青に沈む

サカキヤヨイ

第1話

 もうだいぶ夜も遅いのに、その小さな公園は外灯と街の灯りに照らされて明るかった。闇なんてどこにもない。

 ベンチに座り込んで、真帆はため息をついた。唯一の財産である、ピンクのキャリーバッグを脇に立てかける。

「今夜は野宿か――」

 終電近くまで駅前をうろついたのに、誰も引っかからなかった。――今夜の寝床を提供してくれそうな人は。

 くたくたに歩き疲れた足元に深い溜め息を落とす。と、真帆の前にスニーカーが並んだ。男物……にしては、少し小ぶりな。

「おねえさん、ひと晩お幾らですか?」

「えっ?」

 真帆が顔を上げると、少年が立っていた。小学生か中学生。まだあどけない。

「さっき駅前にいたでしょう。男性に声を掛けては、断られていましたよね」

「やだ……見てたの?」

「おねえさん、車の免許はお持ちですか?」

「は?」

「もしお持ちなら、私と2日……いや、3日付き合ってください。代金は支払います」

「えっと……」

 家はどこ?パパやママは?と、聞かなかったのは、真帆自身が半ば家出するように飛び出してきたから。

「免許はあるけど、車がないのよ」

「大丈夫です。途中までは電車で行き、そこからレンタカーを借ります」

 少年ははきはきと話を進める。どうやら既に計画は出来上がっているらしい。

 面倒なことになったな、と思う反面、この不思議な少年の計画に乗ってみるのも一興かもしれない、と興味が湧いた。どうせ今日も明日もすることなどないのだ。ただ生きるために生きているだけ。

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