夢で見た怖い話

乾麺

逃げる夢

 夕暮れの住宅街。


 息を切らして走り続ける。

 どうやら知らない場所へ迷い込んでしまったようだ。

 夕焼けを浴びて見覚えのない路地を無作為に走る。


 ガヤガヤと怒鳴るような声が聞こえてくる、恐らく町の住人たちの声だろう。

 私は追われているらしい。


 歓迎されていないことはすぐに分かる。

 必死に走り回っているのに、は離れていくどころか近づいてくる気配さえ感じる。

 どうにかして、彼らの手の届かないところに逃げなければ。


 捕まらないように必死に逃げる、捕まっては何をされるか分かったものではない。

 私はこの町の住人ではないのだ。

 住人たちからすれば私は異物だ。

 たった1人の私に対して何人もの住人が追いかけてくる様は、はっきり言って恐ろしい。


 知らない路地を走る。

 右へ、左へ。

 もうどれだけ走っているのか分からないが、諦めてくれる様子はない。


 少しでも彼らから距離を取らないと。


 そう思って走り続けていると、前方の曲がり角からも人がやって来たようだ。


「早くコッチへ!」


 良く分からないが、助けてくれるのだろうか?

 当然知らない町に知り合いなどいない。


 しかし、このまま走っているだけでは拉致があかないし、藁にも縋る思いでその少女が居る曲がり角へ向かう。


 少女が私の前を走って先導する、迷いなく走る様は頼もしい。

 1人で逃げ回っていた時よりも、恐怖は感じない。


 少しは追っ手から離れただろうか。

 しばらく走っていると、少女は急に振り返って足を止めた。


「私が時間を稼ぐから早く逃げて!」


「一緒に逃げよう!」

 名も知らぬ少女だが見捨てる訳にもいかず、私は思わず声を出した。


「たった1人を集団で追いかけ回すなんておかしい!みんなを説得する!」

 少女は曲がり角で通せんぼするような形で何かを訴えかけている。


 追っ手が迫ってくる、考えている時間はない。今はただ逃げないと。


 走る、ハシる、はしる。

 なぜ追われているかも分からず知らない町を走る。

 ここまでくれば逃げきれるかもしれない。

 直線を全力で走る。


 少女が住人たちを足止めしてくれたようだ。

 さっきよりはずいぶん遠くに見える。

 夜になる前に、家に帰りたい。


 ──そして私は不恰好に、空に飛び込むようにして跳んだ。

 1mくらいの高さを地上から少しずつ飛ぶ、捕まりたくないその一心で。

 塀の高さを越えたくらいのところで、不意に左足を掴まれた。

 ここまで来て捕まる訳にはいかない。

 そう思って必死に抵抗しながら宙を泳ぎ続ける。

 靴が脱げるのも構わず少しでも高く、高く。


 どうやら手の届かない高さまでこれたようだ、マンションのベランダや電線が見える。

 これ以上は高く飛べなさそうだ。


 夕焼けの中を私は飛んで逃げた。

 住人たちが何か言っているがもう聞こえない。ようやく諦めてくれたようだ。


 少しホッとしてこのままゆっくりと飛んで帰ろうと思った。

 時間はかかるかもしれないがこの飛び方でしか、飛べないのだ。


 だからわたしは泳いで帰る。

 で……。

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