知らない間に最強

@kuzusaya

第1話

――20XX年、日本某所


流れ星が落ちてきた。空に見える巨大な塊を見て「あぁ、短い人生だったけど割と楽しかった…南無」なんて軽い気持ちで自分の死を悟っていたが、意外にも人類の諸先輩方は奮闘したため死ぬことはなかった。世界各国に隕石が落ちたようだったが日本は近海に落ちたようで大きな被害はなく、事件から一年もたった今では日本に住む人々はまた他人事のように被害者を追悼しているのであった。実に平和ボケした民族である。




「まー俺も他人事っすけどね」


「朝から独り言ですか?」




隕石の大災害のニュースを眺めながらコーヒーを飲んでいると、自室のベッドの方から声をかけられた。


澄んだその声の持ち主は、布団を身体にのせたまま寝ぼけた目でこちらを眺めていた。布団の隙間から見える肌色を見れば、その下が一糸まとわぬ姿だということがわかる。当然だ、昨晩のパートナーであり事が済んだ後そのまま寝たのだからその姿でも不思議ではないだろう。一つ不思議な点を挙げるとすれば、その髪と目の色であろうか。




窓から入る朝日に反射され、黄金に輝くそれはまさしくプラチナブランドの髪でありその瞳も金色で染め上げられていた。しかし、顔は日本人そのものであるので若干ミスマッチさが感じられる。彼女は生まれも育ちも日本の生粋の日本人らしい。免許証を見せられたので嘘ではないだろう。何やら最近急に黒髪黒目から金髪金目に変わったのだという。不思議なこともあるものだ。




「なんですか…? 今度はじろじろみて…ま、まさかまた朝から……!」


「違うからねー、そんなにお盛んじゃないからね」


「まったく男というものは…仕方ないですね、受け止めて上げるのも女のつとめ、覚悟は決めました。どこからでもかかってきてください」


「お盛んなのはどっちっすかねぇ」


「……ロリコンのくせに」


「おい、ロリコンはやめろロリコンちゃうわ」


「はいはい」




そう言って器用に布団の中で服を着て近くに置いてあった水を飲むと、とてとてと自分が朝食をとっているテーブルまで歩いてきてさっと隣に座った。用意しておいた簡単な朝食のパンをもしゃもしゃとほおばるその姿はまさしく小動物で…これ以上はやめておこう。


もう少し身長があれば金髪ももっと似合っていたかもしれない――顔が可愛いので今でも充分似合っているのだが――なんて考えていると、




「また異能力者が現れたんです」




なんてことを言ってきた。


そうこの世界には超能力を持った人がいる。所謂超能力者だが、超能力者より異能力者のほうが文字数が少ないためそう呼ばれている。呼ばれているといっても事実を知る者たちだけにだが。


異能力者は昔から存在したわけではなく、丁度あの大災害の後から急にこの世界に現れ始めた。まだ少数であるため世間は気がついていないが着々とその数は増えてきているのだという。




「今回はすぐに気がつけたのでなんとかこちらの組織に引き込めましたが、また例に習ったような人でして…」


「あーまたかー」




人は異能を手に入れると正義を為そうとするか悪に落ちるかするらしい。少なくとも金髪少女の周りではそのような話が絶えないようだ。また、正義の中にも力を過信し暴れだすような輩も多い。そうなると大体…




「軽くひねりましたけど。毎回これじゃ身体がもちません…せめて誰かさんがいてくれれば私ももっと楽になるんですけどね」




そう言ってジトーっとした目を向けてくるこの金髪少女は、太陽を司るという――よくわからないがとにかく凄そうな――異能をもっており、齢20にして正義の組織の創始者である。




――なぜか自分も創始者の一人らしいがまったく身に覚えがないので何かの勘違いであろう。




「りおんちゃんがいれば充分だよ」


「まったく他人事みたいに…」




金髪少女こと相坂りおんは諦めたようにため息をついているが、ほんとに他人事なので気にせずコーヒーを楽しむ作業に戻るとしよう。




その様子をみた相坂はもう一度ため息をつくと机に置いてあった、俺のスマホを何やらいじり始めた。


「また知らない女の名前が」「私というものがありながら」何やらぶつぶつ言っているようだが、よく見る光景なのでそのままにしておいた。とにかく今はコーヒーが美味すぎる。人類はコーヒーを飲むために生まれてきたのかもしれない。そんなことを考えているとスマホチェックに満足したのか相坂がじーっとこちらを見ていることに気がついた。




「ん? どしたの」


「りゅうやさん、相変わらず…顔はかっこいいですよね」




どこか惚けたようにそう言う姿は何やら面白く思わず笑ってしまった。




「笑った顔も素敵です…こんなのずるいですよ」


「まーそれしか取り柄がないからね」


「そんなことないと思いますけど」




勉強はある程度頑張っていたが結局ある程度で終わってしまったし、スポーツも人並みにできるが、結局は人並みであった。そんな自分にとって容姿だけが取り柄であることは間違いなかった。幼いころから美容に気を使い元からの容姿も悪くなかったため今では10人の女性とすれ違えば8人は振りかえるようなレベルにまでなっている。努力は実を結ぶこともある。




まだ、惚けたような表情で顔を眺めている少女に


「そういえばなんで隣に座ったの、前の席の方が広く使えたのに」


と問いかけると






「だって」少女は少し照れたように「こっちのほうがキス、しやすいじゃないですか…」






なんだこいつ可愛いな

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