、技術のないユウマでも簡単に当てられた。

 だが、10メートル以上離れたところにいる人間サイズのモンスターに飛び道具を命中させるのは至難の業だ。


 ミサキが目に涙を浮かべ、もう無理とばかりに首を振る。

 ユウマの息はもう少し持つが、このままでは時間の問題だ。



(これはまずい、非常にまずいぞ……邪龍、なんか他にスキル無いか!?)


〔 …………………… 〕


(おーい、悪夢の竜帝ナイトメアドラゴンエンペラーさーん?)


〔 …………………… 〕


(おーい、ナイドラさーん?)


〔 …………………… 〕


(もしかして、邪魔龍じゃまりゅうって言ったの怒ってる?)


〔 …………………… 〕


(ごめん! マジで謝るから! ごめんなさい!!)


〔 …………………… 〕


(ほんと、ごめんって! なんでもひとつ言うこと聞くから!!)


〔 なんでもひとつ……絶対だな? 〕


(約束する! 契約だ!!)


〔 ふん、ならば叫べ。契約者よ! 〕


〔 天を滅ぼす息吹ヘブンスデストロイブレスと!! 〕


ヘブンスデストロイブレスへふんふへふほほひふへふ!!」


 邪龍のグローブの5メートルくらい先から高熱の息吹が放射状に吹き出す。



(あっづぅぅぅぅ!!!)


 距離があるにも関わらず、ユウマは息吹の熱に顔をしかめる。


 ――あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙


 効果はバツグンだ!

 偉大なる王のミイラが熱に灼かれ、断末魔の悲鳴と共に崩れ落ちていく。

 同時に猛毒もすっかり消えてなくなった。

 ダンジョンの中では、モンスターが発生させた猛毒もそのモンスターの一部と判断されるため、本体の消滅と同時に消える仕組みだ。


 ミイラ王の体が消えたあとに薄汚れた包帯が落ちていた。


「もしかして、これがボスドロップ?」


「なんか、バッチィわ」


「せめてあいつと同じ金色だったら、高く売れたかもしれないのにね」


 金色のミイラ王からドロップしたのに、包帯の色が金色ではないことが、ユウマにはどうも納得がいかなかった。


〔 決めたぞ 〕


「うわっ、びっくりした。なにを決めたって?」


 考えている最中に、いきなり邪龍から話し掛けてきた。

 邪龍に助けて貰っているユウマが、対価を支払う時間がきたのだ。


〔 なんでもひとつ言うことを聞く 〕


〔 そういう契約だったな? 〕


(あ、ああ。そうだな。でも、あれだぞ、願いの数を増やせってのはダメだからな)


〔 当たり前だ、我が望みはひとつ 〕


〔 今後、お前の装備は我が決める 〕


「え!?」


〔 まずはその包帯を腕に装備せよ 〕


「えーーー!? マジで? 今後ずっとお前の好みで装備させられるの!?」


〔 そうだ、さっさとしろ 〕


 ユウマは渋い顔で、薄汚れた包帯を手に取ると、両腕に装備していたレザーのアームカバーを外した。


「……君、なにやってるの?」


 さっきまで遠巻きにしていたのに、自ら薄汚れた包帯を拾いに行き、あまつさえ腕に装備しようとしているユウマにミサキはちょっと引いていた。


「どうしてこうなっちゃったかなあ」


 死んだ魚のような目をして腕に包帯を巻くユウマを、ミサキは黙って見ていることしか出来なかった。


 ユウマの腕に巻かれた包帯が、邪龍のグローブの中二病っぷりを倍増させている。


「邪龍の呪い、恐ろしいわね……ぶふっ」


 ミサキは冷静を装おうとしたが無理だった。

 これを笑わずに見ろという方が酷である。


「でも、呪われた装備じゃないから、ダンジョン以外では外せるはず――」


 そのとき、数日ぶりに頭の中でメッセージボイスが流れてきた。


『 デロデロデロデロデーデン♬

  じゃりゅうは ミイラおうのほうたいに

  のろいを かけた!

  ※このそうびは はずせない 』


「お前が呪いをかけるのかよっ!!」


〔 我がグローブを映えさせる最高の装備だ 〕


「外せなく……なったわね……ぶふっ、うひ、うひひひひひ」


「ちょっとミサキさん、笑いすぎでは?」


「ご、ごめんなさい。だって、おもしろすぎ、あはははははは」


「ふふっ、あはははははは」


 ユウマも一緒になって笑うしかなかった。

 邪龍のグローブの力を見せるために来たダンジョンで、まさか呪いの装備が増えてしまうとは。

 だが不思議なことに、笑っていたら気持ちも前向きになるものだ。


 

 爆笑しているふたりの後ろで、金の大扉がギイィィィと音を立てて開いた。

 ダンジョン装備に身を包んだブレイカーが5人。

 そこにはユウマがよく知る人物の姿もあった。


「なんだか楽しそうだな、ユウマ」


「セイジ先輩! え? どうして先輩がこんなところに?」


「ちょっとユウマに話があってな……」


 セイジは小さく息を吸うと、ユウマに問いかけた。


「いいニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」




――――――――――――――――――――

💀ミイラ王の包帯

 薄汚れているのが本来の色です。

 この包帯は毒や呪いなどのデバフ効果に反応して金色に輝く性質を持っており、マミー・オブ・ザ・グレイトキングが黄金色に輝いていたのは、奴がデフォルトで撒き散らしている毒に反応しているからです。

 尚、この場合の「呪い」はあくまでステータスデバフ効果のあるスキルとしての呪いが対象となるため、装備が外れないの「邪竜の呪い」は対象外となります。

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