第6呪 タワーのボスは呪われている💀
――ダンジョン突入から6時間後
「喰らえ! グラビティクラッシュ!!」
ヤッくんが振り回しているハンマーに備わっている武器スキルが、6メートルはある巨大モンスター、
「いいね、ヤッくん。これなら届く! ブリリアントスラスト!!」
頭が下がったところに、サイクロプスの大きな目に向かって、セイジのレイピアが必殺の一撃を加える。
――グオオオオアアアァァァァァ
サイクロプスが断末魔の悲鳴を上げて、脚から崩れ落ちた。
倒れた身体が、つま先からサラサラと消えていく。
一方、ユウマの役目は今日も
ボス戦以外でも、エース部隊の邪魔にならないように周囲のゴミを排除する。
だが、いつものダンジョンと違ってゴミのサイズが大きい。
「ぬあああぁぁぁぁ! ハードクラッシュ!!」
ユウマは3メートルサイズのオーガの脚を狙って、武器スキルを放つ。
――グギャッ
スキルが直撃し、オーガが悲鳴を上げて膝をつく。
ユウマはすかさず追撃すると、その脳天に最後の一撃を加えた。
ミサキから聞いた情報を元に、大型モンスターにも通用する
コツコツ貯めていた貯金は空になってしまったが……。
「高坂さん、今日は調子いいっすね。これならランクも上がるんじゃないすか?」
「はははは、だと良いんだ……いや。絶対にランクを上げてみせるよ」
近くで戦っていたハタチ前後の若いブレーカーから声を掛けられた。
ユウマは、いつもの調子で保険をかけた返事をしようとして止めた。
ここで「だと良いんだけど」と言ってしまったら、また以前の自分に逆戻りする気がしたのだ。
自分はその程度。でもいつか何かが起こる。そんな淡い期待を抱いて一歩引いた戦い方をしてしまう、そんな自分に。
――さらに2時間後
ついに攻略チームはダンジョン奥の大空洞でボスモンスターを発見し、戦闘に入った。
陽光タワーのボスは、巨大な金棒を構え生意気にも鎧を着込んだ
サイクロプスの弱点である大きな目も、フルフェイスヘルムでしっかりガードしている強敵だ。
と言っても、ユウマが相手にするわけではない。
引き続きゴミそうじをするのがユウマの役目だ。
オーガに加えて、サイクロプスが出てくることもあるが、仲間のブレーカー達と協力してなんとか撃破出来ている。
これまでに倒したモンスターの数も、20を超えたはずだ。
そのほとんどが2~3メートルサイズの中~大型モンスター。
ここを生き残れば、間違いなくユウマのランクは上がる。
まさに正念場だ。
「ユウマ! そっち行ったぞ!!」
セイジの声で振り向くと、アーマードサイクロプスが5メートル手前まで接近していた。
「うっうわあああああ」
右に飛ぶべきか、左に飛ぶべきか。ユウマはとっさに前へ飛び込んだ。
アーマードサイクロプスが横に振った金棒は、ダンジョンの岩壁に直撃し、大きく壁が崩れ落ちた。
崩落した岩盤がアーマードサイクロプスの頭にでも直撃したのか、敵はフルフェイスヘルムを押さえて動きを止めている。
「あ、あぶなかった」
右に避けても、左に避けても、ユウマがあの壁のようになっていたに違いない。
運よくアーマードサイクロプスの股下を抜けたことで生き延びたユウマだったが、背筋にはベットリとしたイヤな脂汗をかいていた。
「ユウマ、よくやった! 相手は隙だらけだ!!」
動きを止めているアーマードサイクロプスに渾身の一撃を喰らわせるため、エースチームが素早く駆け寄ってくる。
「オッサンやるじゃん」
ヤッくんもニヤリと笑って、アーマードサイクロプスにハンマーを構える。
「喰らいやがれ! ハードクラッシュ!!」
ヤッくんの一撃が、アーマードサイクロプスの心臓部に直撃した。
――ゴオオオォォォォォ!!!
苦悶の声で叫ぶアーマードサイクロプス。
その頭部にあるフルフェイスヘルムにセイジがレイピアを構えている。
よく見ると、サイクロプス相手に使っていたレイピアとは
「はああああああ……ライトニングスラスト!!」
バチバチと音を立て、電撃をまとったレイピアが、フルフェイスヘルムの間隙を縫って、その大きな目に届いた。
――ググガガガガガガガゴゴゴオオオォォォ!!!
まるで巨大なイビキのような悲鳴が轟く。
アーマードサイクロプスが鎧の中で電撃に焼かれているのだろうか、悲鳴はしばらく続いた。
だが、やがて力尽きたアーマードサイクロプスは、ドズーーーンと大きな音を立てて倒れこむ。
「これで、終わったか?」
「リーダー、やりましたね!」
今回も抜群の連係プレイを決めたセイジとヤッくんが、倒れたアーマードサイクロプスの横でハイタッチをしている。
「君も生きてたみたいね。安心したわ」
ユウマの耳が、聞き覚えのある女性の声をとらえた。
いつの間にか隣に来ていたミサキが少しだけ微笑んでいた。
自分のことを心配してくれる人がいる、それが女性ともなれば否が応でも気分が上がるのが男というものだ。一般論につき異論は認めない。
「なんとかね。一瞬、死ぬかと思ったけど」
「あとでAmakusaで詳しく聞かせて」
滅多にない女性からの飲みのお誘いに、ユウマのテンションは上り調子だ。
(俺の人生、ついに運が向いてきたぞ)
自分本位な期待に胸を膨らませ、ユウマがニヤニヤしていると、ミサキが首を傾げていた。
「おかしい。ダンジョンが……ブレイクしない」
「たしかに。ブレイクしないっすね」
これは有り得ない現象だ。
通常、ボスモンスターを倒せば5分くらいでダンジョン化は収束を始め、30分以内に黒い霧は文字通り霧散する。
そして俺たちはダンジョンの入り口だった場所に戻される――はずなのだ。
しかし、今回は一向にその気配が無い。
「おい! これはどういうことだ!?」
ほかのブレイカー達が騒いでいる声がする。
だが、ダンジョンブレイクが起こらないことに騒いでいるわけではなかった。
「さっき倒したアーマードサイクロプスが消えないぞ!!」
倒したはずのボスが消えない。
ダンジョンブレイクが起こらない。
それはつまり――ユウマはひとつの答えにたどり着いた。
――――――――――――――――――――
💀アーマードサイクロプスのデザインイメージ
すごいざっくり言うと、90年代の少年ジャンプの大人気漫画で2022年にもアニメをやっている「ダイの大冒険」にでてくる鎧武装フレイザードみたいな感じです。
ガッチガチのフルプレートアーマー&フルフェイスヘルムで、ヘルムの隙間から
……あれ?急にザクみたいになっちゃいましたね。まあ、どっちでも良いです。
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